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      斜里(1547m) ・・・小屋の沢1000m左股から

小屋の沢から見た斜里岳頂上(左)

1/25000地形図斜里岳」

小屋の沢林道終点に車を置く
しばらく歩くと水流が現れる
今回唯一目立っていたミソガワソウ

 斜里岳・小屋の沢は5年ほど前に一度入っている。小屋の沢という名称は地形図には載ってないが、この沢沿いの林道名が「小屋の沢線」となっているので、沢名は小屋の沢で間違いないというのが今回の計画の発案者・marboさんの見解だ。もっとも、記録が見当たらないこの沢への最初の足跡を残したmarboさんがそう言うのであれば、ルート名を「小屋の沢1000m左股」と名乗っても良いのではないかと思う。確か、以前に訪れた時には途中の林道沿いにルピナスが群生しているところがあり、昔は建物があったと容易に想像される場所があった。これが小屋の沢発祥の地かどうかは判らないが、少なくても昭和のいつの時代かに、この周辺に人々の営みがあったことだけは間違いなさそうである。

 林道はつい最近に整備の手が入ったようで、林道終点まで綺麗に雑草が刈られていた。終点からは踏み跡をたどって枯れた入渓地点へと進む。以前遡ったパンケニワナイ川もそうであったが、水流は伏流となってすっかり消えている。乾いて苔むした岩々はリズム感さえつかめば快適そのもの、ついついスピードが上がってしまう。滑り出しは人それぞれ、ついつい好い気になって飛ばしてしまい、パーティ全体としてのペースを乱す結果となった。パーティの一員としては反省しなければならない。スタートから1時間20分ほどで流れが現れる。

F2を下から見る 私は確保されて登るが、けっこうな高度感だった
行く手にF3が見えてくる F3には皆それぞれに取り付く

 鬼が出るか、蛇が出るか、予想されるものが大きいだけにこの単調さが余計に長く感じられる。一昨年、この日のメンバーであるmarboさんとmocoさんはこのルートを下っている。話によれば“とにかく凄い”とのこと。ただし、これは下降してのことで、登りとなればまた別物、意外に弱点をさらけ出していることだってありうるとの見解。私は正直なところビビッたが、現場を見る前からビビッていては楽しさも半減してしまう。ここはアグレッシブに胸弾ませる方が得策といえるし、実際そう考えれば期待感も膨らんでくるから不思議である。初見の沢の醍醐味とは心のこんな微妙なところにまで影響するものなのだろう。

 1000m二股は5年もの歳月が流れたせいか、考えていたよりも遠く感じられた。この時はここから右股へと歩を進めているが、記憶として残るのは、右岸側の急峻な尾根筋にルートをとったこと、頂上で突風にさらされたこと、そして強烈だった西尾根のハイマツ下降で、これらは今でも鮮明に頭を過ぎる。逆を言えば、それ以外はまるで頭にないというのが正直なところ。そんな意味で今回は、スタートも含めて私にとっては未知と言えるのかもしれない。大きく開けた沢形地形は日高のそれを思わせる。鬱蒼としたブタ沢遡行が多い私としてはこの開放感が何とも眩しく感じられた。入渓から2時間40分で1000m二股に到着する。緊張感の中、ハーネスを付けていよいよ核心部への突入である。

 沢相は一変、前方遠くに何段にもなった滝が現れる。わずか200m程度の標高差に滝が凝縮しているらしい。最初に現れたのが5〜6mのF1、一見して登れるようにも思えたが、近づいてみると意外に手強そうである。私のレベルであれば手掛かりはいわゆるガバ(ガバッっと握れるホールド)のみであるが、この滝にはそれが全く見当たらず、細かな手掛かりを騙し騙し登らなければならないようである。微妙と表現するのは人それぞれだが、少なくてもガバがなければ、もしかの場合にはぶら下ることも出来ず、落ちるのみである。“安全”といった担保のないバランスを要する登りこそが微妙と表現されるケースではないだろうか。そう考えたならF1は間違いなく微妙な滝といえる。marboさんがリードして難なくこの滝を突破する。私はザイルで確保されていたから事無きを得たが、一度足を滑らしている。ノンザイルなら落ちていたかもしれない。山遊人さんとチロロ3さんは左岸側を大きく高巻くが、最後の乗り越し手前でかなり微妙になり、ザイルを出している。

F3、結局のところ最後がどうにもならなず
1000m二股にて休憩、いよいよ核心部へ F1手前の小滝、F0か?
小屋の沢1000m左股の核心部 F2をリードするmarboさん、カッコいい!

 F1に続いてすぐにF2となり、早くもこの沢の核心部である。大滝の中段で二方向から流れが合流しているが、中央と左岸端の二本の流れとなって落ちている。左岸側の方は地形的にも落差が少なくコーナーとなっていて、右股の流芯となっている。流れの中には何か取っ掛かりがありそうで、取り付きやすいと考えたのが私とyosidaさん。yosidaさんが果敢に取り付いてみたが、見た目よりは厳しいとのこと。滝の上部の水流の中については実際入ってみなければ判らず、さらに試してみるにはリスクが大き過ぎる。marboさんが取り付いたのは何と真ん中の苔生した岩壁。外傾してはいるが途中(7〜8m)の窪みまでのスタンスはある。ただし、こちらも水流の中に手掛かりを見つけなければならない。リードするmarboさんは窪みで一息、ここにピンを打ち込む。さらに上部へはこの倍以上の登りとなるが、若干傾斜は緩む。とはいえ、全体的にスラブ状とあってはピンを打ち込む岩の割れ目が見つからないようである。ピンが刺さらず水流を左側へと跨ぐ様子は、見ているこちらの方が息を呑まされる。一昨年の下降時に残したといわれる残置の支点まではさらに遠く、彼が途中の斜めったバンド状を流れる水流に到達したときには見ている側としてはほっとした。結果的には25mの中で途中に1ヵ所の支点、滑落でもすれば無事ではすまない。marboさんに聞いたところ、一つ一つを確かに進んだ結果とのこと。精神的なタフさが未知のクライミングへの必須条件ということだろう。

