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       天狗(688.0m)

 
565mポコ付近から見る天狗山

 1/25000地形図「神恵内」「稲倉石」

盃の墓地に車を停める
林道はガリガリの雪面
盃川水源の784m無名ピーク
568mポコ付近まで登ると視界が開ける
上り詰めた先が天狗山頂上

数年前の熊追山の山行の時からずっと気になっていた山が、手前にあったこの天狗山である。盃川の林道の途中からは容易に取り付けそうで、積丹の山々の格好な展望台ともいえる場所に位置している。せっかく登っても以前の熊追山や岩平峠の山行のように濃い藪の中の三角点確認だけでは物足りないので、積雪期の晴れた日の登頂をと考えていた。先月は酷い地吹雪の中「とまりん館」までは行ったが、当然のことながら中止している。今回は仕切り直し、天候も夜までは崩れないようなので大パノラマが大いに期待ができそうだ。

三寒四温の三月、出発地点の墓地前からはガリガリの硬雪上を快適に進んで行く。寒暖の差が激しくなってきたためか、日中解けた雪が夜中の寒さで硬く凍っている。この状態では林道は快適でも斜面の登りでは苦戦を強いられることだろう。取付き地点までは一見してヒグマのものと思われる足跡が点々と続いている。私だけが出発準備に手間取って一足遅れてのスタートとなるが、根っから臆病者の私としては大いにビビってしまう。よく見れば先が二つに分かれたエゾシカのもの、足跡の周りの雪が解けて大きく広がってしまったようだ。この分だとかなりの区間は単独かと思ったが、尾根への取付き地点にメンバーが勢揃いしていた。私を待っていてくれたものと思いきや、Ko玉氏が何やらメンバーに指示しているようだ。ここからはスキーを捨てて、ツボ足1時間で頂上を踏むとの奇をてらった作戦で、だれもがスキーを履いていない。えっ!とは思ったが、彼は指示したりがりやのオチャメな男、しかもピークを落すことに関して言えば真面目そのものだ。ここは私もスキーを置いてこの作戦に乗ってみることにした。彼の言う登り1時間であれば、降りてくるであろう2時間後であっても雪面は未だ硬いはずだ。

ところが斜面に差し掛かったところで、先頭を歩くsakakuさんの足が雪面を踏み破って沈み込む。それを見たKo玉氏はすかさずスキーへの切り替えを指示、さすがに変わり身が速いというか臨機応変というか、彼の頭を切り替える速さには天性のものがある。谷から尾根への取付地点は通常は急傾斜となっているケースが多く、少し上がれば大抵の場合は落ち着くものである。先々を考えればやはり今の時期は未だスキーの選択がセオリーだろう。確か、昨年のGWの幌天狗ではツボで長い尾根を登りきったが、この時の下りでは小さな子供がよく遊んでいるミニスキーでもいいから欲しかった記憶がある。後で後悔しないためにもスキーはぜひ持って行きたいところだ。

シールをフラットに置いてそれが効く傾斜は意外に大きいが、さすがに取付きだけは真っ直ぐには登れない。スキーのエッジを利かせてがむしゃらに登りきるしかない。数十メートルほど上がると予想通りの直進可能な斜面となる。シールを効かせるために思いっきり大股で片足に体重を乗せて歩いているうちに回りのメンバーが居なくなったことに気付く。結果的に年甲斐もなくバカみたいに飛ばしてしまったようである。登山は長丁場のスポーツ、先のことも視野に入れて行動しなければならないことをすっかり忘れていた。大方は直進可能な斜面だが、ところによっては不可能な傾斜となってズリズリ滑り落ちる。体力の消耗を避ける意味でもこの辺の見極めは重要なところだ。  

コンタ450mを過ぎると視界が開けてくる。特に568mポコ付近まで登ると、北側に赤石山から当丸峠付近の山々にかけての山並みが大きく広がる。青い空と海、そして真っ白な山々、この時期ならではの壮快感が溢れている。ポコ手前の視界が開けた地点で後続を待つことにするが、向かう天狗山はこの地点手前からのトラバースが良い。行動食を摂ってすぐにトラバース地点まで移動することにする。後続はメンバーのスキーのビンディングに不具合が生じていたとのこと。パーティ内の行動として私の突っ走りは確かに不味かったが、こんな好条件の日であれば相互間の多少の距離的広がりは許されて然るべき。もちろん無風に近く、彼らの“音”を拾いつつ、その気配が感じられなくなればいつでも戻るつもりでいた。

