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      滝ノ沢(713.4m)

天狗山から見た滝ノ沢山(中央の尖峰) 左奥は積丹岳 2012年3月撮影

1/25000地形図神恵内」「稲倉石」

林道ゲート前に車を置く
この時期はタニウツギが満開
雪渓が消えて水量も少ない

 「滝ノ沢山」という名の山はどこにでもありそうだ。山があれば沢があり滝があるのは当たり前、名の無い沢に滝があれば半ば当然のように滝ノ沢という名が付けられるのは自然の成り行きと言えるだろう。現に道道998号を挟んだ大川林道側にも同名の沢があり、少々紛らわしい。今回目指した神恵内の滝ノ沢山は、そんな何処にでもありそうな、ありきたりの山である。アプローチに使った林道は「湯の沢支線林道」となっていたので、地形図で「小川」となっている本流の方は林業界では湯ノ沢川と呼ばれているようだ。その支流が滝ノ沢川である。源流の山に設置された標石の点名が「滝ノ沢山」ということから地形図上には滝ノ沢山と記されるようになったと思われる。

この沢で最大の滝(5〜6m)
滝ノ沢岳への途中から天狗岳(569m)を望む

 と、ここまでは少々硬そうな話となったが、実はこの山だが単なる藪山で、それ以外にどこといって特徴はない。沢も小沢で滝らしい滝など見当たらず、いわゆるブタ沢であった。だが、魅力に乏しいかと言えばそうではない。何よりも登山者は言うに及ばず、山菜採りをはじめ、釣り人もあまり入っていない感じである。そんな人の手垢が付いていない地味な山こそが私の大好きなフィールドであるからだ。今回同行した藪好きクライマーのMarboさんには悪いなァ…と思いつつも、こんな心強い同行者を得たのだから今回は大丈夫!と、数年前のリベンジに闘志が湧いてしまったのは言うまでも無い。

 その数年前だが、この時はもう少し早い時期で、アプローチの林道をスキーで快適にトレースしている。地形図上の林道終点からは小沢を下って本流を渡渉、対岸の尾根に取り付いた。しっかりした尾根であり、滝ノ沢山は100%成功と確信した。ところが、その日の天候は曇り空、山はガスっていて視界不良状態だった。ぐんぐん標高を上げ、残りの距離を楽しみにGPSのスイッチを入れる。だが、何と90°ずれた方向が目的地として表示されていた。甘かったか… 取付きで尾根を1本間違ってしまったようだ。しかも良く見れば平行して登っているスノーシューによるものと思われた足跡はヒグマのものだった。よく考えれば、この山に他に登山者がいるなどと考える方が不自然だった。私が楽観的なのかもしれないが、人間の感覚というのは都合の良い方へと解釈してしまうものなのだろう。結局、ここでこの日の山行は万事休すとなる。時間的には動ける時間帯だったが、さすがにそれ以上進む気にもなれなかった。

 あれから3年、積雪期とは違って地形図上の林道終点付近は鬱蒼とした様相である。林道からは小沢を本流へと下る。本流の水量も少なく、予め予測していた雪渓など無さそうな感じである。以前に間違えた尾根末端を通過して直ぐに二股となる。右の方が水量はあるが、上部は不安定な雪渓があるかもしれないとの予測から予定してはいない。今回はピーク登頂が目的、当初の計画通りそのまま左へと進んで行くことにする。小さな滝は出て来るが滝と呼べる代物ではない。ゴルジュも同様である。途中1ヵ所、5mくらいの滝が現れるが階段状で難なくこれを通過する。40分ほどで390m二股に到着、目指す左股は5mくらいの枯滝(苔むした大岩が詰まっている感じ)となっていた。豪雪地帯の上に今年の例年に無い積雪量を考えれば雪渓が残っていてもおかしくないと考えていたが、さすがにこの標高では既に消えて無くなってしまったようである。

