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       ソウキップ(1026m) …ソウキップカオマナイ川から

 1/25000地形図「俣落岳」

砂防ダム(鉱山の沢林道終点)に車を駐める
硫黄でエメラルドグリーンとなった流れ
F1を登るmarboさん
F2はしばし考える

 つい先日、いつも当サイトの掲示板に投稿して頂いている網走・伊藤氏(知床半島の湖沼・著者)からソウキップカオマナイ川を詰めてソウキップ岳ヘ登ってきたとの書き込みがあった。4年前の尖峰の時と同じアプローチで、尖峰分岐までは穏やかだったが、それより上部は滝が連続して面白かったらしい。この連休は道南・遊楽部岳の沢を予定していたが、marboさん(大好きOnnenupre管理人)からこちらにしないかとの連絡があり、急転直下、道東へ向かうことになった。いつも伊藤氏の山行報告に指をくわえて見ていた私としては、一度伊藤氏の高揚感が覚めやらぬうちに同じルートで山行を組んでみたかった。 無雪期の登頂者が少ないといわれるこのルート、チロロ2さん、3さんをかかえる当チームとしては、彼女らに伊藤氏の言う女性無雪期登頂の3番目、4番目の栄誉を獲得して欲しかったというのも大きな理由である。なんせ「童人チロロの風」以降のこの約10年間は彼女らに世話…?になっており、故障の多かった彼女らだが馬子に衣装ともなればせめてもの恩返しとなる。

2mの滝で方向修正となる
滝の落ち口で“お助け紐“を構えるmarboさん

 4年前の時は雨天の翌日ということもあったが、この川は意外と水量が多く、渡渉等で気を使う場面が多い。上流には硫黄を産出する鉱山があったらしく、清流には見えるが川底の石は鉱物で白く覆われていて滑りやすい。前回は鉱山への道路跡を利用したが、よく考えてみれば10月の下旬、笹以外は全て枯れており、かなり見通しの良い状態であった。以前に通過した笹薮の中の踏み跡を探すが、今のこの時期では草木の方が元気が良過ぎてとても太刀打ちできる状態ではない。結局はおとなしくしく河原を進むことにする。ペクンネウシヌプリ分岐には赤布がいくつも吊り下がっていて、このルートの地元での人気の高さがうかがえる。

 硫黄のせいか時々現れる澱みはエメラルドグリーンで、なかなかの美しさである。尖峰への分岐までは知っているはずだったが、晩秋とは違った風景が展開していて、とてもあの時と同じ沢を歩いているとは思えない緑豊かな光景となっている。変化が現れるのは尖峰への分岐を過ぎてからだ。コンタ500mでプールを持った最初の滝(F1・5m)が現れる。左岸の縁をたどって水流の右側を登る。順層となっていて手掛かりは豊富にある。陽光に映えるエメラルドグリーンのプールを背にして登る滝は、正に沢本番の醍醐味である。

 ここを過ぎるとすぐにF2(コンタ520m)が現れる。こちらも4m〜5m程度の滝だが、右岸側に水流が偏っていて、勢いよく落ちる水流あたりに手掛かりがある。その強さに逆らって登るのは難しく、適当な巻きルートを探す以外に手はない。右岸側の巻きは草付き急斜面のトラバースがあって嫌らしく、左岸側の草付き斜面を騙しだまし登ってルンゼ状の隙間から上部へと抜けることにする。しっかりとした樹木まではあと一手二手届かず、少々緊張する場面でもあるが、足場を崩さぬように登ればどうにかなる。直登沢出合までに通過する滝はこの二箇所。コンタ540m二股の先を見に行ったmarboさんの話によれば同じような滝が550m二股のすぐ上流にもあったとのこと。いずれが本流と呼ぶかは判らないが、長さから言えばこれから進む直登沢が本流となるのだろう。

 直登沢へ入るとmarboさんが方向が違うと納得のいかない様子。とりあえず他に考えられる分岐はないのでそのまま進むが、50mほども進んだところで2mの滝が現れて方向はしっかり修正される。約100mほど進んだところで820m小ピークへと続く小沢が20mはあろうかと思われる細い滝となって落ちてくる。その後滑滝は何箇所か現れるが手掛かりは十分、気分的にはエンジン全開といったところだ。印象に残るものとして、この日最大・7〜8mのナメ滝もあったが、しっかりとした手掛かりがあって全員フリーで難なく通過している。

 いよいよ網走・伊藤さんが間違えて、約1時間をロスしたと書いていた分岐となる。実はこの時の書き込みで750m二股を770m二股と勘違いしていた。750mは水流の多い右股へと順当に入るが、770m二股では考えた末に右股へ入ることにした。750m二股は左股の水量が極端に少なく、伊藤さんのパーティはここでは左へは入って行かなかったのでは?と思った。同じような水量が分かれる770m二股、おそらくここが間違った地点ではないかと、右股へ入ってしまった。そもそも770mで右へ入ると思い込んでいたのだから、そう考えてしまってもしょうがない。その先さらに二股が現れ、さすがにここでは水量の多い右股へは入れず、流れの細い左股へと入る。そのまま詰めると沢形が蛇行し始め、ついには藪斜面に消えてしまった。間違ったことにはすぐに気が付いたが、今更戻るといった選択肢はなく、藪漕ぎで頂上へ向かうことにする。根曲がり竹の強烈な藪漕ぎであればとても無理なところだが、ここの笹は比較的薄く、進む方向が見えるので何とかなりそうな感じである。

