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       鳥越山(668.5m)

最初には判らなかった鳥越山(駐車地点の橋から)

最初には分からなかった鳥越山(駐車地点から)

 1/25000地形図 「ピンネシリ」「浦 臼」

橋の手前に車を註める
橋の手前に車を註める
急尾根に取り付く前にひと休憩
この斜面を登って行く

鳥越の地名は日本各地に広がっており、山名、峠名、人名などにも多い。この名の由来ははっきりしないが、どうも源平の合戦の時代から各地に広がったようだ。一の谷の合戦における義経のヒヨドリ越えの逆落としとか、義経が逃避行の際に一夜を過ごした場所でニワトリが鳴いたための地名とか、等々である。日本各地に広がった「鳥越」だが、北海道ではここ浦臼町の鳥越山だけにこの由緒ある名が付けられている。ちょうどこの辺りは道内でも渡り鳥が通過する経路にあたり、付近には休憩地点ともなっている宮島沼もある。当然のことながら、この山を渡り鳥が飛び越えている様子からの命名とも考えられるが、この鳥越山は点名がそのまま山名となったケースで、点名が付けられた経緯こそがこの山名の由来となる。浦臼町町史にも記述がなく、いずれどこかでこの経緯は調べてみたい。

鳥の鶏冠のような木々が生える鳥越山頂上部 ここを登り詰めれば待望の頂上となる
頂上まであとわずか 鳥越山頂上にて

鳥越山は隈根尻山や樺戸山、浦臼山など、登山道が開削された山々の札的内沢川を挟んだ向かい側に位置する小さな山で、一般的には登山の対象とはなっていないこともあって、登山者の間での知名度はかなり低い。樺戸山や浦臼山がかなり後になってから付けられた山名であるのに対し、鳥越山は以前からその名が付けられており、他と比べて山としての存在感があったのだろう。地形図上からは尾根上の小ピークといった印象で、この山へ登ろうと考えていた私でさえそのピークを指呼することが出来なかった。今回同行のsakag氏が、一度登ればどこからでもその山が判ると言っていたが、何と最初に歩いた林道の真正面にしっかりと見えていた山が目指す鳥越山と判ったのは下山してからのことである。

登っていない山がかなり少なくなった樺戸山塊の中で、この鳥越山は私にとっての貴重な未踏の山であった。今シーズンは何度かこの山への山行を計画したが、週末ごとの悪天が続いたこともあってなかなか実行とはならなかった。この週末はなぜか、どこか面白い山へ行こうとのメールがmarboさんとmocoさんから携帯に入り、天候も安定しているようなので、当然のことながらとっておきの鳥越山へのチャレンジとする。とはいえ、ここ数日間に後志方面の素晴らしい山々を数々登り終えてきたsakag氏も急遽参加となり、見劣りするであろう鳥越山の様子が少々気になったが、持ち駒も少なく致し方ないところだった。函館のsakag氏は忘れた頃に声を掛けてくれる有難い岳友で、彼と山行を共にするとなぜか我がチームのモチベーションが上がるから不思議である。

アプローチは沢登りで名を馳せた札的内林道で、コンタ190m付近まで進んで、そこから比較的緩い東尾根を使って頂上を陥れる計画である。今回は時間的な余裕を見込んで、どこかロケーションの良いところで一昨年の稲倉石山以来のジンギスカンパーティも予定に入れている。除雪されていたのは林道入口付近にある砂防ダム手前の橋までで、そこからの除雪は荒すぎて車では入れない。橋の手前の除雪スペースに車を駐める。砂防ダムの上流付近でこの除雪も終点となり、後は積雪に埋もれた林道歩きとなる。地形図上ではそろそろ取り付かなくてはならない地点に到着しても肝心の橋がない。スノーブリッジに期待するが、それもこの時期ではなかなか見当たらない。結局、少し上流まで進んで、かなり薄そうだが辛うじてくっ付いていた1か所で渡ることにした。流れは小さそうだが、落ちた場合の流れの強さには想像以上のものがある。一方、ブリッジはかなり脆そうだが、初冬のぶ厚いものよりも強度についてはしっかりとしているというのが私の経験論である。とは言え、どう見てもすぐにも崩れそうな感じ。覚悟を決めて何とかここを通過する。この付近の林道はかなり荒れているのだろう。橋は既に落ちてしまったのか、机上で予測していた目論見は見事に外れてしまった。