稜線からは泊原発と岩内湾が見える 爽やかさ抜群のmiura氏と青い空

斜面をトラバース、天狗山への広く緩い稜線に乗る。樹木もなく、岩内側の展望が大きく広がった。震災以来何かと話題に上る泊原発も見える。この原発近くを通る国道は内陸側に長いトンネルを掘って通過させているため、道路からこの原発は見えないようになっている。多くの人達もそうであろうが、自分のこの目で泊原発を見るのは初めてだ。東電の福島原子力発電所のTV映像を昨年以来何度も見せられていることもあって、つい私の立つこの稜線の放射線は何ベクレルなのだろうかと考えてしまう。多少景観を損なうかもしれないが、風力発電の巨大なプロペラを眺めている方が今や心地良ささえ感じられるから不思議なものだ。原発の安全神話が崩れ去った今、そう考えるのは私だけではないだろう。

天気も眺望も最高の天狗山頂上

真っ白な稜線の斜面は緩やかに天狗山の頂上へと続いている。あとは真っ青な空へと続くこの贅沢な登りを楽しむだけだ。そうこうしているうちに頂上が間近となる。真っ白な小さな丘、この上がいよいよ待ちに待った積丹半島の大展望台である。先頭を行くM氏、まるで何時ぞやのマイルドセブンのポスターのような爽やかさでそのアングルの中にバッチリ納まっている。山へと向かう真摯な姿がそこにはあるのだろう。この辺り、海戦山戦のKo玉氏であれば変に山との化かし合いとなってしまい、彼には申し訳ないが全く様には成らないかもしれない。ともあれ、十数メートル上り詰めた先で360°の大パノラマは広がった。頂上到着である。山座同定など全く無意味な銀世界がそこには広がっていた。

さて下山である。途中のガリガリ斜面を考えればシールを外すには不安を感じる。さりとて、シールがあればどうにかなるというのも何の根拠もない安全策といえる。私はシールを外してみることにした。トラバース地点までは標高のためか快適な雪面であった。トラバース地点の登り返しでつい不精を決め込み少々低く巻いたために何とも嫌らしい急斜面のトラバースとなる。後続には続かぬよう伝達、その先でさらに息を呑むような状態となった。というのも私のトラバース斜面に木々はあるが、その下はさらに傾斜が増して木々の全く無い、思わず足も竦んでしまうような状態でかなり下まで落ち込んでいた。スキーを外して恐る恐るツボ足で最初のトラバース地点まで戻る。仮にバランスを崩そうものならどうなっていたことやら…

標高を落す毎に斜面が朝と同じガリガリ状態となって行く。もはや真っ直ぐには滑れない。もう少し時期が進めばザラメとなって快適な滑降が楽しめるところだが、今の時期は言うなれば雪面状態の端境期。結局はエッジを利かせた横滑りしかないようだ。途中、ツボで下るメンバーも一人二人と目立ってくる。雪面の凹凸はさらに大きくなり、そろそろツボで下ろうかと思った矢先、下方に林道が見えた。いつ終わるとも知れない横滑りの果てに何とか林道上へと無事に降り立つことが出来た。今回の山行で一番学習したことは、ツボになる一歩手前には横滑りという手段があるということだ。もちろん、この方法は当然のことながら知っていたし、何度も経験した方法でもある。ただし、これほど効果的に機能した場面に出くわしたことが今までには一度もなかったということである。(2012.3.11)

頂上からの眺め+α

【参考コースタイム】盃・墓地P 7:10 天狗山頂上 9:40、〃発 9:55 盃・墓地P 11:15   (登り2時間30分、下り 1時間20分)

メンバーKo玉さん、sakakuさん、miuraご夫妻、saijyo

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