 枯れているとは言っても多少の流れはある。枯滝を越えるとすぐに源頭の雰囲気となり、小さな沢形を進むが、源頭でよく見られる花々の類が一切無いのが残念なところ。二つ目の細かな二股で本峰の方向へと入り、すぐに藪斜面となる。隣りの熊追山では猛烈な根曲がり竹に四苦八苦したこともあってそれなりの覚悟はしていたが、予想に反し根曲がり竹は少なく、イタドリやウドが伸びきった状態となっていた。薄い藪はラッキーだった。根曲がり竹は途中固まって生えているので、上手くそれを避けながらルートを取ることができる。そうこうしているうちに右寄りとなって頂上方向からズレてしまったようだが、この時は気付かなかった。稜線が近づきピークはすぐ近くと思ったが、marboさんのGPSではピークは200m以上先とのこと。このGPSだがつい最近入手したものらしく、10年ほど前の機種らしい。樹林帯や沢形の中では少し怪しくなるため、衛星を捕捉しきれていないと考えてしまったが、結果的には私の感覚よりもGPSの方が正しく、三角形の二辺を進んでしまった。

滝ノ沢山頂上は藪の中だった 三等三角点「滝ノ沢山」

 稜線上では藪も少し濃い感じとなる。ついつい頂上到着かとぬか喜びするが、登ってみるとさらに次の高みが現れてなかなか到着とはならない。気が逸っていることもあるが、藪が濃くなった分だけ距離感を感じているのだろう。何度か到着と思いつつ、四度目くらいだろうか、本当の頂上到着となる。藪の中に標石を発見、数年前からの課題はこの瞬間で無事終了となる。どうといったことではないが、積丹といえば常にこの山が思い浮かび、どこの時点かでの登頂を何時も考えていた。そんな意味ではほっとしたというのが本音である。少し南側へ移動すれば視界が開け、おそらく熊追山など付近の山々が見えるのだろうが、ガスっていては何も見えない。頂上ビールはこの特別な思いも考慮して、発泡酒や第三のビールなどの安物ではなく、本物を用意して来た。

 下りは390m二股へと真っ直ぐに下る。地形図を見れば天狗岳の南側・460mコンタは真平ら、そこまで上れば、林道終点からさらに続いていた林道が必ず伸びているとの話となる。もちろん、天狗岳登頂も視野に入れていたが、予想以上に時間を使ってしまったので、未踏のピークを一つ残しておくのも良いかと思った。なんでもかんでも登ってしまえば良いというものでもない。私の盟友のKo玉氏だが、前人未到の北海道全山登頂が見えてきた最近の彼を見ていると、何となく悲哀感すら感じられる時がある。夢は実現させるものだが、簡単には届かないから夢として何時までも憧れの対象と成り得る。ある意味でそれを失ってしまう、夢の実現とはそんな冷酷な一面も合わせ持っているのではないだろうか。

 だが、林道の有無はやはり気になる。390m二股から50mほど登ったコンタ440mの平地まで、とりあえずは登ってみる。樹木に巻かれた割りと新しいピンクテープ、よく見れば作業道跡だ。やはり…と思ったが、進むうちに怪しくなる。途中からは完全に消えて、ただの藪の中だ。おそらくだが、もう一段登ったコンタ460の平地に本来の林道が続いていて、森林管理所あたりで逆に一段下がったこの場所に何らかの目印として付けて行ったのだろう。我々にとって判らぬ場所での藪漕ぎは決して嫌なものではない、多少なりとも未知としての魅力が感じられるのが良い。最後は最初に使った小沢の上流から首尾よく地形図上の林道終点へと戻る。(2013.6.23)

marboさんの山行記へ

【参考コースタイム】 湯の沢支線林道ゲート 850 地形図上の林道終点 9:25 390m二股 10:15 滝ノ沢山頂上 11:55 、〃発 12:05 390m二股 12:55 地形図上の林道終点 13:45 湯の沢支線林道ゲート 1420  (上り3時間05分、下り2時間15分)

