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     十勝岳(2077m)

山麓の牧場から十勝岳を望む

 1/25000地形図「十勝岳」

グラウンド火口の向こうに目指す十勝岳が見えた
グラウンド火口を過ぎると美瑛岳も近くに見える
望岳台は観光客で賑わっていた
途中から見た富良野岳は重厚な感じ
避難小屋と噴煙を上げる火口

 十勝岳は言わずと知れた北海道を代表する名山で、深田久弥・日本百名山の一山にも選定されている。十勝連峰の主峰であり、高さも道内では数少ない2000m超えの一角だ。その他にも花の百名山や、もちろん北海道百名山にもなっていて、山の愛好家でなくても誰もが知っている名峰中の名峰と言える。そんな華やかさの一方、有史以来の度重なる噴火による被害も甚大で、この山と付き合ってきた地元にとっては諸刃の剣とも言える存在であった。現在の十勝岳は周期的には徐々に活動期へと向かいつつあるらしく、少なくても火山情報くらいは頭に入れて行動する必要がありそうだ。ともあれ、望岳台からは広い登山道が頂上へと続いていて、夏場には道内外の多くの登山者で賑わっている。ただし、私個人としては、火山礫上の登山道は歩きづらく、花こそないが、この山に登るのであればやはり雪渓の残る今の時期が一番良いと思っていた。望岳台から十勝岳頂上までの約5kmの区間は噴火の溶岩流による広々とした緩斜面が広がり、寒さが去ったこの時期のスキー登山は正に快適さの極みと言えるからである。  

 当初、今週の山は休みと決め込んでいたが、マピオンの天気予報で道内各地の山を検索してみたところ、十勝・大雪周辺は24時間を通して晴れ予想、矢も盾もたまらずこの日の山行を決める。例年、最後までスキーを楽しむことのできる山域であり、今年の積雪量であれば間違えなく車を降りたところからスキーを付けられるだろうとの心積もりは的中する。望岳台は快晴、朝の吸い込まれそうな青空、オプタテシケ山や美瑛岳など目移りしそうな鋭峰を前に、十勝岳を選んだことすらもったいなく感じられた。

多くの登山者や観光客で賑わう望岳台だが、一つ困ったことがある。唯一トイレがあるレストハウスが閉まっていることだ。その横のトイレも閉まっており、その周りの斜面にティッシュが散らばっていたのは何とも頂けなかった。道の駅レベルとは言わないが、せめて横のトイレくらいは開けておいてもらいたいものだ。観光客を乗せた大型バスが何台も止まって賑わう中、スキーを付けて望岳台をスタートする。視界が良い分だけ距離感を感じるが、ここはマイペース、あせらず急がずゆっくり進むしかない。特に印象的なのは雪渓から飛び出したハイマツの向こうに見える富良野岳で、その山容が実に見事なことだ。連峰内の他の山々よりも一時代古い火山で、侵食が進んだこともあって貫禄が他の山とは違う。これからの季節、この山は全山が緑に覆われ、花の名山としての彩りを増して行くことだろう。

  1時間で十勝岳避難小屋に到着する。目標物の少ないこの山の中では数少ない目標ポイントだ。この小屋は2006年に再建されたもので、以前に私が見た小屋とは建っている場所も違うようだ。以前の小屋は積雪によって倒壊してしまったとのこと。避難小屋からは徐々に傾斜を増しながら稜線上へと向かう。小屋がかなり小さくなるとグラウンド火口への稜線上となる。ここまで、シールをばっちり効かせれば真っ直ぐに登って行くことも全然OKで、この方が断然速い。ここから右手に方向を変えると辛いひと登り、雪渓が消えた砂礫地となって、グラウンド火口入口に出る。真っ白な大きな凹地を挟んで目指す十勝岳が姿を現すが、如何せん遠く感じられるのはこの山のスケールの大きさのせいと言えるのかもしれない。既に早い時間に登ったスキーヤーが思い思いのシュプールを大きな雪面に描いている。火口壁上までの1ヵ所雪渓がつながった部分にもくるくると見事な幾何学模様が描かれていた。後で、Facebookで知ったが、これを描いたのはEIZI@名寄さんとOgino@旭川さんのパーティだったようだ。我々は登山ルートを忠実に進んでいたこともあって、火口の中央を進んだ彼らとは数百メートルの距離を挟んでのすれ違い、姿は見たが顔が判らなかったのが残念である。

