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  様似・天狗岳(666m)

天狗岳は標高は666mと低いが特徴的な山容である

 1/25000地形図「腰山」「アポイ岳」「えりも」「幌 満」

頂上付近から望む襟裳・豊似岳はひときわ高く大きい
駐車地点からはさらに林道歩きである
530mコル付近からはミヤコザサのじゅうたんを登る
天狗岳頂上に到着

道内には“天狗”と名の付く山は24座あり、丸山の67座に次ぐ数の多さであるが、どの天狗も高さの割にはどこかにピリッとした険しさが秘められ、地域の中では特徴的な山容となっている。今回目指した様似の天狗岳も標高は666mと低いが、地形図上には表現されていない岩壁を南側に見せ、どこからでも指呼できる特徴的な山である。

宿営を予定していた元浦川・浦河町の河原が増水のために使えず、一気にニカンベツ林道まで足を伸ばすことにする。当日朝、ニカンベツ林道の途中で出発の準備をしていると、巡回で通りかかった道有林の監視員をされているK氏から、昨夜の雨のためにニカンベツ川は増水しているので、右岸側からの林道を使った方が良いとのアドバイスを受ける。古い地形図にはこの林道はなく、K氏は当日の巡回予定を変更して、わざわざ右岸側の林道終点付近まで案内してくれる。当初は予想もしていなかった、247m標高点付近までの車乗り入れが可能であった。K氏によるとこの山域のエゾシカ猟の解禁が10月下旬から11月上旬とのこと。解禁になるとハンターはこの天狗岳頂上からエゾシカを追って駆け下り、逃げるシカを首尾よく仕留めるとのことである。この山へ入る時には、少なくても狩猟の解禁日くらいは確認が必要のようである。

車を停めた247m標高点付近からは天狗岳へ向かって林道がなおも続く。真正面には見上げるような天狗岳の険しい山容が望まれるが、林道はやがて踏み跡となり、約40分で突如として消える。急な沢形の斜面を10分ほど登るとコンタ530mコルとなる。辺りの下草は道内では分布の少ないミヤコザサであり、一見きれいに刈り分けられた芝生のような錯覚を覚える。日常出勤の時に札幌・真駒内公園を通り、車窓から季節の移り変わりを眺めているが、今の時期は刈り分けられた芝生と色付いた樹木とのコントラストが実に美しい。自然の造形とはいえ、このコル付近は正に真駒内公園を連想させる雰囲気があり、とてもヒグマやエゾシカが日常的に歩き回る山の中とは思えない。違うところといえば、真正面には天狗岳の南尾根が鋭角的な藪の塊といった感じでそそり立っているところくらいである。

天狗岳へはミヤコザサのじゅうたんを敷き詰めたような細尾根を進む。徐々に傾斜が増し、行く手にはいきなり岩壁が現れる。左側の斜面へのトラバースも考えるが、岩壁と岩壁の間に潅木が生い茂る斜面も面白そうである。とりあえず木々を伝って登れるところまで登ってみることにする。枯れていることも考えられるため、潅木に全体重をかけることだけは避けなければならない。スパイク長靴のフリクションを利かせ、潅木は支える程度が無難なようである。上手い具合に潅木がつながっていて、意外に簡単に岸壁の上部へ抜けることができる。登り詰めたところは視界が利き、襟裳岬方面を遠くに望むことができる。頂上へは露岩の点在する稜線上をさらに進む。この山は三角点がないため、一番高いと思われるところで頂上とする。GPSで測ったところ、この地点の標高は663mと表示されており、頂上にはほぼ間違いないようである。

頂上付近から望む袴腰岳 都市公園を思わせる景観

期待していた頂上からの展望は残念ながらあまり良くない。袴腰岳は真正面に端正な姿を見せるが、木々の枝々が視界にフィルターを掛けていてすっきりとは見えない。えりもの豊似岳も一際高く大きな姿で望まれるが、状況は同じである。下方からはシカの鳴き声が時折聞こえてくる。道内各地と同様この地域もエゾシカの個体数が増加しているようである。地元の農家への被害を考えると狩猟は致し方ないところなのかもしれないが、哀れさは拭いきれないものがある。(2005.10.30)

【金の船伝説】

この山には“金の船”が埋まっているとの言い伝えがあることを、林道を案内してくれたK氏が教えてくれた。以前にも一度この話は耳にしたことがあり、早速えりも町の幌泉郷土資料館へ問い合わせてみることにする。同館・N氏によると「様似町町史」にこの伝説があり、同町の吉田千代太郎翁の話として「昔、ニカンベツ川の流域にはアイヌのコタンがあり、そこには金の船のような形をしたものがあったそうであるが、盗賊に狙われるため、困り果てたあげく地中に埋めて隠してしまったとのことである。その後、この山域へ入った者が光るものを発見、近づこうと思ったがロープが足らずにこの日は諦める。翌日再び現地へ向ったが、この者は二度と山から帰ってくることはなかった」と載っているそうである。地元K氏の話しでは、海上から見るこの山は特徴的で、船の形のように広がって見えるそうである。“金の船伝説”の場が天狗岳となったことについて、こういったこともその後の言い伝えに少なからず影響しているように思われる。いづれにしても、全国各地に言い伝えられる黄金伝説の一つが、我々が遊ぶかなりマイナーな世界をも舞台としているのだから面白いものである。

【参考コースタイム】 274m標高点付近P 9:40 → 歩道終点 10:20 → 様似・天狗岳頂上 11:10、〃発 11:45 → 歩道終点 12:20 → 274m標高点付近P 12:50

メンバー】saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

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