F4もここから先の少しの部分が難しい

 ザイルは50m×2本、30m×1本と余裕があり、我々セカンド以下はスピーディに登ることができた。ロープの確保があるので難なく行けるものと考えていたが、実際登ってみると最初のピンまでが嫌らしい。適当なホールドは水流の中にあるので冷たい水を浴びることになる。記録的と言われる今年の残暑だが、さすがにこの冷たさには気持的にも萎縮させられた。marboさんが途中で支点を取れずにそのまま登った上部の斜面だが、指を引っ掛ける穴ぼこがある程度で足の置き場はスラブ状、フリクションをフルに発揮して騙しだまし登るしかない。最後尾ではないので失敗しても大きく振られることはないが、それなりの緊張感を強いられる。日常的に考えて、20〜25mともなればちょっとしたビルディングで、私の勤めている病院の屋上よりも高いかもしれない。このF2を登りたくて悶々としていたmarboさん、周到な準備をしていたとはいえ、良く登ったものとつくづく感じる。

 大滝の中段から沢相は一旦落ち着き、細い流れとなってほっと一息。メンバーの山遊人さんは中段のテラスからさらに上部へ取り付こうとして笑いを誘ったが、私もルートを聞く前までは次の取っ掛かりを探していた。そのまま次のピッチも進めそうにも感じたが、さらにその上はどうなっているものやらまるで判らず、さすがに不安の方が大きかったというのが正直なところ。既に核心部のF2は通過、この日初めて小屋の沢・1000m左股のトレースは成功するだろうと確信することができた。

馬の背に飛び出して、まあ何とか頂上に到着

 次に現れたのが7〜8mのF3、核心部のF2を見た後だっただけに、威圧感はまるで感じない。しかしこのF3も意外に手こずる。滝自体はぺろっとしたスラブ状で、右岸側からチャレンジしたmarboさんは一段上がったところで立ち往生。もっともF2を登りきった満足感のためか、がっぷり取り組んでいる様子ではなさそうだ。yoshidaさんも中央から攻めてはいるが、こちらも半分楽しんでいる様子。この滝の左岸側の際に急ではあるが階段状に岩があり、それを使えば難なく滝上へと抜けることが出来る。ただし、岩の状態は半分ほど草に隠れていて判らず、一つの支点に全体重を乗せようという気にはならなかった。

 少し進むと最後の関門ともいえるF4が見えてくる。marboさんが言っていた二段の滝である。下部は緩く、上部が細いS字状となっていて、見たところではどこかに手掛かりがありそうな感じがする。先頭でこの滝へ入ったyoshidaさんはすいすいと登ってS字状へと取り付いている。しかし、何やらクライミングのムーブでも楽しんでいるのか、一向に進まない様子。三番手のチロロ3さんは痺れを切らしたのか、右岸側の岩稜へと取り付き潅木帯へと逃げる。私もチロロ3さんの後に続くことにする。しかし、ザイルを出すとの話になって、S字状・上部の突破がかなり厳しいと知る。S字状は細い流れとなっているためにきれいに磨かれており、手掛かりなどまるで無いらしい。巻きに回った我々は潅木帯から滝上へと抜けるが、何と新しいシュリンゲが残置されていた。この沢を下るパーティもいるんだ…と何気なく思ったが、そんなパーティなどいるはずもなかった。marboさんたちが一昨年残したものとのこと。チロロ3さんは太い樹木に支点を取って、てきぱきと確保の体勢に入る。上部から覗き込むとかなりの高度感があり、S字の上部はとても登れるような感じではなかった。

 F4を過ぎると後は何もなく、大きく右にカーブして細い沢形が馬の背へと続いている。雲の上に浮かんでいる海別岳が、札幌から遙々斜里岳までやって来ていたことを思い出させてくれた。後で聞いたところによれば、一般コースからこの斜里岳に登る予定だったチロロ2さんは朝方の雨により中止したとのこと。表側はオホーツク海側から吹き付ける雨雲の影響でけっこうな雨となっていたらしい。我々のルートはちょうど反対側で、ガスはかかっていたが晴れ間さえ見えた。こんな大きな山ともなれば天候を分ける転換点のような存在となっているようだ。馬の背では雨の合い間を見て登ってきた一般登山者のグループと出くわす。さて、ここから15分で頂上。この日の登山の総仕上げとしよう。(2012.09.14)

marboさんの山行記へ   ■yoshidaさんの山行記

【参考コースタイム】 小屋の沢林道終点 700 コンタ1000m二股 9:35 馬の背 12:30 (上り5時間30分)

  【メンバーmarboさん、yoshidaさん、山遊人さん、mocoさん、saijyo、チロロ3(旧姓naga)

 

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