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      札滑岳(992.7m)

上興部から見る札滑岳
上興部から見る札滑岳

1/25000地形図 「一の橋」

ポロナイポロ川沿いの林道入口からは除雪されていない
林道の雪面はヒグマや小動物たちの足跡だらけである
数年前に西興部で売っていたマグカップ

学校の校歌に山の名が歌われることは多いが、どの地域にもそれぞれにお国自慢の山があるようである。私の出身小・中学校の校歌にもそれぞれに手稲山が登場している。今では登山道が廃道となり、登山者も稀となった札滑岳であるが、きっと地元の学校の校歌にもその名が歌われていたことだろう。地元ではこの山の様子を見て天気を占ったと言われるが、それだけ生活に密着した山でもあったようだ。上興部・札滑地区からの眺めが特に良く、左上がりの台形状の山容は一見独立峰のようにも感じられ実に格好が良い。このアングルからの写真はパンフレットなどにもしばしば登場している。数年前に西興部の「道の駅」でこの札滑岳をプリントした二種類のマグカップが売られていて、私もその一つを購入したが、ネームバリューのないこの山の図柄に魅力を感じる人間は、余程のマニアックな山好きか地元の人間くらいであるようにも思われた。今回の山行の折、再びこのマグカップを探してみたが、何処にもみつからなかったのは残念だった。しかし、札滑岳が 地元の人たちにとって“自慢の山”であり続けることだけは確かであろう。

以前より交通事情が良くなったとは言え、札幌から前夜発・日帰りでこの山を狙うには、移動時間を考えると山行時間の方を削って帳尻を合わせるより仕方がない。二週間前に一の橋の林道入口のゲートから歩いてこの山を目指したが、片道5kmの余計な林道歩きのため稜線上へ上がった段階で既に昼過ぎとなってしまい、雪の状態の悪さもあって敢え無く敗退してしまった。今回は下川の森林管理所から事前に入林許可証をもらい万全の準備で望む。

キックステップも快適な雪面を登る

回スキーで歩いた林道の雪は完全に消え、ゲートから約7km先のポロナイポロ川出合いを目指して快適に車を走らせる。途中、林業が最も盛んであった昭和初期頃に走っていたと言われる森林鉄道の橋脚跡も見られる。林道の奥には日本巨木100選にも選ばれている「七尺ニレ」があるそうで、その関係もあってしっかりと除雪されているのかもしれない。付近の、エゾシカの生息密度の高さには驚かされる。車の前を逃げるエゾシカを見ることはしばしばあるが、ここでは数頭がグループ単位で逃げており、一つのグループが脇へ逃げ去ったかと思えば、直ぐにまた別のグループが登場するといった具合である。時には脇の雪山から突然シカが飛び出してくることもあり、運転には十分な注意が必要である。エゾシカ密猟監視地区であるためか、個体数はかなり多いようである。エゾシカだけではない。ヒグマの個体数も多そうである。

ポロナイポロ川沿いの林道の雪面には、ほんの少し前、我々の気配を感じて逃げたと思われるヒグマの足跡が残っていた。爪だけではなく、蹠球の跡や逃げる際の飛び散った雪の形までもがそのまま残っていて、正にニアミス状態である。冬篭りから覚めたクマは冬期間に死んだエゾシカの肉を探し回っているという説もあるが、とにかくこの時期は徘徊するらしい。ヒグマのテリトリーと思われる付近の通過は、基本的に人間を避ける習性があるとは言われていてもやはり気持の良いものではない。素早く付近を通過して、予定の尾根取付きである二つ目の砂防ダムへ向う。

樹林帯の向うには道北の“山波”が広がる この日初見山の札滑岳頂上付近
東側には鬱岳も望むことができる 頂上から、南へ続く稜線を眺める

ルートである尾根上には樹木が密生しており、この時期特有の硬雪である。スキーの下りでは難儀することが予測されるため、スキーは置いていった方が効率が良さそうである。スキーを諦めツボで登ることにするが、硬雪と言っても日があまり差さない樹林帯の中では股まで埋まってしまうこともしばしばである。こんな時にこそスノーシューやワカンが良いのかもしれない。かなりの労力の消費ではあるが、登りさえすれば下りは楽であることが判っているため、ここは辛抱で一歩一歩登高を繰り返すしかない。できるだけ、日当たりの影響で硬くなった雪面やシカに踏み固められた雪面にルートを取る。

中にはこんな蹠球の跡がリアルに残るものまで・・・

標高600m前後で雪面の状態が一変し、キックステップが程よく刺さる願ってもない雪質となる。天候は北海道の南岸を通過する低気圧の影響か、地吹雪混じりの南寄りの強風である。最短ルートを取っているため、総じて斜面は急であるが、そのことがかえって標高の上がり具合を実感させてくれる。背後に刻一刻と広がる名もない道北の“山波”が何とも見事である。正に春山の醍醐味と言えよう。

コンタ940mで先々週に敗退している予定のルートと合流し、この日初めての本峰の見山である。視界に現れた本峰までの距離は僅か5〜10分と思われるが、地吹雪状態の中では正に冬山そのものの厳しさがあり、美しささえ感じられる。最初、右側に出来ていた雪庇が途中からは左側となるが、この付近の地形が成せる自然の造形美とも言える。目測で考えたよりも意外に簡単に札滑岳頂上へ到着することができる。以前、倶知安の三角山で見た、樹木の少ない白い高みである。だれが巻いたのか、頂上を示す古い荷造りテープが潅木の小枝に巻かれている。南側へ続く主稜線の向うに見えるウェンシリ岳や遠く天塩岳の山容が印象的である。

ふと見ると、雪庇の亀裂が到底予測もつかない直ぐ足元にある。覗き込んでみると、雪面から40pから50pのところには笹薮が見える。何時も感じるが、雪庇ほど人間の感覚を裏切るものはない。折りしもこの日、道南の山で雪庇の崩壊が原因したのではないかと思われる転落死亡事故が起こったが、不意に転落した場合では僅かな落差でも致命的なダメージを受けかねない。何時もこのことに注意しながら歩いていても、ある一瞬にこういった不測の事態は起こるものである。 (2005.4.10)

【参考コースタイム】 ポロナイポロ川林道出合(駐車地点) 7:00 → 尾根取付き(スキーデポ地点) 7:40 → 札滑岳頂上 10:15、〃発 10:25 → 尾根取付き(スキーデポ地点) 11:35 → ポロナイポロ川林道出合(駐車地点) 12:00 

メンバー】 Ko玉氏、saijyo、チロロ2

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