  【メンバー】marboさん、saijyo

【後日談】

この山行記を読んだというIkkoさん(この時点では面識がない)から次のようなメールが届く

神恵内天狗岳_岩峰
神恵内天狗岳_岩峰

今日は天気があまりよくないのですが、午前勝負と決めて、神恵内の天狗岳 (568m)に行ってきました。 昨日は仕事が長引いて、21時ごろに帰宅したので、午前3時が出発するのに頑 張っての最早でした。 「湯の沢支線林道」は林道の路肩の笹や夏草が刈り取られていて、滝ノ沢山の時 よりは歩きやすかったです。 意外ときちんと整備されているようですね・・・。 「湯の沢支線林道」の先が、天狗岳の台地まで伸びているのではという予想でし たので行ってみました。 GPSの画像を見てもらえばわかると思いますが、程なくして土場となりました。 土場の周辺を探索したのですが、先に伸びる林道を見つけることは出来ませんで した・・・。

気を取り直して、滝ノ沢山の下山に使った作業道(ゲートから2.5km地点:標 識有)まで戻りました。 まだ夏草が茂っているので、帰りのことを考え、ストックで草を払って道を作り ながら進みました。 見方を変えると、ちょっと手入れをしていない登山道といった感じで快適に歩く ことが出きました。 ピンクのデポテープに導かれながら進むと、沢地形まで行くことができました。 沢を横切り踏み跡?を辿るとまた小沢が現れます。 ここから、台地上の藪に入ります。 台地上地形は根曲竹密集地帯で、なかなか本峰に近づくことができません。 しかし、上手にルートファインディングすれば、シダや草付に出ることができます。 私はルートファインディングが下手なので、かなり時間を要しました・・・・ダ メ人間か?。 途中から天狗岳に向かって右手に岩峰が臨まれました・・・恰好いいな・・・と 思いました。

本峰の斜面は急ですが、上手に根曲竹を避けながらルートを選ぶと比較的楽に登 ることができます。 心配した岩場もなく、木々につかまりながら、高度を上げるといつの間にか山頂 の稜線に乗ることができました。 三角点を探しながら右往左往しましたが、見つけることができませんでした。 山頂は木々に囲まれ、展望は今イチですが、場所を変えると周辺の山々を樹林越 しに見ることができました。 本当は、岩峰も見に行きたかったのですが、雨雲の様子が気になり、急いで下山 しました。

「湯の沢支線林道」に出てしばらくすると、豪雨になりました。 リュックから傘を出して、一人寂しく林道を歩いて車まで、トボトボと歩きました。 子供のころに学校から雨の道を長靴を履いて傘さして一人で帰る情景を思い出し ました・・・。 カーナビには岩内小川林道のゲート先に「湯の沢温泉(小川温泉)」が表示され ています。 ゲートの先に温泉とは?・・・と気になっていたのですが、昨日の下山中、車に 戻らないで雨に濡れついでに偵察に行ってきました。 少し歩くと黄色い橋があって、橋を渡りきってすぐ左に川に降りて行ける荒れた 道がありました。 もしや?と思い行ってみると、すぐに夏草で道はふさがっていました。 草を漕いで進むと河原に出て、そこには温泉の廃墟がありました。 家に帰ってネットで調べたら、 http://blogs.yahoo.co.jp/kenji_yoshi_onsen/14257626.html に行った人のブログがでていました。 もうはるか昔に廃温泉になっているのに、カーナビの地図に出ているとはびっく りしました。   Ikko

まさか、この山行のすぐ後に、この山行記を読んだ人間が同じところに入っているとは思わなかった。ネットの時代の恐ろしさで、正直なところびっくりした。林道は我々の入渓した地点から直ぐのところで終点、天狗の下までは続いていなかったらしい。予測で断定的に書いてしまった件、Ikkoさんには申し訳ないと思っている。湯ノ沢については目から鱗だった。やはり、こんな名前が付いていたということは、温泉が存在していたことの証だったようだ。林道名にしても沢の名称にしても、それ相応の歴史が息づいているものと、改めて知る。

 

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