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       夕張(1667.7m) 

雨霧山から夕張岳を望む

 1/25000地形図「夕張岳」「滝ノ沢岳」

奥鹿島林道入口付近の退避帯に車を駐める
林道終点付近から入渓する
F1 は清涼感のある気持の良い滝

 【ペンケモユーパロ川を行く】 夕張岳へ行くのであれば、ペンケモユーパロ川か日陰の沢からの遡行をと考えていたが、両方の沢をそれぞれ二回ずつ経験しているチロロ2さんによれば、両方とも何もないとのことだった。ただし、日陰の沢についてはアプローチに難があり、車の回収で苦労するらしい。どうせ何もないのであればと、今回は夕張岳登山口への途中から入れるペンケモユーパロ川に入ることにした。車二台で登山口へ向かい、下山用の一台をそこ置いて、約4km手前の奥鹿島林道入口近くの退避帯にテントを張る。朝は夕張岳登山口に向かう車が多く、交差するのが難しいと予想されるからである。なんせ、この山は「日本三百名山」(1975年/日本山岳会編)の一つ、「花の100名山」(1985年/田中澄江著)にも顔を出す。花の時期は終わりかけているが人気の高さは我々の想像を遥かに超えている。昨年は花の時期に夕張岳を目指そうとやって来たが、溢れる車に駐めるところが見つからず、林道にて引き返している。

この日多く見られたユウバリキンバイ
F2 は小さいが見ていて楽しい滝

予想的中、翌朝はテントの横を多くの車両が通過して行く。ここは経験則がものを言う。私は奥鹿島林道の存在を知らなかったため、この川はかなり長いだろうと覚悟していたが、全行程(鹿島林道入口〜ガマ岩付近)の1/3は林道歩きであった。コンタ550m付近の沢の方向が東側へ向く地点まではしっかりとした道路があり、崩壊地点を過ぎてから道路は荒れて消えている。両岸は平らになっているため、ひょっとしたらまだ続いているのでは…とつい考えてしまうが、この先に道路はない。黒っぽい岩盤の細い流れの中を上流へと向かう。最初の変化は650m〜700m付近で小さな滝が三つほど続く。この中では最初の滝が大きく、左岸の直登も可能であるが、序盤戦から濡れるのは御免なので右岸の残置ロープ側から登って滝の上部で直接落ち口へと抜けることにする。気温が高かったこともあって水飛沫はミスト状に舞い上がって清涼感は抜群、実際以上の迫力を感じる。後の二つは小滝であるが、何より見ていて楽しい。チロロ2さんにとってこの程度では、2回通過しても記憶にも残らないということなのだろう。

 コンタ750m付近のゴルジュ状の小滝を過ぎると巨岩帯となる。北面の日陰の沢にも巨岩帯の通過があるとのことだが、山域自体が同じような変転を繰り返しているのだろう。ゴーロを過ぎると沢相は一旦落ち着くが、直ぐにさらに大規模な崩壊地となる。ダケカンバなどの樹木もなぎ倒されており、この崩壊はそう遠い昔の出来事ではないようだ。標高はぐんぐん上がっているので、崩壊前は小滝が連続する楽しい沢だったのかもしれない。夕張山地自体が大規模な地滑り地形からなっており、大雨による崖崩れや鉄砲水等の何らかの自然現象によってこのような殺伐とした光景を作り出してしまったのだろう。正に廃墟といっても良いような荒れようだ。ちなみにコンタ950m付近にこの沢唯一の滝マークがあるが、この辺りは完全にゴーロに埋まっている。

 この新しい崩壊地を通過すると大岩を縫うような小滝の登りとなり楽しませてくれる。これを登り切ると登れない細い10mくらいの滝が現れるが、右側からは容易に巻くことが出来る。ここを訪れた他のパーティも右側を巻いているようで、何となく踏み跡のような感じとなっている。すぐに二股となっているが、ここは左股が正解とのパーティ内の認識。ただし、ここは悩んだところ。慎重派の山遊人さんは特に悩んでいたようだ。10mくらいの枯滝の左岸を階段状に登る。前方にガマ岩かと思える岩峰が見えるが、何と前岳とのこと。頭の中での方向修正が必要なようである。そちらへ向かう沢形へは入らずに開けたコルぽい右側へと続く小沢を進むことにする。