頂上はすぐそこ。頑張って下さいのエールをもらう 頂上に到着。久々の2000m超えだ
2000m峰のピークに、チロロ2さんも満足げ 十勝岳頂上の上空を通過する旅客機、サハリン行きか・・・

 我々は火口外輪を左回りで忠実に辿る。先行者のトレースが急峻な火口壁面を横切っており、一見ずり落ちるのでは…と感じるが、これは目の錯覚で、通過してみると斜面の角度には意外と余裕がある。とは言っても、バランスを失えば数十メートルはずり落ちるだろう。時折、62−U火口からの鼻を突くような硫黄臭が漂う。火口壁のトラバースを終えると広い雪面となってグラウンド火口北東側の平地となる。真っ白な三角形の十勝岳にはゴマ粒のようなものが点々と見られる。潅木かと思ったが良く見ると登山者で、三角形全体に対してはあまりに微小な存在なので、ほとんど止まったようにしか見えない。滑り降りているスキーヤーでさえ、その動きは全くといってよいほど目には映らない。我々はスキーをデポ、ツボ足の踏み跡が点々と見える登山道ルートを辿ることにする。

  スキーが無くなった足取りは軽く、階段状となった雪面を一歩一歩、高度を稼ぐ。十勝岳は30年ぶり、新鮮味は新ピークへのそれと変わらない。しかも、何たってこの晴天である。頂上の肩に到着、いよいよゴールは目と鼻の先となる。頂上から下ってきた、一見ベテランと思われるハイカーから「まだややあるので、焦らずに頑張って下さい」とのエールを頂く。「えっ、でも、そこでしょ?」 つい本音で返答するが、変な顔をされた。こんな場合、私のような年配の登山者としては疲れていなければならなかったのかもしれないが、疲れていなかったのだからしょうがない。見知らぬ人間との和を図ることは難しい。それでも何かあるのかもしれないと神妙な姿勢でゴールを決めたが、結局のところは何もなかった。

  頂上はさすがに日本百名山! 登山者の多さもそうだが、ぐるり360°全く見事な大パノラマだ。その一つ一つが名峰揃いで、雪が豊富に残っている今のこの時期でもあり、尾根と谷との明瞭なコントラストが見応え十分といったメリハリのある光景を作り出している。その中でも、やはり富良野岳と美瑛岳が距離の近さもあって迫力満点だ。遠く暑寒別岳や日高の峰々も印象的である。また芦別周辺や夕張岳、もちろん大雪山や東大雪など、一山一山挙げたら限がない。頂上のこの賑わいが頷けるような素晴らしさにしばし見とれ、時間が経つのをつい忘れてしまう。

 頂上丘の下にスキーを置いてきたことを後悔しつつ下山とする。頂上丘の傾斜は思ったほどのこともなく、見た目の急峻さに騙された恰好だ。スキー技術の未熟さによる自信の無さがもたらした失敗といえる。快適に下降するスキーヤーを尻目に、我々はツボでスキーのデポ地点目掛けて真っ直ぐに下る。気持の上ではつい引いてしまう十勝岳大斜面、午後の雪面は腐ってはいるが快適そのもので、まるでゲレンデ状態である。初夏の陽気の中でのスキー滑降はこの時期だけの贅沢さと言えるだろう。とは言え、途中では滑るのがいい加減面倒くさくなってしまうほどのロングコースであった。(2013.5.26)   ※十勝岳・頂上写真へ

【参考コースタイム】 望岳台 P 8:50 十勝岳避難小屋 10:10 → グラウンド火口上 11:30 → 十勝岳頂上 12:25、〃発 13:00 グラウンド火口上 13:20 望岳台 P 14:20    (登り 3時間35分、下り 1時間55分)

メンバーsaijyo、チロロ2の手温泉

(入浴)

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