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      和寒(740.0m)

JR 塩狩駅から望む和寒山

    1/25000地形図「蘭  

塩狩駅正面に車を停めさせてもらう
駅のホームでスキーを付けて、いざ出発進行!
最大の難所?高速道路高架下を通過
雪の舞う音でさえ聞こえてきそうな静かな一本道を…

和寒山は三浦綾子の小説で有名な「塩狩峠」を眼下に納めることが出来るピークである。100年前の凄惨な事故を静かに見守っていた山ではあるが、どこにでもありそうな南北に細長い里山である。頂上にはマイクロ波の反射板が設置され、目立たぬ山容であるにも関わらず、何処からでも指呼することができる。また、立派に一等三角点の山でもあり、展望はまずまずといったところだ。山遊人さんからの書き込みで知ったが、この山にも昭和39年に国設スキー場が設置されたそうであるが、設備の老朽化とともに利用者が減少、他の多くの国設スキー場同様に何時の頃か廃止となってしまったようだ。

地吹雪の中、一路頂上へ マイクロ波の反射板が出現、やった、頂上だ!
強風吹きすさぶ頂上にて 気が付くと塩狩峠付近が…

2月16日付の朝日新聞・朝刊に「塩狩峠・犠牲の心・100年」という記事が載っていたため、さぞかし賑わっていることと思い込んで現地入りしてみたが、塩狩駅周辺は雪深く、いたって静かな山里そのものであった。除雪作業にあたっているJR職員に車の停車場所を尋ねたてみたところ、駅正面に停めてもよいとの返事。それだけ来訪者も少なくひっそりしているということだ。駅周辺に踏み切りはなく、駅の構内を渡っても良いとのことで、9時40分発・名寄行が出て行ってから線路を渡ることにする。ホーム以外に除雪スペースはなく、ホームでスキーを付けてのスタートとなる。最初から知っていれば、JRを利用するのがベストチョイスだったのかもしれない。

ホームを一歩飛び出すと、直ぐに深いラッセルの冬山モードである。トドマツの針葉樹林帯の中、雪の舞う音でさえ聞こえてきそうな静かな一本道を和寒山へと歩を進めて行く。最初の難所というか、ルート中で一番苦労したのが高速道路の横断である。さすがに高速道路の路上をスキーで横断するわけにはいかず、ただ一ヶ所の高架下のトンネル通過は不可避である。上手い具合にそのトンネルに出くわすが、この地域は積雪が多く、雪のないトンネル内への段差が3〜4mはありそうだ。トンネルを出てそのまま尾根に取り付けば旧国設スキー場だが、悪天候の中ではあまり稜線上を歩きたくないので、直接頂上へ向う尾根末端まで高速道路沿いに移動する。おそらくドライバーからは、何らかの作業でもやりに現場へと向っているのだろうと映ったに違いない。

尾根末端付近は立派な針葉樹林帯となっている。例年であれば、この時期にはスノーブリッヂが発達し、難なく小川を渡渉できるところだが、今年の冬は明らかに積雪も少なく暖冬といえる。川面があちこちに現れ、油断すると雪面がすっぽ抜けることも度々である。意を決して渡渉を試みるが、明らかにブリッヂの雪面は低く不安定極まりない感じである。針葉樹林帯は長くは続かず、斜面に入ると若木の森林帯となる。斜面は徐々に傾斜を増し何度か作業道を通過するが、斜面自体がおおむね緩く作業道を利用するほどのことはなさそうだ。前方には丘状となった尾根上の高みが二度三度と現れ、このときばかりは大きくジグをきって登らなければならない。最後は南からの強風を受けながら、広い稜線上へと飛び出す。

頂上へはやや距離がありそうだ。密度の濃い締まった雪質では確かにラッセルも重い感じではあるが、今か今かとの逸る気持が余計に頂上を遠く、足を重たく感じさせているのかもしれない。この際、腹をくくって修行僧のように黙々と進んで行くより他に術はなさそうだ。少し間が開くと先を行くメンバーの下半分が地吹雪に霞んでしまうような強風の中、一路最高地点へと向かって進んで行く。

ふと見ると間近に反射板が現れる。待ちに待った頂上到着のようだ。反射板の南側・少し高くなったところが最高地点である。吹きっさらしではあるが、とりあえずは踏むことにしよう。悪天候の予想の中、3週間ぶりで新ピークが踏めたことにはまずまず安堵である。忘れてきた頂上ビールが何とも悔やまれるところだ。気が付くと、眼下には出発地点である塩狩駅付近がボーッと姿を現していた。(2009.2.22)

殉職碑は深い雪の中

【小説「塩狩峠」】

三浦綾子の小説「塩狩峠」は、敬謙なクリスチャンであった主人公・永野信夫(実名は長野政雄)が逆走する客車を線路に身を投じて停止させ、乗客の命を救ったという実話に基づいて書かれた小説である。この小説を初めて読んだ若い頃には少なからず感動を覚えた記憶がある。ただ、クリスチャンであることがいささか強調され過ぎているところには少々違和感を感じていた。私が思うに長野氏は心底純粋な人間であり、それ故に結果として信仰心も人一倍強かったのではないかと推測している。昨今の他人のことを考えなくなったといわれる時代にあっても、ホームに転落した人間を長野氏同様に線路に飛び降りて救ったというニュースはしばしば耳にする。ここには信仰心とは別に、人間は本来は善であると信じ続ける信念やある種の使命感が見え隠れする。目の前で起こった突発的な出来事に対し、何とかしなければ…といった衝動、これこそが人間の人間たるところであり、人間が本来備わっているはずの本能であると感じる。年齢的にも純粋さとは程遠くなってしまった現在、そんなことをしみじみ考えさせられる塩狩峠事故からの100年目である。

 【参考コースタイム】JR塩狩駅 10:10 高速道路高架下 10:40 和寒山頂上 12:40、少し移動…〃発 13:00 高速道路高架下 14:00 JR塩狩駅 14:20  (登り 2時間30分、下り 1時間20分)

メンバーsaijyo、チロロ2、Isidさん

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