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       空沼(1251.0m) ・・・金山沢林道/積雪期

999m峰付近から望む空沼岳(2012年4月30日撮影)

 1/25000地形図 「空沼岳」

漁林道からは見事な稜線が見えてくる
予定していた金山林道との合流点に到着
山の名となった空沼、緑豊かな頃にぜひ訪れてみたい
金山林道入口付近の駐車スペースに車を駐める
725m付近から見る藤野富士と藻岩山
間違った尾根上からは恵庭岳が頭を出す
漁林道からは見事な稜線が見えてくる

空沼岳は札幌を生活の場とする私としては何度も登った馴染みの山だが、積雪期にこの山を訪れるのは25年ぶりのことである。積雪期で、とにかくピークヘ立つことを第一の目的とする場合には、まずはピークから一番近い除雪されている道路を探すのがセオリーといえる。空沼岳の場合、国道453号線(通称;支笏湖線)の金山沢がこれに当たる。後日、Web上を覘いてみるとこの林道からの記録が幾つもUPされていたのには驚かされた。考えるところは誰でも皆同じということだろう。このルートは林道の入口付近は通行禁止となっており、「北海道冬山ガイド」(北海道新聞社発行/北海道の山メーリングリスト編)では少し先の下金山林道からのルートが紹介されている。無精者の私としてはこれらの情報を見ることもなく入山してしまったため、図らずも禁止されている方の金山林道を利用させてもらうことになる。

ここで金の採掘が行われていたことは後日Web上のウィキペディアで知った。それによれば2006年までここに「光竜鉱山」という名の事業所があり、つい最近までそれは存在していたらしい。登山者との間でトラブルもあったようだが、現在は、特に冬場については関係者が入っている様子は全く感じられなかった。そもそも、国民の共有財産である国有林を利権の絡む一部の民間業者に貸し出し、事業所が稼動していない期間でも通行させないというのは全く道理の無い話である。国有林は、国民の健康及び休養のために広く利用されることも目的の一つとされており、積雪期・空沼岳への最短距離とおぼしきこの林道の通過は我々登山者にとっては当然の権利といえよう。私個人としては今後も金山林道は利用させてもらうつもりだ。

林道に入って直ぐに事務所兼飯場と思われる怪しげな建物が現れる。そこを過ぎるとズリ山と思われる平らに堆積された大きな土砂の山が現れ、そのまま道路に沿って進んで行く。ところが、道なりに進んで行くうちに、沢に被さるように作られたよく解からない変な構築物で道路が消えてしまった。途中、用足しで出遅れた私としては何かおかしいとは思ったが、ここを過ぎれば再び道路が現れるものと信じつつ先頭のトレースをたどって行く。何かおかしい?やはりおかしいぞ…第一、沢形が狭すぎる。先頭を行くチロロ2さんは構築物を巻くように進んで行くが、とにかく上へ逃げようとのことで一致、急斜面を登って行く。斜面をぐんぐん登ってもなかなか尾根上へは届かない。

チロロ2さんが地形図を見ながら、ここへ入ってしまったようだと指を差す。予定していた沢の1つ南側の沢で、尾根を乗り越したとしても金山沢側へは傾斜がきつ過ぎて降りられない。こうなったら尾根上をたどって金山林道の終点を目指すことにしようとの結論となる。こんなところを歩いているアホな登山者など他にはいないだろうと思ったが、後で他の記録を見た限りではよく間違える箇所のようである。ここの正解はズリ山の北側だったと下山時に知った。無雪期はともかくとして、道路が雪面に隠されていれば、どうしても明瞭な方へと引っ張られる。基本的には周りの地形をしっかり見ながら進むのが鉄則で、それを怠ってしまったための失敗だった。