 いくつかの枯れた沢形を越えつつ、しばらくは平坦地の藪漕ぎが続く。パラパラと雨も落ちてきて、思いのほか費やす時間に不安さが増してくる。徐々に傾斜が出てきた。ふと気が付くと並行して沢形が走っている。本来の頂上への沢形に違いない。であればと、沢形から頂上を目指すが、左側に寄り過ぎたために再び藪斜面へと変わってしまう。背の低い笹原にも時々ハイマツが混じり、笹薮を探しながら稜線上へと抜ける。頂上はもう近いはず。さらに進むと広いハイマツ帯となり、逆に下り始めた。既に14時近くになっている。ここを頂上とするのでは何となく中途半端さが残る。marboさんはしきりに対岸に薄っすら見える影が雲かピークか気にしている様子。結局はあちらがピークではないだろうかとの結論となる。

770m二股…ここで間違えた 長い長い藪漕ぎとなる
ガスのかかる頂上に何とか到着   やったね! 最後は真っ暗闇の中 砂防ダムに到着

 ガスっていることもあって、かなりの距離感を感じる。「ここを頂上として下山しよう!」とアドバルーンを上げてみる。本音を言えば、たとえ帰路が暗くなったとしても、ここで悔いを残してしまっては下りの士気は下がるばかりだ。納得するまで登ってしまった方が下山はすっきりスピーディーに下れるものである。結局、行ってみようとのパーティ全体の総意となる。ハイマツの海とも思えるニセピークだが、下り始めると直ぐにハイマツは途切れて普通の藪となる。ガスは実際よりも山は高く遠いものに感じさせるというのは山ヤの常識。何と、少し下って少し登っただけで呆気なく本峰到着となった。地形図は嘘を言わない。良かった!…心底そう思った。時間的なロスはあったが、今度こそ本当にソウキップ岳の頂上に立っていることを実感することができた。標石がないので、平らな頂上はどこがピンポイントで標高点なのかは判らないが、少なくても取り出したGPSでは最接近地点で5m以内(目的地到着)とはなっている。時間はないが、風のない藪の中で祝いの頂上ビールとする。

F1を登る私・・・(marboさん提供)

 下りは余程効率よく下らなければ、最後はヘッドランプの沢下降となるだろう。となれば、懸垂下降を何度かしなければならない往路は使えない。伊藤氏のたどった822m手前までは少々遠いので、とりあえず831mにコンパスをきって、その先の沢形から本流へ戻るのが良さそうである。ニセピークを右斜面から巻いて北東側に伸びる尾根を下る。果てしなく続く藪の中をコンパスを頼りにどこまでも真っ直ぐに進む。途中で沢形を横断するが、とにかくは831mは最低限越えなければ往路の沢へと逆戻りするだけである。最後尾につくmarboさんの話によれば、右側へと引っ張られているらしい。831m手前の沢形で軌道を修正、今度は一面ハイマツの海となる。通称;ソウキップ台地のど真ん中、さすがにこの時は少々弱気になり往路の沢へ下ることも考えるが、直ぐ後を歩くチロロ2さんに様子を聞いたところ、前進あるのみとの思わぬ回答。前方の831m付近は樹林帯となっているので、そこまで進めばハイマツは無いと読む。読みの通り、何とか831mを越えることに成功、最初に現れた沢形から下降を開始する。

 480m二股へと下る小沢には一箇所だけ滝があるが、ザイルを必要とするほどのものではない。途中、ほとんど休憩することなく一気に下る。480m二股には明るいうちに到着、ほっと一息である。だが、その先は日没との競争となる。ヘッドランプを付けての川の渡渉はできれば避けたいところ。以前の経験では通常の3倍もの時間を費やしている。普段は膝やら腰やらあちこち痛がるチロロ2さん、今年の沢初であるチロロ3さんもさすがに休もうとは一言も言わずに歩き続けている。これは火事場のばか力とも違うようだ。まだまだやれることの証と言えるだろう。左岸側の尾根がなだらかになり、前方に砂防ダムの堰堤が現れた。ダムの梯子を登っていると一足先に到着していたmarboさんがヘッドランプを付けて迎えてくれた。ふと、ヘッドランプから目を逸らすと、辺りは既に真っ暗闇となっていた。(2012.7.15)   ソウキップカオマナイ川の滝

marboさんの山行記録へ

【参考コースタイム】砂防ダム 6:45 550m二股 9:45 → 770m二股 11:40 → ソウキップ岳頂上 14:00、〃発 14:20 480m二股 17:35 砂防ダム 19:25     (登り7時間15分 下り5時間5分 ;行動時間 12時間20分)

メンバーmarboさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

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