<戻る

      ラサウヌプリ(1019.6m)

 

  

猫山から見たラサウヌプリ (Ikkoさん提供)  2015年1月撮影

/25000地形図 「真 鯉」「根室峰浜」「海別岳」「遠音別岳」

林道入口に車を停める
憩
尾根取り付き前にしばし休憩
725m峰の右側は岩壁となっている

ラサウヌプリは1/25000地形図上にその名を見ることはないが、多くの文献その他に名を残し、地元でラサウの名が浸透していることも考え合わせると、れっきとした山名と言えるだろう。もっとも1/25000地形図に名が載れば正式な山名というのも、少し偏りすぎという気もしないではないが、情報の錯綜する現代社会においてはある程度は指標が必要であることも仕方のないところである。この山の細長い山容を峰浜側から眺めると、尾根や岩峰が重なり合い、重厚でなかなかの迫力である。この山のウトロ側にはさらに岩峰が連なり、その中には“ラサウの牙”と呼ばれる鋭鋒が天を突くなど、ラサウヌプリは正に秘境・知床の隠れた名山と言える。「ラサウ」の意味は諸説あるが、確定的なものはないそうである。当HPの掲示板とその過去ログには網走・伊藤氏(知床半島の山と沢・著者)やあまいものこさん(甘藷山荘管理人)の言う「“ras−aw”=割り木や鹿角のように枝分かれしたもの」の意味が詳しく紹介されている。また、中標津・すがわら氏の「雷山」説も最近になって登場している。

ラサウ頂上へはもう一息 憧れのラサウヌプリ頂上だったが、何も見えず
帰路、乗り越えた尾根上から陸嶺川周辺を望む 転がるような尾根を下り、ホット一息

陸嶺川の水量は多く、かなり上流まで行かなければ雪渓上を渡れそうにはなく、林道入口で橋を渡り左岸の集材路を使うことにする。この集材路は藪が被りはじめ、すぐに斜面に消えてしまう。あとは藪を避けて雪渓にルートを取るが、小さな沢形も入っているため、さらにそれを避けようと標高は上がり気味であるが、川岸の斜面は傾斜もあり、むしろある程度標高を上げた方が歩きやすいようだ。431m標高点のある小ピークから尾根上を辿ることも考えるが、むしろもう少し先の緩い尾根を使って752mのピークを直線的に目指した方が効率は良さそうだ。結局、あまいものこさん(甘藷山荘)の記録にあったルートを辿ることになる。このルートはこの山を目指す登山者の多くが一般的に利用しているようで、途中からは752mピークに直接続く尾根にトラバースして乗り換えると楽である。

752mピークの稜線はこの時期は藪が出ているため、左側の雪面を巻き気味に進む。752mピークの南面は岩壁となっていて、あまり低く巻くと岩壁に行く手を阻まれる。この日はガスがかかり斜面の途中からは何も見えない。もっともこの時点でラサウの全容が望めたなら、きっとその迫力に圧倒されていたかもしれない。752mピークからコルまではほんの一滑りである。コルからはいよいよラサウ頂上への長い登りであるが、我々はコル付近にスキーをデポし、ツボ足にて頂上を目指すことにする。この日の雪面は意外に硬く、キックステップも思い通りには刺さらない。ミニピークを通過、1/3ほどしか刺さらないキックステップでは心許なく、やむなく雪に埋まった低いハイマツ帯へ逃げることにする。ハイマツ帯の中では100%のステップが確保され、思ったよりは遥かに登りやすい。この先の痩せ尾根の詰を考えると、この斜面でのスキーは無用の長物であり、ツボ足が正解と思えてくる。

コンタ950mで尾根が交わり、いよいよ最後の詰である。頂上へ続く尾根は極めて細いが、周囲が見えないことや風があまりないこともあり、あまり気にはならない。足元をしっかりと見ての前進あるのみである。ここが頂上と思いつつも稜線はなおも続き、果てのはてに、頂上らしきところまで到達する。それより先はガクンと切れ落ち、とても歩けそうにない痩せ尾根へと様相が変わる。どうやら頂上に到着したようである。晴れていれば絶景が広がるはずのこの頂も、この日はガスに覆われて何も見えない。日頃、藪山へ登り、展望が全く利かなくても三角点を踏むだけで十分に満足している今回のメンバーの多くも、さすがにラサウ頂上の眺望には大きな期待があったようで、皆がっかりしている。何はともあれ、憧れのラサウヌプリ登頂であることには違いない。

“ラサウの牙”(チロロ3・旧姓naga4.29撮影)

ひょっとしたら一瞬ガスが晴れるのでは…との期待を抱きつつも、直ぐに頂上を後にする。700mコルまでは往路の引き返しである。コルへはあっという間に到着する。725mピークへの登り返しが何とも億劫に感じられるので、右側の岩壁の下を、標高を落とさずに巻くことを提案するが、ここも傾斜はありそうだ。この際、どんなルートでも考えられるが、どこかで水量の多い陸嶺川を左岸から右岸へ渡らなければならないことには変わりない。上流でスノーブリッヂを渡り、往路で通っていない右岸を下山するのも面白いかとの思いが頭を過ぎる。「コルから直接陸嶺川へ下るのも良いが…」と思わず口にしたところ、すかさず熊ぷ〜さんが反応した。私と全く同じことを考えていたようである。

熊ぷ〜さんを先頭にさっそく下降開始である。一本南側の尾根へは急斜面の長いトラバースで到着する。そのままこの尾根を下ると程よい傾斜ではあるが、川にスノーブリッヂが掛かってなければもともこもない。尾根からは少しでも上流側へと急斜面を下ることにするが、不覚にもスキーを付けたまま何度かずり落ちる。スキーを放棄、ツボで下るメンバーも見られるが、こんな斜面ではこれが一番の安全策と言えるだろう。一足先に陸嶺川上流に降り立つと、沢の雪渓にはトレース跡と思える形跡が見られる。さっそくその形跡を辿ることにするが、片足がいきなり宙に浮きヒヤッとさせられる。斜面全体の雪渓がずり落ちたためにできたクレパスに新雪が被っていて、一見トレースと見間違えてしまった。完全に填まっていたなら、ロープなしでの脱出は困難であろう。

上流からは左足のみに加重がかかる長いトラバースが続く。ずり落ちたら函へ真っ逆様の場面もあり、長い緊張の時間が過ぎて行く。結局、地形図に載っている右岸の林道が現れるのはかなり下流であった。帰路、車窓から振り返ると雲間からラサウヌプリが顔を出していた。盆と正月とGWにしか来ることのできない知床の峰々、雪山賛歌のフレーズではないが「また来る時には()笑っておくれ」といった心境であった。(2006.5.4)

※後日、中標津・すがわらさんから“晴れたラサウヌプリ”の写真が送られてきました。すがわらさんの写真へ

参考コースタイム】陸嶺川・林道入口P 6:15 →  725mピークへ向けて尾根へ取り付く 8:15  → 700mコル 9:50 → ラサウヌプリ頂上 11:05、〃発 11:15 → 700mコル 11:35、〃発 12:05 → 陸嶺川上流 12:50 → 陸嶺川・林道入口P 14:35

メンバーsaijyo、熊ぷ〜さん&エル嬢、Ko玉氏、Ake氏、Sakaku氏、Kobaさん、Oota氏、チロロ3(旧姓naga)

<最初へ戻る