<戻る

      剣山(1205.1m) 

十勝平野のどこからでも指呼できる剣山

1/25000地形図「渋 山」

おそらく、ここが一番の見どころ
神社の境内、狛犬の横に車を置く
山道に端座する石仏
チロロ3(旧姓naga)さんも元気!

  剣山の登山口周辺には剣山神社をはじめ、岩見沢に本部を置く八大龍王大自然愛心教団の高王山大自然霊光院、さらには統一教会の別働隊とも言われている天地正教の施設などが点在し、道内では珍しく宗教色の濃い一帯となっている。天地正教については、宿泊施設を作るにあたり、ちょうどオウム真理教の事件があった当時ということもあって、地元・清水町では激しい反対運動が沸き起こったそうである。一方、剣小屋のすぐ下には高王山大自然霊光院があるが、こちらは登山者には好意的で、久山岳登山道も教団が維持管理しているようだ。両信仰宗教教団とも開祖は道内の人間であり、意外と身近なところに“教祖さま”が存在していることには驚ろかされる。さて、剣山神社であるが、こちらは四国・剣神社の分霊が祭られている由緒正しき社であり、その起こりは源平合戦の時代にまで遡り、安徳天皇ゆかりの剣が由来という説もある。この地に建立されたのは昭和2年である。本家・剣山は修験の場であったようで、険しさという面では北海道の剣山にもその一端が感じられる。

 道内の神社で、境内に山小屋が建てられているというケースは珍しい。だれもがいつでも泊まれ、トイレも整備され、ストーブや薪が用意されていて無料というのだから、大変ありがたい話である。山小屋といえば付きものは幽霊話だが、この小屋にもそんな噂があるようだ。ただし、実際に泊まってみて思ったのは、全く根も葉もない話だということである。強いて言えば、辺りの密度の濃い信仰色がそんな噂を作らせたのかもしれない。幽霊というものは個々の感じ方によって、どのようにでも面白おかしく表現されるものである。一時期、狂人が住んでいたという話も聞いたが、こんな快適な住空間であれば、こちらはありうる話だと思う。この小屋は道央の岳人が日高の山々へ向う際の良き中継地点となっていて、仕事を終えてからそれぞれ目的の山へ向う一夜目には格好の宿泊施設となっている。

 剣山・登山道は神社の脇から始まっている。山道には神社であるにも関わらず、野の仏が端座している。地域信仰の濃い山でもあり、ここでは神道も仏教もないようだ。天地正教の教祖である川瀬カヨ教主もこの山を修業の場としていたそうで、昭和の時代に入ってから俄仕立てに霊場化された感は否めない。「一の森」(906m)までは登り一辺倒の山道が続く。猛毒として有名なエゾトリカブトであるが、この時期には美しい花を咲かせ、木々の間から見える十勝平野の広がりと共に単調な登りの癒しとなる。「一の森」は気持の良い小ピークとなっていて、少し下れば展望台も作られている。ここから見る剣山は、裾野を十勝平野にゆったり伸ばし、何とも格好が良い。

剣と十勝平野のコントラストが良い 頂上から望む札内岳(中央)とエサオマントッタベツ岳(右端)

 「一の森」からは少々下り気味に進み、剣山本峰への急な登りとなる。1000mを超えた辺りから急登も一息つき、岩稜の基部を進むことになるが、途中にはヒグマの真新しい糞があった。こんなメジャーな山にもしっかりと彼らは生息しているようである。ひょっとして、人間の通らない日中以外の時間帯には我がもの顔で登山道を行き来しているのかもしれない。頂上までの距離は縮まりそうで、なかなか縮まらない。稜線へ向っての急な登りが何度か現れるが、中には岩盤上に根を這わせている樹木があり、その生命力には驚かされる。この根っこ、上手い具合に天然の階段ブロックとなっていて、我々登山者にとっては大変ありがたいことである。

 フィナーレは有名な梯子登りである。地元・清水山岳会によって十分な手入れがなされているようであるが、縛られている梯子には少々の遊びがあり、場所が場所だけにふらつきが何とも不安定な感じである。高所恐怖症の諸氏には最後の試練といったところだ。三つ目の梯子を登りきると、正に「飛び出した」という表現がぴったりの剣山頂上となる。天に向って突き刺さっている剣は以前のものとは変わったそうであるが、金属製の丸い二等三角点は以前同様に岩盤に埋め込まれている。さすがに岩峰の頂点であり、ここから見る日高山脈の展望の素晴らしさは言うまでもない。

 昨年の事故で負傷した「地図がガイドチーム」のチロロ3(旧姓naga)さんも、この3時間の登りを難なく登ってきた。あれからちょうど1年になるが、この当時としては今のこんな状況を想像することはとてもできなかった。感謝が足りない時代と言われる昨今であるが、この山を取り囲む神仏によるものなのか、この日の晴天によるものかは判らないが、なぜか感謝したい気分にさせられる頂上のひと時であった。(2008.9.14)

【参考コースタイム】剣山神社 P 8:00 一の森 9:30 剣山頂上 11:05、〃発 12:00 一の森 13:10 剣山神社 P 13:55  (登り 3時間5分、下り 1時間55分)

メンバー】saijyoチロロ3(旧姓naga)

<最初へ戻る