<戻る

 佐官別山(415m)

 

1/25000地形図   「ルペシュペナイ川

“熊嵐”前に車を置かせてもらう
緑が美しいウエンナイ川を進むKo玉氏
ウエンナイ川にはナメ床が多い (Ikkoさん提供)

 佐官別山は標高わずか415mの奥深く超マイナーな山である。昨年、私とKo玉氏が三毛別山へ登っていたちょうどその日、旭川・Ogino氏がとなりのこの山に一人登っていて、翌日のメールでそのことを知った。この山名を聞いて、日本人であれば左官屋さんの山? と考えるのが普通の感覚と言えるだろう。もちろんアイヌ語地名だが、一見和名に見えるから面白い。そう言う私も、このへんてこな山名を最初に耳にした時には、やはり左官屋さんしか頭に思い浮かばなかった。この件について、図書館で文献を調べてみたが、小平町史にサク・オカイ・ウッ・ペの記述があり、位置的に考えて“サカンベツ”の語源かと思われる。意味としてはサク=シャク=あまにう(麻)(が)・たくさん・群生している・もの(ところ)との意味らしい。山名については砂寒別川の水源の山ということで、小平側からの命名と思われる。苫前側にもサカンベツ川というのがあるが、こちらはそもそもサツナイ川が正確なところ。山名に引っ張られてサカンベツ川になったというのが正しいようである。

最初に現れた10mの滝 手掛かりはまるでなかった
半角大文字のV字状が続く  水量が多ければ嫌らしい
コルが近づくと三毛別山が見える
コルが近づくと背後に三毛別山が見える
佐官別山はいよいよ  頂上直下にて
佐官別山頂上に無事到着

                                                    

  昨年のメール以来、この山名とOgino氏のマニアックなまでの天塩山地へのこだわりが妙にマッチしていて、ついその可笑しさが頭から離れなかった。だが、知ってしまった以上は私も一度はその頂に立ってみたい。ここ1年、そんな想いが頭の片隅にあった。今回のメンバーはIkkoさんとKo玉氏。道内全山登頂を目指すKo玉氏にとっても数少ない未踏の山で、計画の実行にはもちろん彼の強い思い入れが後押ししている。優柔不断な私の性格から考え、こんなきっかけでもなければおそらく計画実行とまでは行かなかったと思う。                      

 

  そんな思いでの出発だったが、悪いことに、この日はおまけが付いた。先月の三毛別山山行の時点で健在だったウエンナイ川沿いの林道は、上旬の大雨によって“熊嵐”まででストップ。ここから約3Kmは徒歩で進まなければならなくなった。結局、“熊嵐”のジオラマ前が登山口となる。考えてみれば何とも奇妙な登山口である。林道は300mほど進んだ地点で崩壊、これでは最初から林道走行は無理というもの。先月は車で入っていたので距離感が全くなかったが、入渓地点までが意外に遠い。“熊嵐”から約50分、やっと入渓地点となる。スタートからのつまずきは目指す山をより遠いものに感じさせる。せめてもの救いはこの日の晴天であり、静かなウエンナイ川と陽光に浮き出す葉の緑が実に美しく、へこんだ気持を和ませてくれる。 

                                    

 入渓から20分で私にとっては三度目の三毛別山への出合を通過。ここからがいよいよ未知の沢である。蛇行を繰り返しながら進み、平易な沢風景が続く。最初の変化が現れたのはコンタ250m付近、真正面に壁が現れる。右側へと回り込めば当然谷地形が続くだろうと思っていたが、なんと袋小路、三面が壁となって細い水流が壁を伝っていた。要は10m位のかなり細い滝が行く手を阻んでいた。さて、どうしよう… 考えてもしょうがなかった。戻って巻けそうな斜面を探すより仕方がないか。あまり戻ると大高巻きとなるので、多少の草付きでも取り付くより他にない。結局、少し手前から取り付き、イタドリが頼りの微妙なトラバースで何とか滝上へと抜ける。だが、そのすぐ上部にも5mの取っ掛かりのない滝が出現、ここも笹につかまりながら低く巻く。三毛別山の大滝もそうだったが、ここの山域には泥が固まったような取っ掛かりに乏しい滝が多く、登れないものは絶対に登れない。下手に欲を出そうものなら痛い目に遭いそうで、撤退も含めた慎重な判断が必要である。

                                    

