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       札内岳(1895.2m)〜ピリカペタヌ沢川 

十勝幌尻岳から望む札内岳(右手前)

 1/25000地形図「札内岳」

八の沢までは長い河原歩き

 20年ぶりに札内岳・ピリカペタヌ沢ヘ行ってみた。20年前の当時、もうこの沢に来ることなどないだろうと思っていたが、再訪した他の山々を考えてみると、人からぜひ行ってみたいから一緒に登ってほしい等で複数回訪れている山はけっこう多い。今回の山行は今は亡きKo玉さん絡みである。Ko玉さんの生前、北のかもしかさん、Konさんの3人で別の沢からこの山の頂上を目指したが、その時は時間切れで撤退したとのこと。今回は私がKo玉さんの著書を完成させたこともあり、Ko玉さんに代り私が入ってのリベンジである。一番オーソドックスなビリカペタヌ沢川から頂上を目指すことにする。

プロノのスパイク靴は万能だが、900m付近の滑床だけは苦労させられた

 しばらく沢山行から遠ざかっていたこともあり、行く前は正直なところ不安でしょうがなかった。沢山行の場合、普通はシーズン始めから徐々にウォーミングアップし、ある程度なれてから本番となる。もっともピリカペタヌ沢川については初級の沢で、ネット情報によると滝については巻きルートもあるようなので、大丈夫!と自分に言い聞かせるしかなかった。20年前の時は頂上で泊まっているが、今回は新型コロナ感染防止の観点から各自個別のテント泊となるため、途中でテント場を探さねばならない。

 トッタベツ林道からは途中で崩壊してしまった作業道跡を使う。20年前にこんな林道があったかどうかは全く記憶にないが、しばらく歩いたところで広い河原歩きとなる。途中、大きな砂防ダムを二つ越えるがどちらも左岸側に踏み跡がある。砂防ダムからは広い荒涼とした河原歩きが十勝幌尻岳への分岐となる八の沢出合まで続く。八の沢出合にテント泊した場合の一泊二日は翌日の行程がかなり厳しくなる。出来うる限りテントは上部まで上げたいところだが、頂上以外にテントを張る敵地がないだけに難しい。八の沢出合いからは沢相が一変して河原が狭く、大きな岩々にルートを探しながらの沢歩きとなる。結局この日は次の九の沢出合で泊まることにした。

◆◆◆

F1 (左岸に巻きルート)

F2(ここも左岸に巻きルート)
八の沢出合からは河原も狭まり、大きな岩にルートを探す

 翌朝は明るくなってすぐにテント場を出た。900m付近からナメ床が連続する。それまではしっかり機能していたスパイク靴だが、さすがに磨かれた岩盤の上では鉄ピンも無力化する。岩の表面の凹凸を慎重に確かめつつ、周りの草木をつかみながらの慎重に通過した。こんな時にはフェルト底が効果的なのだが、あれもこれも持っては来られない。このナメを通過して少し進んだところでF1となった。見た目にはコンパクトだが函状となっていて直登など絶対に無理だと思った。だが、ここは初級の沢。解答を探してあたりを見渡すと、案の定 左岸側に残置ローブを発見、ここは難なく通過となった。続くF2は左岸側の水際から水流に足場を探せば抜けられそうだったが けっこう微妙。周りを見渡すと、やはり左岸側にロープがあったのでF1同様に高巻いた。ただ、こちらの高巻きは登りの最後の足場がちょっと不安定である。ロープが無ければそれなりに嫌らしいかもしれないと思った。

 ここを過ぎるとさらに10mもなさそうな小さな滝が出てくるが、今回一番難儀したのはここである。右岸側のルンゼ状から登って滝上へトラバースするのだが、途中の岩面のクラックに左手をかけたところで右手のつかみどころが見つからず立往生、一度仕切り直して騙しだましでようやく核心の1mを抜けた。ほんのちょっとの落差であるが、普段から何もしていない私には厳しかった。

