<戻る

 元(522.1m) (611m)・八幡岳(664.6m)

 

北側のコルからは風格ある笹山の姿をみることができる

1/25000地形図   「江 差」

 札幌に住む私にとっての道南は思いのほか遠く、当サイトでも山行回数の少ない山域となっている。少ない持ち時間の中で、効率よく一挙に三山を登ることができるという魅力に魅かれ、江差町の笹山、元山、八幡岳を訪れることにした。もちろん一番の目的は道南五大霊場の一角、笹山稲荷神社を訪れることにある。また、時間が許せば、二月の太田山山行の折に宿題となっていた太田神社・本院の参拝も合わせて行う予定である。その五大霊場だが、太田神社、奥尻島の賽の河原、熊石の門昌庵、恵山の賽の河原、そして笹山稲荷神社である。昨年の秋に恵山の賽の河原を訪れたが、石仏が纏う衣類が寒風に揺れる様子はなかなかだった。始めて訪れる江差・松前地区、道内では最も歴史が古く、他の山域とはまた違った雰囲気が楽しめるかも… そんな期待を持ってのスタートである。

霊場にふさわしい霊妙な雰囲気 … 笹山稲荷神社
両側には摂社を従えている
登山口は広場となっている
鬱蒼としている元山への登山道、ヒグマの糞も数ヶ所で見られた
元山頂上はスッキリとしていた…晴れていれば展望も良さそうだ
ウツボグサが咲き乱れて目を楽しませてくれた

  江差の道の駅で一泊、笹山の登山口へと向かう。笹山稲荷神社の最初の鳥居を過ぎたあたりから道路はかなり怪しい感じとなる。道内数多くの林道を走ってきた経験から言っても、間違ったのでは… との不安が頭を過ぎるが、よく考えてみれば、この山の知名度から勝手にアプローチの評価までしていたかもしれない。いよいよ怪しくなって車を止めると、目の前に元山登山口の案内板が見えて、ほっと一息つく。ここまでの道中、道は細く路上の雑草も生い茂っていたが、車の腹をつかえることは一度もなかった。まあ、それなりのアプローチと言うべきだろう。

 広い駐車スペースで準備完了、まずは元山を目指す。登山道も鬱蒼とした感じで、なんとなく心細い雰囲気であるが、道自体はしっかりとしている。途中の数箇所でヒグマの真新しい糞を発見、ヒグマとの距離の意外な近さにビビッてしまった。もちろん、ザックの奥にしまい込んだホイッスルを慌てて取り出したが、道南のクマは人馴れしていると聞いており、その効果の程は判らない。実物が現れなかったのだからラッキーと思うことにしよう。40分で笹山との分岐に到着、そのまま元山へと向かう。頂上が近づくと急に樹木のない開けた草付き斜面となる。標高の低さから考えれば、この地域特有の日本海からの西風によるものだろう。途中で一輪のアヤメを見つけるが、これは湿地でよく見られるもの。おそらくこの一帯はガスっている日が多く、水分も十分に得られるのだと思う。そこを過ぎると程なく元山の頂上到着となる。この日はガスの中で、頂上展望は一切なく、Web上によくUPされている眼下に広がる風力発電所の光景を見ることはできなかった。もっとも、高山的な雰囲気を味わえたのは良かったと思っている。

 元山を後に次の笹山を目指す。コンタ530mポコと567m標高点への登りが今回の一番の登り、急なところにはトラロープも張られている。登山道はやはり被り気味で、今年はダニの当たり年と言われているが、ここでもくっついてくるダニには四苦八苦させられる。座ることもままならず、休憩の度ごとのダニ取りは何とも落ち着かない。両ピークとも笹原となって開けてはいたが視界はない。567mからの下り、ガスの合い間から今回のメイン・笹山が姿を現す。左側が崖となって切れ落ち、コルからせり上がっている様子は、なかなかの迫力だ。このアングルからの笹山がこの山に山岳信仰を根付かせた要因ではないか、そんなことまでつい考えさせられた。コル付近は広い笹原となっていて、その中を登山道が本峰の斜面へと続いている。ここを登り切ると本日二山目のゲットとなる。