 私とチロロ2さんはそのまま進むが、後続がなかなかやって来ない。聞けば途中に明瞭な踏み跡があったとのこと。山遊人さんの推理では「ここは多くのパーティが間違えやすいところ。その多くのパーティが途中でこれに気づいて修正のために藪を漕ぎ、徐々に踏み跡となったのではないか」とのこと。となれば、確かめずには前へ進めない。結果的にはシカ道で、直ぐに藪漕ぎとなる。ただし、一つ前の二股は枯れていた右股が正しく、彼の読みの通りに二股付近で伏流となっていたようで、藪を漕いで飛び出した右股の上流には水流が戻っていた。この推理にはパーティ全員、ただ唖然とするばかりだった。山遊人さんのぶれることのない方向修正能力が生み出したストーリーと言えるだろう。

途中からはゴーロ帯となる 一息ついた後はさらに規模の大きな巨岩帯の通過となる
崩壊地点を過ぎると現れる登れない滝 枯滝を過ぎると詰めは近い

 後は水流のある方へと進めばチロロ2さんの言う“笹のトンネル”を潜って登山道へと飛び出すはずだった。ところが、水が切れるあたりから怪しくなる。沢形のはっきりしている方へと進んで行くうちに草地が出てきて、時期の過ぎたミズバショウやヒグマの糞など、登山道が近いことをうかがわせる雰囲気となるが、方向的にガマ岩は右方向。チロロ2さんの話では前回の時はガマ岩のすぐ横に飛び出したとのこと。であればと、尾根を登ることにした。これが失敗だった。強烈な根曲がり竹の藪への突入となる。後で振り返れば、ガマ岩付近に飛び出すのであれば白金川を詰めなければ到達するわけがなく、この時にたとえ少々遠いところに飛び出していたとしても登山道があり、それは表現的には確かにすぐそこだった。私の中途半端な思考が藪も登山道歩きもごっちゃに考えてしまったようだ。ハイマツ混じりの藪漕ぎは辛いが、距離的にはわずかなもの。結局のところ、藪山派としては落ち着くところに落ち着いたというところだろう。

 近いと思う程に遠く感じるのが藪漕ぎである。途中、尾根上からガマ岩が見えた。それなりに距離がありそうだ。先頭を山遊人さんに交代、寡黙な彼も「なかなか登山道が出てこない…」と一言。そうだ、そうだ…まだまだ遠いんだ、そう思いながら楽しむのが藪山歩きの極意といえる。藪をかき分け進んで行くうちに、先頭を行く山遊人さんからの「木道が見えた」との第一報。前岳湿原付近の登山道に到着である。早速、開放感溢れる木道の上で持ってきた「金麦」に手を付ける。この日の山行はここで終了とする。なぜなら、ペンケモシューパロ川を遡行できた満足感だけで十分だったこと、山ガールも往来する賑やかな山道にダニをくっ付けたワークショップスタイルは似合わず、私は年甲斐もなく自慢の“mont-bell”にでも着替えてからの再登場が良いと思ったことであった。(2012.07.29)

 

今回は1人、夕張岳登山口のゲート前に車を駐める
ミヤマリンドウが咲き乱れる
前回飛び出した地点、ここからのりスタートである

【完結編】

  登山は頂上を踏まなければ完結しない。これは何かの本で仕入れた言葉だが、未だに私の頭の中にはこの言葉が居座り続けている。いつでも踏める夕張岳の頂上ではあるが、ペンケモシューパロ川の記憶が新しいうちにと、「明後日ですが、晴れたら休みを頂きたい」と職場には休暇を願い出た。雨天なら当然のこといつものように出勤である。“○○岳の天気:Mapion天気予報(マピオン)”の○○に夕張と入れて検索する。ネット時代の便利さで、二日前くらいであれば精度の高い予報を入手することができる。明後日は晴れの予報、さ〜て、“mont-bell”を着て表参道からの夕張岳としよう。

