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       チセヌプリ(1134.2m)

パノラマライン途中から見るチセヌプリ

 1/25000地形図「チセヌプリ」

湯本温泉登山口の駐車場に車を停める
昆布岳を背にスキー場を登って行く
台地上まで登ると目指すチセヌプリが見えてくる
台地上まで登ると目指すチセヌプリが見えてくる
シャクナゲ岳を背に最後の登り
幌別岳の向うに長万部岳や黒松内岳が見えてくる

チセヌプリが一番格好良く見えるのはその名が示す通り家形に見える東側からである。ニセコパノラマラインからはなかなかの迫力で迫ってきて、登山の予定が無くてもついつい登って行きたくなる一山だ。ニセコ連山のほぼ中央に位置するこの山はその端正な山容で、山麓に点在する神仙沼を始め長沼、大湯沼など、山岳と湖沼が見事にマッチする実に豊かな山岳景観を作り出している。神仙沼コース、ニセコ湯本温泉コース、パノラマラインからのコース、何れもしっかりとした登山道が整備され多くのハイカーを迎え入れている。

厳冬期のこの山は意外に厳しく、北西風の影響をまともに受けることもあって、急傾斜の上に日によってはカリカリにクラストしているとあっては、山スキーでの登高にはそりなりの経験と登高技術が要求される。風下側にあたるパノラマライン側のみが深雪に包まれて緊張感からは開放されるが、その分雪崩への注意は欠かすことができない。いずれにしても慎重さが要求されるという点では変りはない。山スキー1年目の正月にスキー場から南斜面に取り付いたことがあるが、斜面の途中で登るに登れず然りとて下るに下れず、進退窮まる状況に陥ってしまった。気を抜けば一気に滑落しそうで、辛うじて引っかかるエッジを突き刺したストックで必死に支えながら何とか頂上台地上へと抜け出した。山へのアクセスが良いこともあって里山的な感覚で安易に取り付いてしまったのが失敗で、その厳しさはやはり厳冬期の北の山そのものであった。

今回は山から少々遠ざかっていたこともあって、ハイキングコースとも言えるニセコ湯本温泉側からの登山道を久々にたどってみることにした。登山口の駐車場には本州方面からのリタイア組と思える夫婦が何組か訪れていた。パノラマラインは今月に入ってからの豪雨で寸断、神仙沼からの景観を狙って本州からやって来たようだが、このコースへは一度下って国道から回らなければならない。聞けばこの日は小樽観光も予定しているとのことで、山登りも観光の一環ということだ。日曜のみの休日でやって来た私としては何とも羨ましい限りである。もっとも私なら、時間があるのなら観光めぐりは程々にしてもう少し登り応えのある山へと向かいたいところだ。定年退職まであと5年、今一番欲しいものは山を自由に歩き回る豊富な時間である。

二等三角点「袴腰」、ここの三角点は和名となっている 岩内平野を挟んで積丹半島の山々が見える
チセ沼(大) チセ沼(小)

登山道はチセスキー場のリフトに沿って続いている。途中からリフトを離れ樹林帯へと入り、少し登山らしい雰囲気となる。我々の足回りはスパイク長靴、本州からの御仁は軽登山靴を履いている。駐車場で我々の長靴を見て変な顔をしていたが、雨上がりのぬかるむ登山道ではこのアイテムが威力を発揮する。第一、どんなに高級な登山専用靴を履いても濡れてしまっては元も子もない。不快感を気にしながらの山登りでは楽しさも半減してしまうだろう。水溜りや泥など全く気にせずに歩けるのが何よりだ。スキー場を登り詰めると根曲がり竹の密生した台地上となり、その中をしっかりと刈り分けられた登山道がチセヌプリへと続いている。ニセコの山々はこの台地上に伏せたおわんのようなもので、個々の山の標高差はそれほどではない。チセヌプリへの登り口で神仙沼からのコースと合流する。

チセヌプリへは急斜面にジグを繰り返しながら登って行くが展望の変化が面白い。シャクナゲ岳の向うには目国内岳や岩内岳、雷電山が、のっぺりと長い山容の蘭越・幌別山の向うには長万部岳や黒松内岳が標高を重ねるごとに頭を出してくる。内浦湾を挟んで駒ケ岳の雄姿も薄っすら望め、北海道地図の半島部が地形図そのままに展開している様子をうかがうことができる。洞爺湖の湖面が見えると頂上台地は近い。登りが始まってからの時間はわずかだが、この眺望はさすがニセコである。台地上へと登り詰めると道は真っ直ぐになり大きなケルンのある頂上へと到着する。頂上からは逆側の積丹半島や日本海の展望が広がる。登山を始めてからの年月がそうさせるのか、見方が変えれば世界は確かに変る。今までは単なる山並みとしか映っていなかった山々(八内岳、岩平峠、熊追山、泥ノ木山、余市天狗岳、稲倉石山等々)一つ一つが今では実になじみ深い山となっている。反面、追い続けてきた未知への憧憬はどこかへ消え去ってしまったようで、一抹の寂しさが感じられる。

頂上からわずか30〜40mのところには小さな沼がある。チセ沼と言って火口に水が溜まって出来たとのこと。私はその存在すらも知らなかったので、頂上でこれを見た時には少々驚いた。わずかの距離だが笹薮が密生していて簡単には人を近づけさせない。数多くの人間が入ることによって、この小さな湿原は間違いなく破壊されてしまうだろう。知らなかったこともあって籔を漕いで沼まで行ってみたが、確かに豊かな湿原となっていた。立入った人間が言うのも何だが、人が簡単に近づけないことがこの小さな湿原を守っている要因で、人の入りにくいこのままの状態が良いような気がした。背丈以上の籔を漕いで頂上へ戻った時には、他の登山者が奇異な目で私を見ていたが、自分の足跡が将来的に明瞭な踏み跡とならぬことを願うばかりである。

今年は巡り合せの悪さからか日曜日の荒天が続き、私にとっては山が遠く感じる悶々とした週末が続いていた。再び一から出直そうと出かけたチセヌプリであったが、どんな山であれ実際に登ることによってその楽しさが確かに伝わってくる。登らせてくれる山があるなら、僕はいつでも山に登ろう…そんな山の歌のフレーズがふと思い出されるこの日のひと時であった。(2011.9.19)

【参考コースタイム】 湯本温泉登山口 8:45 → チセヌプリ頂上 10:20、〃発 11:15 → 湯本温泉登山口 12:40  (登り 1時間35分、下り 1時間 25分)

メンバー】saijyo、チロロ2

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