 途中、看板の立つ展望台らしき地点を通過、最後は社殿の横から笹山稲荷神社の境内へと入る。両脇にそれぞれ摂社を従えた様は想像以上で、山の頂上とは思えぬ落ち着いた雰囲気を作り出している。社殿の後ろが少し小高くなっていて、頂上はこの上かとも思えるが「ここより先へは入らぬようにとの神のお告げ」とあってはさすがに入れない。神社到着で十分に笹山登頂と納得しよう。この笹山稲荷神社だが、古くから山岳信仰と結合、霊場として多くの信仰を集めていた。特に鰊漁業の守護神として松前藩の祈願所とされ、当時の藩の信仰も厚かったらしい。毎年六月一日がこの神社の例祭で、その日は一日中“大漁万作家業繁栄”を祈願する多くの信仰者で賑わっていたとのことだが、目の前の営造からも当時の様子は容易に想像される。お稲荷さん特有の赤い鳥居が周りの緑に映えて実に美しく、そこには霊場にふさわしい霊妙な雰囲気が醸成されていた。

道内最古の一等三角点「八幡岳」と金麦 終着点・八幡岳頂上は鬱蒼としていた
神社からの下り 江差の町を望むことができた もうすぐ下山終了 針葉樹林帯の中を下って行く

  最後は八幡岳、お稲荷さんの次は八幡大菩薩かと期待したが、その名にまつわる史跡はどこにも見られなかった。事前にネット等の情報は何も見ていないので、頼りは地形図のみである。縮尺が大き過ぎるために神社付近の道の様子が全く判らず、鳥居の横からそのまま小道を進んでみたが、さらなる摂社が現れて行き止まりとなる。うろうろしているうちに鳥居からさらに下った地点で大きな標識を発見、全く見当違いだったことが判る。見れば、何と登山道どころか道路まである。しかも、キャタピラの跡までも。地形図に道路など載っていないために戸惑ったが、考えてみればこれだけの構築物があるのだから当然かもしれない。そのまま標識に従って進んで行き、八幡岳への分岐に出る。

 分岐からの道はすぐに怪しくなる。今回の山行に関しては第一級の登山道を思い浮かべていただけになおさらそう感じるのだろう。大雨でも降れば川になりそうなV字型の中とか、1〜2年放って置けば自然に回帰してしまいそうな笹薮の中の踏み跡など… だが、地形的にはアップダウンが少なく、分岐からわずか45分で簡単に八幡岳頂上となる。地形図上からはそれなりの距離がありそうだったので、その意外な近さには驚かされた。道内では最も古い一等三角点とのことだが、ここのピークを踏む登山者は例年多いのかもしれない。何時も見ている苔むした標石とは違って小綺麗ささえ感じられる。夏草の間からは付近の山々が見えるが如何せん初めての江差地方、周りの山が何処なのかが全く判らず、山座同定など出来るはずもない。ともあれ、今回の終着地点は夏草が生い茂ったかなり鬱蒼とした場所であるが、納得の三山目となった。  

    分岐への帰路はさらに近いように感じられた。分岐で小休止、ウツボグサの青い花が美しく、つい見とれてしまう。ゆっくりとしたいところだが今日のうちには札幌へ帰らなければならず、重い腰を上げて下山とする。ダニは避けたいので道路を下ることにした。だが、地形図の歩道と道路とが合っていない。道路の行き先は判らないので、そのまま下るわけにも行かない。途中、古い鳥居が現れたので、既に廃道化したと思われる踏み跡らしきところへ入ってみる。これが地形図に載っている歩道だろう。が、さすがにさらなるダニの来襲はかなわない。結局、なんとも面倒な話だが神社へと戻る。一方、神社からの下りは快適そのものだった。手摺り用のロープまで張られ、登山道というよりは参道である。広い笹原の中の一本道、途中に水場なども作られ、しっかりと整備されている。この参道の往復こそが笹山のメインルートということになるのだろう。途中で先ほどの道路と合流、こちらにも古い鳥居が建っている。神社からの道路はつながっていたようで、少し損をした気分だが事前の情報なしで入ったのだから仕方がない。道路から再び歩道へと入り、針葉樹林の中の貫禄ある登山道を下って行くうちに紙垂が垂れ下がった登山口となる。

 稲荷神社だが、全国どこの御社にもたくさんの赤い鳥居がある。お稲荷さん特有のこの鳥居、願い事が「通る」或いは「通った」お礼の意味から、鳥居を奉納する習慣が江戸時代以降に広がった結果らしい。ここのお稲荷さんにも古い鳥居がところどころに見られたが、それをつなぐと古の参道となるようだ。今度はダニのいない時期にでも、ぜひこの“表参道”から本殿を参拝してみたいものである。(2013.7.14)     

 【参考コースタイム】 元山・笹山登山口 650 元山 7:45 笹山頂上 9:15 、〃発 9:40 八幡岳頂上 10:25 、〃発 10:50 八幡岳分岐 11:30 、〃発(一度下った時間も含む) 12:10 元山・笹山登山口 1250   

  【メンバーsaijyo、チロロ2

<最初へ戻る