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   狩場・天狗岳

 

小田西川河口付近から望む狩場・天狗岳

1/25000地形図「原 歌」「狩場山」

斜面取付地点より天狗岳を望む
稜線上の籔から顔を出した天狗の頂上
ポロ狩場川河口の集落に車を停める
しばらくは砂防ダムが続く
しばらくは砂防ダムが続く
意外に平凡だったポロ狩場川

道南の最高峰・狩場山の周辺には前衛峰といえる数々の山があるが、そのどれもが登山道のない山で、それなりの山経験がなければ登ることのできない山ばかりである。ましてや明らかにヒグマの生息密度が濃い山域とあっては二の足を踏んでしまうのは私だけではないだろう。山域の主峰・狩場山の沢ルートは何本か登っているが、以前に千走川直登沢・源頭付近で見たヒグマの糞は常識破りだった。3mくらいの大きな岩と岩の隙間が見事に糞で埋め尽くされていた。ヒグマにとっては生活圏内のトイレということになるのだろうが、その量たるや尋常ではなかった。この様子は今でも私の脳裏から離れることがない。そんなこともあって、ここしばらく遠のいていた狩場山域である。Ko玉さんから、小田西川右岸に見事な山があるので行ってみないかとの再三の誘いがあり、彼とのつき合いもあって今回はこの天狗岳山行の計画に乗ってみることにした。小田西川は以前の遡行で途中の巨岩帯通過に手間取った記憶があり、今回はポロ狩場川からのアプローチとする。

現地入りしてみるとポロ狩場川は出合から砂防ダムの連続となっていた。しかも急傾斜で海岸に落ちていることもあり、まずは砂防ダムを作った当時の道路を探してみることにする。日向ぼっこをしていた地元の老人に聞いてみたところ「約500m先に木巻崎灯台へ登って行く道があり、そこから工事用の道路跡が続いていているが、ゲートがあるのでそれ以上は入れない」とのことだった。聞いたわけではないが「自分はそこのカギを持っているが貸さない」とまで付け加えられてしまった。天狗岳に登ることを説明したが、終始半信半疑といった感じである。もっとも、登山とはおよそ縁遠いと思われる集落で、単にピークのみを目指して入山する人間がいることを理解してもらおうなどと考える方が間違っているのかもしれない。密漁者と思われてもしかたのないところである。何はともあれ、ゲートから歩いても大したことはないようなので、説明された現地へ行ってみることにする。灯台への道は舗装されているが、車が登ることのできる限界といった感じの斜度で上部へと続いていた。登ってみると確かにゲートはあるが、道路は既に朽ちている感じである。であれば、老人の居た集落から藪を漕いだ方がよほど速そうだ。下りは車ごとずり落ちそうな道路をそろりそろりと下る。

再び集落へ行って登山準備を始める。先ほどの老人はじっとこちらを見ているが、ここは視線から目を逸らすより術がない。急いで準備をしてそそくさと車を後にする。急な斜面を巻くようにひと藪漕ぐと目前に最初の砂防ダムが現われる。ダムの右岸側には湧き水を利用した簡易水道設備が作られていた。後で判ったが、ここから駐車地点のすぐ横まではしっかりとした歩道が作られていた。この先にも踏み跡が続いていて、次のダムへと向かっている。4つほどダムを過ぎると最後のダムとなって、灯台からつながっていると思われる作業道跡に合流して終点となっていた。いよいよ入渓地点である。

ダムからしばらくは数メートルの大きな岩石が転がる河原である。この先もきっと荒々しい渓流が続くものと予想していたが、進んで行くうちにだんだんと沢相が落ち着いてくる。小田西川の巨岩帯と同様の沢相を想像していただけに何か拍子抜けしてしまった感じである。予定している尾根の取付き地点はコンタ320m付近であるが、その約500m手前の地点で明らかに人の手によるものと思われる何かの造作物跡が現われる。入渓してから1時間半ほども進んでおり、それなりには奥まった地点である。何に使ったものかは判らないが、そこから歩道跡らしきものが沢沿いに続いていた。

