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      札幌岳(1293.3m)

 

北の沢・山の子公園から望む札幌岳

現在は立派な登山口の標識がある

札幌岳登山口には数台分の駐車スペースがある
突如岩峰が現れ、右側の急斜面を下降する。

 札幌岳は我家の窓から真正面に見える馴染みの山である。中山峠側から見る南面はのっぺりとした台地状で、あまり特徴がなく面白味がない。一方、市街地側から見る北面は谷が深く切れ落ち、遅くまで雪渓が残る様子は“岳”と呼ぶに相応しい険しさがある。豊平峡ダム入口からの冷水沢コースが最も一般的であるが、豊滝付近からも昔からのルートが残っているそうだ。冷水沢コースの入口は、以前は一つ手前の小沢に登山口の標識がありまぎわらしかったが、今は整備され判りやすくなった。ちなみに夏場は観光客で賑わう豊平峡ダムへの電気バス専用道路は、冬期間は登山口である途中のゲートまで、マイカーを乗入れることができる。180万都市・札幌の名を冠する山でもあり隣の空沼岳と共に四季を通じて多くの登山者が訪れる山である。

  ゲート手前には車45台程度の除雪されたスペースがある。週末の冷水小屋(北海学園大学)管理のためか、昨夜から駐車していると思われる車が数台置かれている。冷水沢コース上にはしっかりとしたトレースが残っていて、久々にラッセルなしの山行である。冷水沢沿いのルートは多少のアップダウンはあるが、概ね緩やかに標高を上げてゆく。この時期ともなればスノーブリッヂもしっかりとしていて、左岸へ、右岸へと容易に進むことができる。地形図上、コンタ660m付近で交差する歩道は、現在は林道となっている。時間的にも余裕があり、そのまま冷水小屋へ向かうのではなく、冷水沢の左岸側の尾根から札幌岳の広い頂上台地の一角を目指すことにする。

  林道をこの尾根の末端まで移動し、急傾斜の尾根に取付く。最初は広い斜面も徐々に狭まり、コンタ860m付近からは12歩毎に細かいキックターンを繰返し登高する場面がしばしばである。冷水沢側には雪庇が張り出し、安易に近づくことは出来ない。途中、送電線を通すために樹木を広く帯状に伐採したところを通過するが、ここからはさらに傾斜が増し、尾根も細くなる。コンタ940m付近でいきなり、地形図上には現れない岩峰が行く手を塞ぐ。さすがにこの岩峰の突破は難しく、冷水沢へ下降する以外に手立てがない。下降を開始するが、この斜面の傾斜もまた凄い。斜滑降で慎重に標高を落とすが、沢状地形の通過では落下する雪のブロックともニアミス状態である。一人づつ素早く通過するが、正に危険との背中合わせで、かなり緊張させられる。出来るだけ尾根状地形を進む方が安全と判断し、途中からはスキーを諦めてツボで樹林の間を下降することにする。腰までの深雪であるが、下降であればそれ程のことはない。降り立ったところは冷水小屋からほんの僅かの地点であり、尾根の取付きからここまでに費やした時間は約2時間であった。

冷水沢沿いのルートは緩やかに標高を稼いで行く
頂上は視界がほとんど利かず、そそくさと下山開始

  冷水小屋では既に帰り支度である。昨日から小屋に泊まった登山者は、天候が安定している午前中のうちに登頂してきたのか、頂上へ向うトレース跡は登り下り含めかなり入り乱れている。冬期のルートは登山道とは異なり、そのまま冷水沢を詰めるのが一般的である。この分では頂上まで、ほとんどラッセルする必要はなさそうであり、トレース跡の中から登りで使ったものを選別しながら頂上へ向う。コンタ1100m付近からは徐々に傾斜が緩くなり、沢形地形も浅くなってくる。この頃からこの冬一番の冬型気圧配置の影響で、少しずつトレースが消え、頂上台地へ飛び出す頃には本格的な地吹雪状態となり、トレース跡は完全に消えてしまう。

台地上は広く平で、南東方向を目指して標高を徐々に上げて行くが、視界がない状態では実際よりも距離を感じるもので、潅木が実際よりも遠く見えたり大きく見えたりするものである。頂上と思って到達した地点のさらに先に次の目標地点が現れ、がっかりさせられる状況が続く。冷水小屋から約1時間半、辺りの様子から考えても間違いなく頂上と確信できる地点に到達する。もちろん視界は全くない。昨日購入した保険代りのGPSは電池が切れたようだが、手袋を外して交換できる状況にはなく、そそくさと頂上を後にする。登りでは追い風だった北西風も下山ではまともに向かい風となり、顔の皮膚の感覚が無くなりそうになるため、その都度手で顔を覆い、感覚の有無を確認する。途中、アナログのコンパスを取り出して方向を確認し、とにかく北西を目指すことにする。

冷水小屋の登山者は既に下山していた

  標高を徐々に落として行くと沢形地形が現れ、すかさずそこへ逃げ込みGPSの電池を入れ替える。表示された情報によれば方向は概ね間違ってはいないようであるが、登ってきた冷水沢上部より一つ手前の沢形にいるようである。結果的にはこの沢形を下っても豊平峡ダムのダムサイトへ通じる林道には下ることができるが、そうでない場合も十分にありうることで、ここは慎重でなければならないと自分自身に言い聞かせる。凍傷への恐怖心、ルートへの疑心状態、そして何よりも吹かれたことによる予想以上の体力の消耗等、普段では十分に対応できると思っていた山行に対する自信が、その時の状況によっては簡単に崩れ落ちてしまうことを再認識させられる。

  GPSで表示されている冷水小屋までの距離が縮まるように進んで行くと、かなりの急斜面が現れる。頭の中では地形の状況についての整理ができていないにも関わらず、GPSが指し示す通りにこの急斜面を下降したが、下降した斜面は何時雪崩れてもおかしくはない斜面であった。途中からはGPSに頼ってしまったが、ルートファインディングを行うのは、あくまでも自分自身であり、地形の判断まではしてくれないということを頭に入れておくべきであった。

  下山後、車を暖めて暖をとってもなかなか寒気が収まらない。靴を脱ぐこともままならず、帰路の車の中で履き替えるが、こんなことは以前には一度も経験したことがない。考えられる理由として、北西風に長時間曝されたことと、行動中に行動食にはほとんど手をつけなかったことが挙げられる。下りのルートを間違えてビバークとなった場合、危険な状況となることは言うまでもない。早目の補食の重要性を教えられる山行であった。(2004.10.17)

【参考コースタイム】 札幌岳登山口 7:50 → コンタ940m岩峰手前、〃発 11:00 → 冷水小屋 11:25 → 札幌岳頂上 12:55 → 冷水小屋 14:00 → 札幌岳登山口 14:50

メンバーsaijyo、チロロ2

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