 ところが、早朝発の予定が、少々寝坊をしてしまったためにいつもの出勤時間に家を出ることになる。平日の朝、ラッシュ時間帯では車は思うようには走れない、何とかたどり着いた夕張岳への鹿島林道も工事車両が入っていてこれまた予想外であった。嵩上げ予定のシューパロダムだが、夕張岳登山者のために新しく橋を掛け直しているのかと思いきや、廃棄物の最終処理場を造っているようだ。そのためか、ガードマンまで立っていて、少々物々しい雰囲気である。結局、ゲート前着は9時20分、この山へのスタートとしては大きく出遅れてしまった。

 とにかく今日のノルマはピークを踏むことに尽きる。荷は出来る限り軽くと思ったが、道中一人なのであれやこれやでいつもと変わらぬ重さとなる。前岳湿原までは先日見たばかりの景観なので、ここは端折ることにして出来る限り急ぐことにする。最終引き返し時間を14時とし、そそくさと車を後にする。ゲート横の登山届けのポストの確認に森林管理所の職員がやって来た。形ばかりかと思っていたが、我々登山者のために期間中は平日でもこうして確認作業を続けているらしい。まったく頭の下がる思いである。「先日は時間がなくて登頂できなかったので、今日はリベンジにやってきました!」…9時半スタートでは説得力に欠ける言葉だったかもしれない。  

釣鐘岩まで来れば頂上は近い 一等三角点「夕張岳」と後芦別山群の山々

   とにかく「マイペース、マイペース」、自分に言い聞かせながら、せっせと足を運ぶ。望岳台まで1時間20分、前岳湿原へはさらに20分で到着する。さて、ここからが先日のペンケモユーパロ川からのリスタートとなる。ガマ岩までは登山道に飛び出した地点から7〜8分、確かに近い。ガマ岩へは薄っすらと踏み跡が見られるが、このトレースは次回の楽しみとする。ここまで来ればそう急ぐ必要もないのだが、一人だと休む気にもならない。ガマ岩付近からはミヤマリンドウが随所に見られ、花を眺める余裕も出てくる。1400m湿原から釣鐘岩にかけては2010年にヒグマが出没したと注意を促す掲示が登山口にあったが、不謹慎かもしれないがあまり恐ろしさは感じない。昨年秋には私の住む北の沢や川沿の市街地にもヒグマが出没している。こんな山の中、ヒグマが出没したとて何ら驚くことではないような気がする。

 30数年ぶりの夕張岳となるが、頂上の様子はまるで覚えていない。吹き通しと呼ばれる砂礫地を過ぎるといよいよ本峰への登りとなる。緩い登山道をたどるとこれまたヒグマが居座ったと書かれていた「夕張獄神社」が現れる。ここから頂上まではひと登りである。妙な新鮮さがあり、本音で言えばこのホームページのためでも、意固地になったわけでもなく、やはり純粋に頂上に来てみたかった。晴れていれば出勤途中で遥か遠くに見える夕張岳だが、そんな時間帯にいつも見ているから余計にそう感じるのかもしれない。白く輝く季節は特に素晴らしく、常に私の憧れのピークであり続けた。ハイマツの中の小道を辿ると頂上を示す棒杭が真正面に現れる。つまらないウイークデイの中での正に夢のような瞬間であった。(2012.8.9)  

夕張岳山行・写真

7/29 奥鹿島林道入口 6:35 → 入渓地点 7:30 → F1 8:25 → 前岳湿原 13:25 、〃発 14:00 → 夕張岳登山口ゲート 16:00  (登り5時間55分 下り2時間 )メンバー山遊人さん、キンチャヤマイグチさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)   8/9 夕張岳登山口ゲート 9:35 → 前岳湿原 11:15 → 夕張岳頂上 12:10 、〃発 13:00 夕張岳登山口ゲート 14:40  (登り2時間35分 下り1時間40分 )メンバーsaijyo

 

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