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     1347m峰双珠別岳(林業界)(1347.2m)

/25000地形図  「双珠別湖」

この沢の核心部、ゴルジュの滝は30mはありそうだ

鹿鳴第二覆道脇に車を停める
鹿鳴第二覆道脇に車を停める
渓流の沢川は狭く急峻である
二股毎にしっかりと検討
点名「双珠別」は二等三角点、誰かがいたずらしたのか標棒は一等になっていた
点名「双珠別」は二等三角点、いたずらか標棒は一等に・・
頂上から見る狩振岳の姿が美しい

双珠別岳の名を持つ山は二山あり、一つは狩振岳の隣の1383m峰、もう一つは樹海ロード沿いの1347m峰で両山とも地形図には山名が載っていない。双珠別川の水源の山という意味で1383m峰が広く登山界では双珠別岳として登られているようである。多くの山名はこのように○○川の水源の山ということで命名されているが、徳富川の徳富岳のように、水源ではないが三角点名が山名となっている場合もある。双珠別の名が付く三角点が設置されているのは今回登った1347m峰の方で、森林管理所の地形図では点名が山名となっていることもあって、林業界ではこちらを双珠別岳としている。

日勝峠へ向う通称・樹海ロードの1合目から4合目にかけては覆道が続き、急峻な斜面が迫って来る。およそ登山に向かう入山口というにはほど遠い感じであるが、以前に二度ほど付近から林業界の双珠別岳を目指している。一度目は12月に3合目付近の尾根に取り付いた。締まっていない積雪にスキーも使えずにツボでの入山であったが、ラッセルと藪漕ぎのダブルパンチで、遥か頂上を仰ぐのみで敢え無く敗退してしまった。二度目は3月で、4合目付近から取り付いた。あまりの急傾斜で、一度のキックターンで稼げる標高はわずか1〜2mであったが、何度となくキックターンを繰り返すうちに尾根上へ出たのを覚えている。尾根上からは総じて急傾斜ではあったが、そう苦労もなく頂上へ到達した記憶がある。現在はこの山も登られるようになった。特に西側のニセクシュマナイ沢は7〜8つの手頃な滝が続き、日帰り遡行の山としてはコンパクトにまとまっているようである。東側から頂上へ突き上げる「竹の沢川」(「北海道河川一覧」・北海道土木協会編)の記録はWeb上では見つからなかったため、今回はこの最短ルートを調べるつもりでの入山である。途中、ニセクシュマナイ沢出合に立寄るが、この日も既に1台の車が停まっていて、この沢の最近の人気の高さを窺うことができる。我々は三合目と四合目の間にある第二鹿鳴覆道へ向い、そこからの入渓となる。

覆道入口の駐車スペースに車を置き、沙流川を渡る。水量は少ないが結構な流れである。特に流芯のエネルギーは想像以上で、水量が少ないからといって油断は禁物である。渓流の沢川に入ると水量は少なく、川床は凹凸のしっかりとしたナメ状で歩きやすい。直ぐに現れる560m二股を過ぎると小滝が続くがどれも容易である。地形図を見る限り、720〜740m付近のコンタはけっこう混んでいる。それなりの滝が現れると予想はしていたが、いきなり行く手に大規模なゴルジュが現れ驚かされる。その奥には30mはありそうな瀑布が垂直に水を落とし、陽光に輝いている。突破口を探るため、ゴルジュに近づいてみると、右岸がせり出しハングっている。樹木は遥か数十メートル頭上に見え、多少の崩れでも直撃されそうで恐ろしい。左岸に弱点を見つけメンバーの許へそそくさと戻る。地形図を見る限りでは、ある程度登れば右岸の方がコンタは疎となっているようである。

細い流れの遡行は続く
この時期の高みはトンボだらけ
双珠別岳頂上に到着 頂上はトンボだらけ
遠く、華麗な夕張マッターホルンの姿も見える

結局、右岸のルンゼ状の小沢を登り、適当な標高で滝の落ち口へトラバースすることにする。一段上がって下流方向へ最初のジグを切るが、泥状の草付きで、後続者への落石に神経を使う。そのまま登れば岩壁となるため、途中でトラバースしてルンゼを直上することにする。私とKo玉氏が先頭で登るが、潅木や笹はなく、かなり不安定である。後続者からはさかんに登っても良いかとの声が聞こえるが、落石の危険性もあり、先が見えない以上は待ってもらうしかない。進む方も待つ方も辛いところである。40〜50mも進んだだろうか、やっと灌木が現れ一息つく。しかし、先頭を登ったもののザイルを持たなければ何の意味もないことに気付く。登ってくる後続メンバーをはらはらしながら見ているよりなす術がなかった。何とか無事全員が登り終えてホット一息である。

