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      有珠(733m)

 

壮瞥町側から望む有珠山

    1/25000地形図「虻 田 

駐車地点からは洞爺湖が素晴らしい
泥流防止工事用の作業道路をバスで進む
洞爺湖を背に枯れた沢形を登る
大有珠頂上は岩峰となっている
銀沼火口と背後に広がる内浦湾 銀沼火口外輪から有珠新山
オガリ山から望む伊達市街と室蘭 G8の会場となったウインザーホテル(左)と昆布岳(中央奥)

道内に常時観測火山に指定されている火山は五つあるが、その中でも有珠山は1977年と2000年に大噴火しており、人里に近い活火山ということもあって記憶にはかなり新しい。1977年の噴火では札幌の街にも降灰して、この時ほど火山というものが身近に感じられたことはなかった。また、2000年の噴火では事前に噴火を予知、当時北大有珠火山観測所所長であった岡田先生の的確な判断によって噴火による直接の犠牲者は1人も出さなかったという。しかも、この時の噴火口は住居地までわずか700mという至近距離であったというから驚きである。岡田先生の講演では、同様のことは明治の噴火の時にもあり、この時に判断を下したのが当時の室蘭警察署の署長で、事前に火山に対する学習をしっかりとしていた人物だったとのこと。火山に対する正しい認識の重要性をつくづく感じさせられる逸話である。また、この地区で行われた予知と避難は世界でも始めてのケースとのことで、活火山と人間とが上手に付き合ってゆくことの大事さを実例を通して教えてくれる希少な地域となっている。

昨年八月には「洞爺湖有珠山ジオパーク」として世界ジオパークネットワークに登録、単なる観光地としてだけではなく自然資源(火山地形)に対する理解、さらに自然資源と人間との関わりについての理解や啓発などに主眼が置かれた火山公園化をめざしているようだ。私も昨年から「そうべつエコミュージアム友の会」に参加させてもらっているが、少なくても火山といった一般的にはマイナス面ばかりを考えがちな要素も、ここでは逆に貴重な財産とさえなっているように感じられる。なお、山名の有珠は「ウス」「ウシ」で、アイヌ語で入り江や湾を意味し、噴火湾周辺の地形からの名と考えていたが、有珠山全体がもちをつく臼の形に似ていたからという和名説もあるようで、本当のところは判らない。

今回は世界ジオパーク認定記念ジオツアー有珠山学習会に参加ということで約40年ぶりに有珠山へ入る。大有珠頂上周辺への一般の立入りが現在も禁止されていることもあって、なかなかこの山へ登る機会には恵まれない。40年前には学校の宿泊研修の一環として、登山学習との名目で一度登ったが、火山のわりには緑が多かったという記憶が残っている。今回は泥流対策のための作業用の道路をバスで奥深くまで乗り入れる。岡田先生はじめ地元自治体の関係者も大勢参加しており、登山というよりは学習会といった色彩が濃い。

途中、小有珠近くの外輪でバスから降りる。以前は緑濃き樹林帯となっていたところであるが、現在は火口から噴煙が上がり、以前の面影は全くない。付近の地面を手で触ってみるとまるで床暖でも入っているような暖かさで、温度計を地中へ入れると30cm程度の深さで96℃もあった。バスは北外輪の第4火口付近まで乗り入れ、そこから有珠新山を右手に馬蹄状の中の沢形斜面を登って行く。荒涼とした緑のない地形の中にも苔類を始めとする植物が根付き、一面見事なじゅうたんとなっている。泥流対策用の大きな波消ブロックが無造作に置かれているが、運んできたものではなく、この場で作られたとのこと。

当初の予定では有珠新山も登ることになっていたが、時間の都合でそれはカット、噴煙を上げる銀沼火口の外輪へと登る。ここは大きく隆起したところで、短時間での地表の隆起では申請さえすればギネスブックに載るらしい。マグマによって押し上げられた地殻が洞爺湖側に大きくせり出したようで、有珠新山(道内では人工のモエレ山に次いで新しい山)が誕生し、何世代にも渡って積み重ねられてきた火山灰による地層がむき出しになっていた。代わりに対岸の小有珠が沈没したそうだが「動かざること山の如し」といった中国3000年の知恵もここでは全く通用していないようだ。外輪の痩せ尾根上の歩行はかなり危険とのこと。植物の根は張っているが、周りの土が崩れ去ってしまったためで、根しか残っていない状態とのことである。下手に歩くと火口側へまっさかさま、ちょうど厳冬期の雪庇歩きと同じようなテクニックが必要のようである。馬蹄の一番奥・オガリ山へと斜面をトラバースする形で向かうが、慣れていない向きには少々辛い歩きであろう。

有くん火口のエメラルドグリーンが美しい 約45年ぶりに岡田先生と再会

オガリ山からは室蘭、伊達方面の展望が広がる。樹木がないだけに展望を遮るものは何もない。ここから大有珠山頂まではほぼ真っ直ぐに登って行く。頂上は尖がった岩峰となっていて、360°の展望が広がる頂上らしい頂上である。ここの眺望のメインはやはりで眼下に広がる大きな洞爺湖で、大きく広がる内浦湾や雲に隠れて見えないが後方羊蹄山やニセコ連峰も含めて第一級といえる。50名以上が参加する今回の会では登頂も順番待ちとなるが満足感は一入だ。気になったのがすぐ横の大岩で、ひょっとしたらこちらの方が高いのではないかと思ったが、この大岩に登るにはそれ相応のしっかりとしたビレーが必要である。

話は逸れるが、岡田先生が山を好きになったきっかけとして、子供の頃にコケを研究していた先生に山へ連れて行ってもらったという体験があり、その後の自然科学への興味の扉を開いてくれたということが2000年10月の読売新聞に載っていた。今でも先生は子供を対象とした火山の学習登山会を毎年のようこの山で開催されているとのこと。思えば、私も先生に山の素晴らしさを教わった一人で、子供心に自分の想像を超える山に登ったという経験が大きな体験としてその後も生き続けている。色々な意味で山が自分の人生にとっては大きな財産となっていることは言うまでもない。この有珠山周辺がジオパークとして多くの子供たちにある種のきっかけを作り、夢や興味を育む場となってほしいと願わずにはいられなかった。(2010.5.9)

 

【参考コースタイム】

9:30 バス乗車、出発 木の実の沢経由
10:30 北外輪山(第4火口)到着
    【洞爺湖、洞爺カルデラ台地、明治新山(四十三山)、昭和新山の眺望】
12:30 有珠新山 〜 大有珠山頂 昼食
13:00 下山開始
13:30 第4火口着 バス乗車
14:00 金比羅火口フットパス 〜 災害遺構群
15:00 バス乗車
15:30 そうべつ情報館 i (アイ) 着

メンバー】総勢56名 (saijyo、チロロ2が参加)

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