結果的にはオリジナルなルートとなったことに何となく喜びを感じつつも725mのポコを越える。降雪で風は北西の風7〜8mとの予想だったが、どうしてどうして、晴天で雲ひとつない絶好の登山日和についつい気分も高揚する。頭を覘かせた朝の恵庭岳からは雪煙が舞い上がっていてなかなかの迫力だ。北側を見れば我が家のある藻岩山と藤野富士のツーショット、ここだけの特別なアングルである。725mポコまで登り詰めると行き止まり、少し戻ってから左側を巻いて稜線上へと抜ける。尾根の合流点を通過、徐々に下りながらそのまま進んでカーブミラーが目印となる漁林道へと出た。ここまで来ればしめたもの。林道は斜面を巻くように続き、当初予定していた金山林道との合流点に無事到着する。

さて、いよいよこの山の山名となった空沼への登りである。小沢の間の小尾根であるが広く緩やかで何箇所にもアップダウンがあるため、下りを考えればここは効率良く進みたいところだ。しかし残念なことに、数箇所で下りのトレースを付けてしまった。詰めは沼への急斜面、腐った雪面にはシールが思いのほか良く効いて、ほとんど直進状態で登ることが出来るのはラッキーである。厳冬期のラッセルであればとてもこんなに楽には登れないだろう。小さな高みを越えると空沼の白い雪面が広がった。真っ白な単なる広い雪原だが、融雪の頃ともなれば満々と水を湛えた神秘的な青い水面が大きく広がっていることだろう。左正面に飛び出す空沼岳本峰がその水面に映っている様はこの私ですら想像に難しくない。雪面のほんの一箇所では既に極小さな湖面が顔を出していた。いよいよこれからが“春の始まり”とでも告げているかのようだ。

風の強い稜線上、頂上は近い  空沼岳頂上にて

ここまで来た以上はやはり空沼岳の頂上も踏んで行かなければならない。この日三度目の急斜面の登りへと入る。大きくジグを切りながら標高を稼ぐが、春の陽気を感じさせる空模様の中にも吹き荒れる北西風の唸りが私の逸る気持を押さえつけるように迫ってくる。稜線上へ出て北西風とガッチンコすれば間違いなく苦労させられるだろう。できれば避けたいところだ… 急斜面を登り詰め、強風を避けるべく稜線の風下側を頂上方向へとぎりぎりまで詰めて行く。頂上台地の取り付き地点でスキーをデポ、ここからはいよいよ逃げ場のない強風の中へと突入だ。ところが、真の敵は強風ではなくツボとなった足元だった。強風は想像の範疇で突風ではない。クラストしているはずの雪面はところどころでハイマツの中へとすっぽ抜ける。下手して体ごと落っこちてしまったらどうしよう…とにかく騙しだましの前進あるのみだ。場所によってはツボでは怖いクラスト雪面、そんな軟硬混在する微妙な雪面上では頂上までのわずかな距離が何とも遠い。雪面に残る古いスノーシューのトレースを発見、その部分だけは少し雪面が固くなっているようなのでこれも利用させてもらう。気が遠くなるような距離感を感じつつ前進していたが、実際のところは300〜400mくらいのものだった。

頂上標識が雪面から顔を出していた。見慣れた空沼岳頂上の風景である。強風の中、素早く周辺の光景をデジカメに収め、目的達成の満足感を土産に即座の下山開始とする。スキーのデポ地点で北西風の陰へと逃げ込むと、強風が嘘のように消えてしまい、春の陽気が再び戻ってきた。遠くの広い雪面からは一筋の煙が立ち上っている。よく見れば渦を巻いており、冬将軍の名残が小さな竜巻となって雪を舞い上げているようである。空沼への急斜面の下降では湿って動きのかなり鈍くなった表層雪崩が発生、気温の上昇にその本来持っているはずの破壊力は完全に封じ込められた格好だ。“遅い春”といわれている今年の雪解けだが、遅い中にも確実に季節が移り変わっていることを感じさせるこの日の山行であった。(2012.4.1)

頂上からの眺め+α

【参考コースタイム】金山林道入口P 6:25 林道終点 8:15 → 空沼 9:40 → 空沼岳頂上 10:40 → (途中30分休憩) 空沼 11:40 林道終点 12:45 金山林道入口P 13:20    (登り4時間15分、下り 2時間10分)

メンバーsaijyo、チロロ2

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