山で食べるジンギスカンは格別だ
480m標高点までの滑りは快適そのもの
罰ゲームではないが、林道の長い登り返しとなる

次に予想外だったのが取り付く予定の斜面である。思いのほか樹木は疎らで、急傾斜となっている。登って登れなくはないが無理する必要はない。今冬予定していた通り、厳冬期にこのルートを訪れていたとすれば、状況次第では表層雪崩の起こっていた確率はけっこう高かっただろう。少し下流側へと移動、傾斜が比較的緩そうな小尾根の末端付近から取り付くことにする。とはいえ、それなりの傾斜であることに変わりはなく、一歩前進する度に標高はぐんぐん上がって行く。小沢を挟んだ向かい側の斜面では真新しい崖面が露出、全層雪崩の生々しい爪跡を見せる。となりの三角山もそうであったが、この山域は地すべり地形による脆い地層からなり、低い標高の割には険しい山岳景観の一面を覗かせる。コンタ350m付近で一旦傾斜が緩み、一息入れる。ここから480m標高点までの斜面はsakag氏がこのルートで唯一楽しめると言っていたポイントとなるが、ここからの下りと渡渉を考えれば、帰路は南東側の山腹を巻くように続く林道へと逃げるのが良さそうだ。480m標高点まで上がると中空知の平野がぐんと広がり、ここから先、頂上までの緩い疎林帯の斜面は下りの滑りが楽しめそうだ。

全層雪崩れの傷跡が残る
480m地点付近からは中空知の平野が広がる

途中から頂上と思える特徴ある丸く白いピークが見え隠れする。ちょうど鶏冠のように樹林が飛び出していて、観ようによっては愛嬌ある鳥の頭と映る。これも鳥越の名から来るものなのかもしれないが、名前の由来とは関係ないだろう。南からのやや強い風が吹いているこの日、ジンギスカンをやる場所は稜線北側の凹地が理想的。見れば格好の凹地がある。とりあえずは頂上を踏んでからここでの大休止としよう。頂上直下にスキーをデポ、硬くなった雪面にキックステップを刻み真っ直ぐに登った先が鳥越山の頂上だ。空は晴天、背後には遮るものなく中空知の平野が大きく広がっている。寒くもなく暑くもない日のこのロケーション、これこそが春山ならではの醍醐味と言えよう。頂上には正に飛び出したといった感じで到着する。平野の広がりは言うに及ばず、逆方向の隈根尻山や樺戸山方向の山々も迫力ある姿で望むことができる。また、特徴的な三角山もなかなかの迫力である。尾根続きの次のピークは確かに鳥越山よりは高いかもしれないが、山のピークではなく、尾根上の高まった地点に過ぎない。鳥越山はやはり名が付くだけの頂上であった。

頂上は記念撮影だけにして予定通りに凹地へと下り、この日の最大のお楽しみであるジンギスカンパーティとする。もっともヒグマが既に冬ごもりを終えて歩き回るこの時期、ジンギスカンなんぞはクマ寄せに等しいかもしれないが、それはそれ、残して行くのは臭いだけにして、しっかり後始末だけはして行かなければならない。mocoさんが、この時のために用意したという山用ジンギスカンセットはコンパクトでなかなかの優れもの。後で聞けば前後して濃いグリーンのジャケットを纏った登山者の姿が横にあったとmocoさん。ジンギスカンパーティーの楽しい雰囲気はヒグマならぬ単独行者の幽霊をも引き寄せてしまったようだ。我々も罪作りなことをやるものだ… 約1時間半もの大休止となったが、この時期だからこそできる山ヤ冥利に尽きるひと時であった。

 いよいよ下りとなる。地形図上は南東側へ下れば何処へ行っても林道へ出るはず。鬼が出るか蛇が出るか、とりあえずは粗目の快適な雪面を480m標高点へと下る。少し手前から南東へと下る尾根上へトラバース、ここまでは予定通りである。ところがその先で尾根上の雪渓が消えてしまったために右手の急斜面に張り付いた雪渓を滑ることになる。もともと結構微妙だと予想していた付近の地形、ここで尾根筋を外してしまったようだ。もっとも、あまり予定通りでもつまらない。多少ルートを逸脱しても、そこで臨機応変に次のルートを皆で考えるところにツアーの楽しさがある。集材路が現れたので、必ず林道へと続くはずと信じたが、完璧な谷地形に入り込んでしまった。どうしよう…?  手詰まりとなった矢先、目の前に予定の林道が現れた。こんなスリリングさがたまらない。ただし、ルートを外したために林道をけっこう登らされる羽目に陥る。読図をサボったための罰ゲームと前向きに考えることにしよう。

 民有林林道・仲の沢線(山腹を巻く林道の正式名称)を下って行く途中、それとなく鳥越山らしきピークを発見、頂上直下の斜面にはヒグマと思える黒い点が見える。疲れたためか老眼のためか、それが微妙に動いているのだが、しばらく下っても結果的には同じ位置に留まっていた。そんなことでじっとこの山を見続けていたこともあって、札的内沢の林道へと下っても今度こそは鳥越山の山容だけは目に焼きついてしまったようだ。黒い点がヒグマであったかどうかは判らないが、帰路に立ち寄った月形温泉の駐車場からでさえ鳥越山頂上はしっかりと見えていた。(2012.4.22)

頂上からの眺め 

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【参考コースタイム】除雪終点(橋) 8:25 取り付き地点 9:20 鳥越山頂上 10:55、〃発 11:05 ジンギスカン休憩(約1時間半)12:40 除雪終点(橋) 14:10    (登り2時間30分、下り 1時間40分)

メンバーsakag氏、marboさん、mocoさん、saijyo、チロロ2

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