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   「右左府」南峰(920m) ・・・日高町の隠れた名峰

   

  

5月の右左府・南峰

 1/25000地形図 「日 高」  

頂上直下を登る (mocoさん提供)

 地形図の山名は点名がそのまま地形図上の山名として載ったものが多く、おそらく最初の地形図作成の際には山名分布の均衡性が大きく左右したものと思われる。そんな意味では古くからあまり踏み込まれることのなかった地域がわりを食った格好で、それなりの名峰であっても名無しのゴンベイとなった山は数多い。その1つがこの点名;右左府が埋められた932mピークである。南峰も含めなかなかの名峰であるが、点名が“右左府山”ではなかったことが災いしてか、山名の記述からは漏れてしまった。○○山となっていれば山としてのインパクトは強かっただろうし、分布から考えても間違えなしに載っていたことだろう。

南峰頂上にて (mocoさん提供)

 右左府とはそもそもが旧日高町市街の地名であり、アイヌ語「ウシャップ」(両方に出入口のある所の意)からとあった。正に現在の日高町・日高地区を代表しうる山だったと言える。無名峰というのは残念だが、私個人としては知られていない方が良い。こんな素晴らしい山を独り占めできれば籔ヤ冥利に尽きるというもの。右左府の名残は市街地から日高温泉への途中に掛かる「右左府橋」や北電の右左府発電所に見ることができる。

 右左府・本峰は5月に既に終えている。この時にやり残したのが山域随一の鋭峰とも言える南峰だった。本峰への途中から見る南峰はどこまでも高く、鋭角的な山容である。登高欲をそそる山とはこんなピークを差すのかもしれない。山域初参加のmocoさんには悪いが、今回はこちらを狙わせてもらうことにした。前回の山行で発見した植林地までは林道と歩道、言うなれば登山道状態である。ただ、今回は踝までと思われた積雪は標高を上げるごとに膝までとなり、思いのほか難儀させられた。

 前回は林道の途中で倒木によって車両はストップとなったが、この半年の間に撤去されたようである。この林道は未だに使われているのだろう。少ない積雪にスノーシューを置いてきてしまったことが悔やまれるが、置いてきたものを考えてもしかたがない。そうこうしているうちに土場(林道終点)となり、そこからは歩道へと入る。前回は歩道の存在を知らなかったために沢を進んだが、やはりこちらの方が楽であることは言うまでもない。ひと登りで植林地に到着となる。そこからは積雪に沈みきっていない笹斜面の辛い登りである。無雪期の笹薮漕ぎを考えれば未だマシかもしれないが、運動不足の私には大差はない。広く緩く切れ込みのない沢形は冬篭りのヒグマにとっては格好の寝床とのこと。知床を毎月のように経験しているmocoさんには、この広い斜面のどこかで山親父が安眠している様子が手に取るように想像されるのだろう。事実、5月の時には植林地から少し下った歩道でヒグマの糞を確認している。

頂上と金麦
南峰頂上にて (mocoさん提供)

 ここのところ忙しくて山から遠ざかっていたIkkoさんが先頭に立ってラッセルしているが、何時もよりは辛い感じ。彼の持ち前の性格から考えれば、間違っても代ってくれとは言わないだろうし、代ろうと言ったところで形だけの会話となる。私も体力不足、すぐ先に見えている稜線までが何とも遠く、正直なところ先頭に立ってラッセルする余力など残ってはいない。結局、Ikkoさんの頑張りで何とか稜線へと飛出す。だが、南峰への最後の詰めが想定外だった。痩せ尾根なのでそれなりの登高感を味わうことは出来るが、頂上直下の急登は正直やばそう。樹林限界を超える標高ではないため、樹木がそれなりにあり、それを伝えば多少の急斜面であっても突破は可能と見た。だが、落ちれば死なないまでも大事にはなるだろう。掴まれば大丈夫、とは言っても雪面から出ている幼木の枝は見分けが付かない。触って大丈夫ほどあてにならぬものはない。慎重の上にも慎重に一動作ずつ確実に進むが、次の一手が見つからない。バランスのみの箇所が出てくるのは必至。一旦退却とする。頂上を目前としての敗退、それもしかたがないな・・・ と思った。

 もう少し右寄の幼木帯を確かめさせてほしいとIkkoさん。幼木帯の下には何もないが、幼木帯自体はそれなりに密度がある。この状況での敗退はIkkoさんとしては我慢ならなかったのだろう。無理すること、一か八かの恐ろしさは過去に何度も見ている。私としては多少のリスクであっても、あってはならないと思っている。だが、実際に入ってみると、結果的にはそれほどでもなかった。リスクの読みは人それぞれ、私は臆病者かもしれないが、これが私であり、私の拙攻とも言えるルートファインディングなのだ。もう少し学習し、もう少し巧みさを身に付けなければそのうちメンバーからも余されるかもしれない。

 ともあれ、そこを抜けると待望の南峰の頂上であった。本峰と比べれば樹林が邪魔して展望としては今一だが、正に痩せた稜線の高みであり、登り詰めることの爽快感を十分に感じることが出来た。金麦写真・・・ 三角点がないので、雪面にそれを置いての記念の1枚。もちろん、撮影後はそれをやっつける。先ほどまで見えていたチロロ岳や日高幌尻周辺の山々はガスがかかり始め、天候は下り気味。未知だった右左府、予定の2ピーク目を終え、完全登頂の満足感を土産に下山とする。(2015.11.29)

参考コースタイム】水道の沢林道  P 10:40 →「右左府」南峰 頂上 13:30、〃発 13:40 水道の沢林道 P 14:45  (登り2時間50分、下り1時間5分)    

メンバー】Ikkoさん、mocoさん、saijyo

「右左府」南峰 山行写真

 

水道の沢林道をスタートする (Ikkoさん提供)

植林地からコルに向けての登り (Ikkoさん提供)

途中、日高山脈側を振り返る (Ikkoさん提供)

ペンケヌーシ山付近をズーム (Ikkoさん提供)

北日高岳と日高国際スキー場、その奥にはチロロ岳(左)と北戸蔦別岳付近(右) (mocoさん提供)

南峰頂上は樹林が邪魔して展望は今一 (Ikkoさん提供)

頂上からシキシャナイ岳を望む (Ikkoさん提供)

頂上直下を下る

 

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