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    932m峰「右左府」(932.3) 〜日高町の隠れた名峰

 

   

   

932m峰「右左府」を望む

樹海ロードから 932m峰「右左府」を望む

 1/25000地形図 「日 高」  

林道は倒木で途中まで

  樹海ロードを日高町へと向かい、胆振福山を過ぎて、穂高トンネルを貫けると右手に鋭角的な山々が見えてくる。932m峰「右左府」を中心とする山群で、いずれも名のない山ばかりだ。8年ほど前に登った名石駐車場の793m峰もこの山域の1つで、無名峰とはいえ一度その山容を目にしてしまっては、いやが上にも登高欲がそそられる一山であった。今回登ったのは山域の最高峰・932mピークで、つい先日偵察したばかりの右左府林道からのアプローチである。この林道は取水施設があるためか、入口で施錠されており、入るには入林許可が必要だ。国道から林道を少し入ると支線である水道の沢林道分岐となる。地形図には水道の沢林道の方のみが載っている。水道の沢林道に入ってからは左岸側からの落石で、さすがに怪しい感じとなる。落石を避けながら恐る恐る進んで行くうちに、倒木によって完全に行く手を塞がれる。この日は午前中にトマム・丸山を雨の中登っており、12時スタートでは時間的に余裕がなく、あくまで偵察目的であった。

左手に南峰を見ながら急な斜面の笹薮を漕ぐ

 倒木地点からはすぐに450m二股となる。Ikkoさんは右股からの沢ルート、私は正面の尾根に取付いて籔漕ぎでの突破を考えていた。だが、地形図上の林道終点を過ぎてもさらに林道は左股へと伸びている。こんな場合のセオリーとして、やはり利用可能な林道があればそれを使ってみるというというのが筋というもの。車の通行は不可であるが、人間が歩く分には立派過ぎる“登山道”である。終わりか… と思いながらもなかなか終わらないこの林道、結局、コンタ550m、頂上までの距離約850mで土場となって終点となる。意外に距離を稼いだことでちょっと得した気分、偵察といった名目もどこへやら、である。土場からは枯沢となり、さらに奥へと進む。この頃から雨脚が強まり、止めようか? の会話。もちろん双方ともそんなことなど微塵も考えていない。

林道終点からは枯沢にルートを取る

  沢形が狭まり、頂上は見上げる感じだが距離だけはかなり縮まったようだ。雪渓が現れた。何とも嫌な気分である。この時期ともなれば雪渓もかなり脆くなり、注意していなければ踏み抜くことも多い。ルートは雪渓幅に対して1/4もしくは3/4と自分に言い聞かせつつ、慎重に雪渓上を通過。結果的にはここだけだった。沢形はその後も細々と続き、距離的なものだけを考えれば登頂の可能性も見えてくる。ふと気が付くと、左手には見事な鋭峰が笹籔の間から見えている。しかも自分の位置から考えれば目指す頂上よりも遥かに高そうな感じである。Ikkoさんは最高峰を間違ったのではないかと私を疑っている様子。地形図を取り出し、位置と標高を再確認。見えている鋭峰は目指す「右左府」の南峰で、本峰よりは10mほど低い。私も地形図が間違っているのではないかと、つい疑ってしまったほどだ。

 この疑いが払拭されたのは笹薮漕ぎとなってからだ。けっこうな急登がしばらく続き、南峰との感覚的な段差が叙々に埋められて行く。こちらもそれなりの鋭峰なのだと、この時になって初めて気付かされた。そうこうしているうちに前を行くIkkoさんから稜線に出たとの報。「やばい」を繰り返すIkkoさん、行ってみると確かにやばかった。何がやばかったか? ストンと切れ落ちた痩せ尾根上に飛出したことも然ることながら、一番の驚きはやはり稜線上からの眺望である。そもそもがあまり期待していなかった名もない藪山だっただけに、ここからの眺望は半端ではなかった。道内各地の地域を代表する名峰のそれと比べても、決して引けを取らない素晴らしさがある。普通はあまり見ることのないアングルから見ているだけに、山々それぞれに新鮮そのものだ。日高山脈側の名立たる山々はあいにくの低い雲の中で、残念ながら見ることは叶わない。だが、いつも樹海ロードから眺めていた鋭鋒群は間近に大迫力で迫って見える。しばしその光景に見惚れてしまった。

二等三角点「右左府」と「金麦」
二等三角点「右左府」と「金麦」

 さあ、次は頂上である。稜線上からはさらに一段高い高みとなっており、その痩せた姿はなかなかのものだ。幸いなことに獣道が続いており、右側の崖に注意しつつ慎重に登り詰める。二等三角点「右左府」はしっかりと地面から頭を出していた。私はいつもの頂上グッヅズ「金麦」と「右左府」とのコラボ写真、Ikkoさんは写真のさらなる題材探しで南峰側へと向かう。不謹慎かもしれないが、「右左府」に腰掛けて飲む金麦は特別の味わいがあった。改めて地形図を眺めてみると下山は南峰側の笹斜面を下った方が効率的な感じである。見れば、わりと新しそうな植林地が登って来た小沢の右岸側の斜面に広がっている。必ず歩道も整備されているはず。まずは、そこを目指して真っ直ぐに笹薮斜面を下れば良い。戻ってきたIkkoさんと協議、さっそく植林地を目指して藪漕ぎの開始とする。

 斜面が急であればあるほど下りの藪漕ぎは楽なもの。植林地へはわずか25分で到達する。植林地からは案の定、歩道が続いていた。途中、ヒグマの糞が1ヶ所、出たところは林道終点の土場であった。雪渓も小滝もパスした形である。今後、この山へ向かおうと考える岳人がいるとすれば、この歩道の利用がお勧めである。本峰、南峰をつなげる形での山行を組んだ場合、その満足感は折り紙つきと言えるだろう。(2015.05.17)

 ※日高町の旧地名は右左府で、アイヌ語「ウシャップ」(両方に出入口のある所の意)からとあった。この932m峰に埋まる二等三角点の名が正に「右左府」で、当時の感覚で言えば現在の日高町・日高地区を代表する山だったということになる。標石名が右左府岳、あるいは右左府山とはならなかったのが残念である。  

参考コースタイム】水道の沢林道 倒木地点 P 12:05 → 932m峰「右左府」頂上 13:55、〃発 14:05 植林地 P 14:30 水道の沢林道 倒木地点 P 15:10  (登り1時間50分、下り1時間5分)    

メンバー】Ikkoさん、saijyo

 

932m峰「右左府」山行写真

 

林道終点からは枯沢を登る

稜線上に飛び出すと見事な岩峰が見える

稜線は右側が切れ落ちている

いよいよ最後のひと登り

頂上付近のヤマツツジと南峰

頂上からハッタオマナイ山側を望む (Ikkoさん提供)

日高山脈側は残念ながら雲の中

頂上付近からトマム山をズーム (Ikkoさん提供)

頂上付近から下山方向を見る  右の鋭峰が南峰 (Ikkoさん提供)

帰路、樹海ロードからこの山塊を見る(中央に「右左府」)

 

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