狩場・天狗岳頂上にて 頂上から眺める小田西川と河口付近

結局、何も大きな変化はなく、天狗岳の東斜面取付き地点に到着する。ここからは等高線の混み具合を見てもスパイク地下足袋の方が良さそうだ。最初はルンゼ状の小沢を詰める予定でいたが、斜面の籔はかなり薄そうである。ポロ狩場川に沿って細々と小沢が続き、そこから急傾斜で沢形が上へ伸びているが、こんな状況であれば沢形も斜面もない。結局、ピークを目指して斜面を直接上がって行くことにする。スパイクを斜面にフラットに置くためアキレス腱が伸びきった状態のまま、ぐんぐん標高を上げて行く。見ると奥のフモンナイ岳付近は雨雲の中、辺りの樹林帯にはザーといかにも本降にでもなりそうな雨音が響いている。今年の夏はある意味で温暖化による異常気象が続いている。暑さだけなら未だしも、突然のゲリラ豪雨にでも見舞われようものなら帰路は完全に絶たれてしまうだろう。そんなことを心配しながらの登高ともなれば、頂上までの行程は実に長く感じられるものだ。雨音に一喜一憂しながらの登高がしばらく続く。

取付き地点手前500m地点に現われた造作物跡

稜線の手前は崖が予想されるとのKo玉さんの予測で、左側へと回り込む。いくらも登らぬうちに稜線上となる。籔は比較的濃いが、普通はこんなもんだろう。頂上が近づいたと思って前方を見ると、さらなる高みが現われる。距離を見れば100m程度、GPSで正確なところを知らなければ戦意喪失してしまいそうなとんがりである。大気が不安定なのか突風が吹いている。ここには樹林もなく、岩石の露出する尖峰では風に煽られぬよう注意が必要だ。特に小田西側はスッパリ切れており、ハイマツを握る手にもついつい力が入る。そこを通過、10mほども行かぬうちに机上では何度も踏んだ天狗岳頂上となる。もちろんこうして実際に踏むのは今回が初めてだ。藪の中のピークを想像していただけに、遮るものがないすっきりとしたピークには感激である。この日も暑かったが、さすがに強風は寒く、風下の籔で一休みとする。小田西川や河口付近の集落が眼下に見えなかなかの高度感である。

下山時に登りで気になった造作物跡の歩道を確かめようと辿ってみたが、どこまでも続いていた。小沢にはエンビ管のようなものを渡らせており、どうやら水を通すためのものらしい。結局、ポロ狩場川の左岸の尾根をも越えて小田西川へと向かって行ったので、車の回収に手こずっては適わないので、歩道から離れて籔漕ぎで集落の方向へと下った。おそらくは付近の集落の水道施設か何かで、渇水期に小田西川の水をこちら側に引っ張るための造作物といったところだろう。出来てから40〜50年は経過しているものと思われるが、完全に朽ちてしまって途中の配水管は跡形もない。

 下山後、モッタ海岸温泉の建つ栄浜へと向かう。確かに小田西川橋まで行くと660mとは思えぬ見事な山容を我々に見せてくれた。単に鋭峰であればこの他にも数々あるが、ここの天狗岳は深山の気高い峰といった威風さえ感じさせる。そのくらい格好がよかった。以前に小田西川から狩場山を目指した時にもこの山は視界に入っていたはずであるが、全く記憶にはない。その時々の感心の対象によって、我々の視覚というものは見えるものと見えないものとに自ずと選別しているように思う。そう考えれば、あの老人にとってこの付近の山々を目指す登山者の心は、決して見える対象とはならなかったようである。(2010.9.5)

【参考コースタイム】

ポロ狩場川・河口 7:20 尾根取付 9:25 天狗岳頂上10:50 、〃発 11:05 尾根取付 11:40 ポロ狩場川・河口 13:55

 (登り3時間30分、下り2時間50分)

メンバー】Ko玉氏、saijyo、チロロ2

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