さらに登るが、潅木や笹もあらわれ、傾斜も緩くなる。メンバーの高度計では沢から標高差にして100mくらいは登ったようで、ここからは滝の落ち口を目指してトラバースの開始となる。途中、崖が行く手を塞ぐが、おそらく右岸のハングではなく、上部の別の崖と思われる。下部は平となっていて歩き易そうだが、様子が判らない以上は大事を取って、さらにその上の緩斜面を巻くことにする。巻いた先の沢形の急斜斜面を灌木につかまりながら下ると、丁度滝の落ち口であった。高巻きの下りは約20m程度とのこと。要した時間は約40分、けっこうな巻きであった。ここから覗く滝下は吸い込まれそうである。巨大なゴルジュに囲まれた上、抜群の高度感があり、とてもまともには覗き込めない。

次にどのような滝が現れるのだろうとの期待と不安を胸に進む。情報を持たない山行の醍醐味とも言えるが、結果的にはゴルジュの大滝が全てだったようである。その後はおおよそ3m〜5m程度の小滝が続くが、簡単すぎず難しくもなく、適度な満足感が得られる登りである。970m二股の右股は滝が見えているとのことで、簡単そうな左股へルートをとる。幾つかの小滝を越えると水の噴出し口があり、以降の水流は消える。ここから頂上までは水平距離300m、標高差300mと単純に考えても平均45°の急斜面である。沢形が怪しくなると、いよいよ最後の藪漕ぎ急登となる。行く手を塞ぐのはやはり根曲がり竹である。ルンゼの高巻きでは心待ちにしていた根曲がり竹も、この急登では障害物以外の何者でもない。もう少し上手く分散して生えてくれれば…と思うのは私だけではあるまい。人間とは全く勝手なものであるが、相田みつおさん風に表現すれば「こう思うのは自然なんだな、人間だもの…」といったところであろうか。隣の薮が薄く見え、一番強烈な薮漕ぎをしているのではないかとつい自分自身のルート選択さえ疑ってしまう。さらに我慢の藪漕ぎは続くが、途中途中で最近まで雪渓が残っていたのか、薮が一休止するのにはホットさせられる。

飛び出した稜線上には薄っすらとシカ道があり、潅木帯ということもあって、予想していたよりはかなり歩きやすい。距離にして200mほども進むと、6年ぶりの頂上に到着である。話題のの錆びたドラム缶(コック付き)もあり、確かに林業界の双珠別岳頂上である。このドラム缶、楽古岳・メナシュンベツ川源頭にも同じようなものがあり話題を呼んだが、何かしらの作業(笹刈り作業?)で使ったガソリンを入れてきて不法投棄したのであろう。座ってもまだしっかりしており、この頂上のシンボルとなっている感がある。将来的には新田次郎「剣岳・点の記」に登場する山伏の錫杖頭に匹敵するくらいの価値が出るのかもしれないが、今は粗大ゴミ以外の何者でもない。頂上の展望は素晴らしい。あいにく北日高の山並みは太平洋側からの暖気の流入によってガスが掛かって見えないが、トマム方面や夕張岳を始めとする夕張山地、狩振岳の綺麗な三角錐、大雪の山並など、見ていて飽きないパノラマが広がる。山座同定のために20万図をザックにしのばせる岳人の気持が何となく伝わる思いである。

下りは国道を目指して尾根筋にルートを取る。沢ヤと薮ヤという区分を敢えてするとすれば、違いはこの辺りかもしれない。私には薮ヤの自覚はないが、野生動物が山を面として捉えている以上、人間様だって同じように面として捉えても良いのではないかとの思いがある。下り始めは登り同様に緩斜面からのスタートである。しばらくは灌木も低く、見通しが良い。この時点で、視界からの情報をいかに先取りしておくかが、その後のルートファインディングには大きく影響するようである。メンバーのKo玉氏、仲間内ではよく野性的感の持ち主と評されるが、彼は決して感のみで行動しているわけではない。事前の緻密な地形観察が彼の正確なルートファインディングにつながっているように思われる。コンタ1170m付近のルートファインディングは真骨頂であった。どの方向へ進もうとも皆同じ斜面である。しかも標高が落ちているため、根曲がり竹も背丈を越えている。視界0の中、事前に地形の特徴をインプットしていた彼の頭は、尾根筋の微妙な変化も既に計算澄みであった。半信半疑で付いて行くが、忽然と目的の尾根筋が現れたのには全員感動モノであった。ただし、気の毒なことに自身のキャラのため、ますます獣の感を持つ野生児と評されてしまったようである。要は尾根分岐であるコンタ1170m付近に到着してから地形図を見ていたのでは、時既に遅しということであろう。 最後は測量でもしたかのように薮の中からぴったりと入渓地点が現れる。(2006.8.27)

■同行して頂いたmarboさんのblog

【参考コースタイム】 渓流の沢川出合・鹿鳴第二覆道入口 7:55 → ゴルジュの大滝 8:40 → 高巻き終了 9:20 970m二股 9:55 → 1347m峰「双珠別岳」頂上 12:35、〃発 13:10 → 渓流の沢川出合・鹿鳴第二覆道入口 16:25

メンバーKo玉さん、marboさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga) 

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