 ここを過ぎると2〜3mの滑り台のような滝が出て来るが、これは木々につかまり難なく抜ける。Ko玉氏のみは果敢に直登、プールというか浴槽というか、ドボンとはならなかったのはラッキーだった。この後沢が狭まり、半角大文字のV字状となる。沢底は片足1つで目一杯、こんな狭い沢形の通過はあまり経験がない。もっとも水量もかなり細り、陰惨と表現するほどの険悪な雰囲気ではない。ただし、突発的な大雨でも降ろうものなら大変なことにはなりそうだ。その後途切れそうな水流の中、前方の空と共に390mコルが見えてくる。背後には三毛別山が見事な姿を見せているが、これは二度ほど登っているから判るのであり、普通に考えれば、単なる山並みとしか映らないかもしれない。いよいよ目指してきたコル、ここに到着すれば全てが終わるかのような逸る気持ちで、コルに立つ。

                             

 だが、甘かった… 佐官別山の真骨頂はここからだった。コルに立ってみれば一目瞭然、根曲がり竹の深い籔の中である。地形図上の佐官別山は谷を隔てた向かい側、予定していた佐官別山へと向かう尾根上へのトラバースを試みる。ところが、根曲がり竹が向いている方向は進行方向に直角で、それを跨ぎ続けてのトラバースとなる。神様かヒグマでもなければ無理というもの。ここはトラバースを諦めて素直に420mピークへと登るのが得策である。相変わらずの濃い笹薮だが、変な方向を向いていない分だけマシである。藪にはシカ道らしき薄い部分もあり、420mピークへは概ね順調に登ることが出来た。さて、ここから南へ約1km、考えただけでも遠い話である。当然のこと帰路も同じルートを引き返さなければならない。どうしよう?… こんな場合のコツは、帰路のことまで細かく考えないことである。

                                           

 

 420mピークからの下りは概ね順調、行けるぞ! 楽観的な気分となったのもつかの間、平坦になったとたんに根曲がりとブドウのツルが複雑に絡み合ったネット状態の籔となる。スピードダウンは仕方がない。Ikkoさんからカマを借りて、それを一つ一つ切りながら進むのみ。それにしても今年のブドウは豊作だ。たわわに実ったブドウが何とも憎たらしい気分である。どのくらい時間が過ぎただろうか。ここまで来てしまっては撤退はありえない。頂上さえ踏んでしまえば気分的には70%以上終了したも同然なのだが、現時点ではこんなに労していても半分にも満たない状況だ。気持の持ちよう一つだが、時計を見るのがつい恐ろしくなる。時間的には正午くらいにはなっているはず。焦りは禁物、時間を気にしてはならない。

                                       

頂上から大天狗山方向 遠くは釜尻・小平蘂の山塊  (Ikkoさん提供) 頂上から望む留萌ポロシリ山 (Ikkoさん提供)

 そうこうしているうちに、焦りからかカマで小指を切ってしまった。けっこうな出血で、普段血を見るのが苦手な私としては親指で懸命の圧迫止血。先頭をIkkoさんに交代してもらい、最後尾に付く。時間的にも悠長に手当てしている暇などなかった。だが、進んでいれば目的地は必ず近づくもので、おもいきり拡大したGPSの地形図上「佐」の字に現在地を示す青い三角形がかかる。いよいよ到着である。さらに415mの標高点を示す四角形にも到着、10mほど先の一番高い地点で頂上到着とする。この山には標石は埋まっていないので、頂上としては妥当なところだ。しかも、木々の隙間からは眺望もある。遠かった… 正直な感想である。片手しか使えないので、テーピングで応急手当、もちろん「金麦」はしっかり一缶片づけ、すぐに下山開始である。 

                                       

 同じ籔でも気持一つで随分違うもの。Ko玉氏が途中で折ってきた枝々をつなぎ、ブドウのツルもルート上のものは既に切っており、意外に順調に往路を辿る。430mピークまでは難なく引き返す。帰路は尾根上の藪漕ぎが効率的。ところが、根曲がり竹が意外に手強い。標高を落とせば植生は変わるもの。そう信じつつ430mピーク左側の広い尾根を下るが、強烈な根曲がりはどこまでも続いている。往路の沢筋へと下る選択肢も無くはないが、滝の下降を考えるとそれも億劫である。結局、嫌らしい滝はないとの前提で、往路とは逆側の沢へと下る。結果としてだが、何も出て来ないままにウエンナイ川へと合流した。

                                     

 おそらく、もう二度と佐官別山に登ることなどないだろうが、この日の充実度は100%である。山の一番の魅力とは、敢えてここで書く必要などないだろうが、その山に登っていかに充実できたかに尽きる。どこといって魅力の乏しい佐官別山を登り終え、改めてそう感じられた。(2014.08.31)

【参考コースタイム】 三毛別「熊嵐」 800 入渓地点(林道終点) 845 佐官別山頂上 12:45、〃発 13:05 入渓地点(林道終点) 1615 三毛別「熊嵐」 1705 (登り 4時間45分、下り 4時間)

メンバー】Ko玉氏、Ikkoさん、saijyo

<最初へ戻る