 続いて出てくるのがこの沢で最大の30mとも言われている大滝(*下の写真)だ。Web上では右岸側に巻き道があると載っていたので冷静でいられたが、情報が全く無かったらこの滝の大きさに圧倒されて早々に帰り支度だったかもしれない。20年前には確か直登したはずだったが、別の滝だっただろうかと記憶が錯綜した。この滝は滝に近づいて行くほどに落差が縮まって行く感じで、巻きルートの入口付近ではすでにかなり高度を稼いでいる。滝自体は順層で、確かに登って登れなくはない。ただし、高度感はそれなりで、今の私なら目まいがしそうで間違いなく下など見られないだろう。

  

三等三角点「札内岳」とは20年ぶりの対面

 この先も幾つか小滝が出てきて突然水が枯れる。最終水場からすぐに枯れ沢の分岐となるが、右股側にピンクテープがついていたので、考えることなく右股へと入ってしまった。20年前のときは全く薮漕ぎなどすることもなく頂上を踏んでいる。当時を振り返りながら登山道のような枯れ沢を進むが何か変だ。GPSを見てみるとどうも一本北側に入ってしまったようだが、ヨモギさんに聞いたところヤマップの記録では今はこれが普通とのこと。頂上の北側の稜線へ向かっているが、ひょっとしたら薮漕ぎとなるかもしれない。稜線に近づくあたりから急傾斜でぐんぐん標高を稼ぎ、最後はやはり薮に突入してしまった。潅木混じりの薮は総じて背は低いが、全く想定外だったので時間的なことを考えると不安がよぎる。稜線に近づいたところで踏跡に飛び出し一先ず安堵。それを200mほど辿ったところで三等三角点のある札内岳頂上に到着となる。今は一般的にこれが普通のルートなのだろう。幌尻岳や戸蔦別岳の頂上部は雲に隠れているが、カムイエクウチカウシ山や1839峰の特徴的な姿を望むことは出来た。日高山脈の主稜線から少し外れたこの札内岳頂上は、正に日高山脈核心部を望むことの出来る展望台である。 十勝平野は晴れているのか、帯広市中心部のビル群が確認できた。

 暗くなるまでに下山しなければならず、すぐに下山開始である。20年前のルートを確認したいので、下山は頂上から真っ直ぐ薮に突入することにした。最初だけ薮だが、すぐに踏み跡のような水流跡?か獣道?となる。やはりこちらが正解だと思ったが、少し下ったところで崖が出現、ここは左側(北側)にトラバースして難なく泥斜面を下った。地形図ではこの崖がくっ付いた等高線で表現されているが、20年前にもここはあったはず。いずれせよ特に記憶には残らない程度のものということ。今はこの崖を微妙に避けるため、コンタ1550mの分岐で右股にピンクテープを付けている。私の結論としては薮漕ぎが少ない分だけ分岐では左股に分があると思うが、考え方は人それぞれだ。

 ともあれ、65歳にして20年ぶりに札内岳ピークを踏むことが出来た。遠くなっていた沢からの“日高”登頂である。正直 自信が湧いてきたが、そのこと自体が歳を取ったという証拠でもある。20年後、再びこのピークを目指すことが出来るだろうか?  ・・・ 生きていたなら、ぜひとも札内岳に再び登頂したいものだ。(2021.8.2829)

8/28 トッタベツヒュッテ 6:40 最初の砂防ダム 7:50九の沢テント場 10:35  (行動時間 3時間 55分 休憩を含む)

8/29 九の沢テント場 5:10 → 大滝 6:30 札内岳頂上 10:00 、〃発 10:15大滝 12:45九の沢テント場 12:05 、〃発 14:25 最初の砂防ダム 16:30トッタベツヒュッテ 17:40   (行動時間 12時間30分 テント撤収、その他 休憩を含む)

メンバー北のかもしかさん、konさん、ヨモギさん、saijyo

 

この沢最大の大滝

 

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