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      ピセナイ山(1027.4m)

静内ダムへの途中、目指すピセナイ山が顔を出す

    1/25000地形図「農屋」「ペラリ山」「セタウシ山」「美河」

ゲートは開いているが、我々の選択は歩くことに決める
頂上が近づくと背後にはペラリ山や静内の平野が見えてくる
頂上が近づくと背後にはペラリ山や静内の平野が見えてくる
登山道の途中から見る頂上は近い
陽光に輝く中ノ岳をズーム
頂上から見た南側

ピセナイ山は夏山ガイド(北海道新聞社刊)で紹介されて以来、展望が素晴らしい山という評判が広まり、多くの登山者を迎え入れることになった。眺望の良さというのは登山する側にとっては何にも勝る魅力であり、整備された登山道によって、簡単にその眺望が欲しいままに出来るとあっては当然のことと言えよう。展望の山ということでつい見落とされがちではあるが、その山容も実に素晴らしい。静内ダムへ向って走って行くと、ペラリ山が静内の平野部に大きく裾野を広げ、その奥に一段高く鋭角的な姿を見せているのがこのピセナイ山である。日高山脈の前衛峰といった地味なイメージとは異なり、この山域を一つの塊と考えれば、間違いなく山塊の盟主といった風格を感じさせる。「ピセナイ」の意味ははっきりしないと言われているが、倭人が調査に入った当時、地元のアイヌの人達からの聞き取り方が不明瞭だったことに起因しているようだ。アイヌ語に詳しい中標津・菅原氏の説明では「ピセ」と「ナイ」で区切り、ピセは「ピ」「ピッ」「ピス」で河原の小石のこと、あるいは「リセ」であれば崖・沢川、丸い小石の多い川”か“崖の多い沢川”が妥当ではないかとのこと。いつものごとく、藪山仲間の有難い助け舟である。

冬型の気圧配置で、札幌周辺の山々が荒天予想のときには、比較的影響の少ない太平洋側の山を目指すことにしている。この日の日高地方は晴天の予報で、前々から気になっていたピセナイからの展望をぜひ一度この目に納めようと、日高道に車を走らせる。道道71号の工事は中止されたが、静内ダムの堰堤で施錠され、一般の立入りは未だ禁止となっている。我々の税金で作られた道路であるにも関わらず、関係者のみ立ち入ることができる今の状況は、どこかが違っている。こんな無駄な工事のために逆に憧れの山々への道が閉ざされてしまったことについて、我々登山者としてはやりきれない思いでいっぱいである。

幸いなことにピセナイ山へはダムの堰堤から左岸側へ細々と林道が伸び、静内湖キャンプ場へと続いている。この先、ゲートがあり、一般車両はそこまで入ることができる。ゲートは開いていたが、公に保障されているものではない。ゲート前に車を停め、ここから「東の沢左岸林道」を歩くことにするが、往復で約3時間の歩行時間をプラスさえすればよいことだ。準備をしていると、一台の車が現れる。ゲートの事情にも詳しく、一般の登山者ではないと思いながらも話しをしてみると、何とHYML(北海道山メーリングリスト)でおなじみ・千歳のたかさん(オジロワシの空の下管理人)であった。彼も車をここに置くとのことで、急遽一緒に登ることにする。山仲間は必ず何処かで繋がっているもので、初対面であるにも関わらず、話題に挙がる山仲間は双方に良く知っている面々ばかりである。しかもHPも見ているから、以前の山行のことも知っていて、道中の話題は尽きることがない。ネットの時代は、自分の居る世界が知らず知らずのうちに大きく広がっているものと改めて感じさせられた。

登山口までは約1時間20分だが、そうこうしているうちに、遠いと感じる間もなく登山口広場に到着する。積雪は10cm位のものだが、辺りは完全な冬景色となっている。登山道は古い集材路を横切り、もう一つの登山口・看板のあるところから急登となる。雪の被った状態では判然としないが、よく見れば何となく見えてくる。まあ、この時期ともなると登山道に拘る必要もないが、雪の被った笹薮へ敢えて突っ込む必要もない。急な斜面をひと登りで、再び広い尾根上の登山道となる。二合目の標識があり、展望台となっているので覗いてみるが、木立の間に立派な山が見えている。後で調べたところ、高見ダムの北西側にある名もない1100m峰であった。雪の被るこの時期は、無雪期であればほとんど目には留まらないような何の変哲もない山が、意外と貫禄ある姿へと変化することがある。そして、次の目標とさえなってしまうから、山の魅力とは凄いものである。この山へは春別発電所付近からの林道を使えば、さほど難儀することなく登れそうだ。

1100m無名峰も見事だ ピセナイ山頂上にて

三合目の標識を見落とし、四合目の標識のある辺りで目指すピセナイ山の頂上付近が見えてくるが、まだまだ遠い感じである。ところが、六合目の標識の立つコブで頂上に向う稜線へ飛び出すと、気持的にも頂上がぐんと近づいてしまうから不思議なものだ。上り詰めた先には太平洋が広がり、大展望への期待が大いに膨らむのもこの辺りからである。北西風によって出来た吹き溜まりを風下に避けながら標高を徐々に上げて行くと、ガイドブックでお馴染みの頂上標識が見えてくる。ここは、以前に八谷氏(ガイドブックにない北海道の山々著者)が言っていた「頂上直下にいる幸せを味わう楽しさ」を決め込むことにして、チロロ2さんと千歳のたかさんには先へ行ってもらう。いや、先に登頂し、もし展望がダメだった場合、メンバーのがっかりする顔を見るのが嫌だったというのが本音かもしれない。

予想はしていたが、日高山脈北部の主稜線は北西風の影響でガスに隠されている。しかし、ペテガリ岳以南の山々はしっかりと姿を現し、日差しに輝くピークも見られる。ペテガリ、中ノ、ニシュオマナイ、神威、ピリカ、トヨニ、野塚、オムシャ、十勝、楽古…どの山々も思い出深いものばかりである。この山の展望の素晴らしさとは、ある程度山をやっていればおなじみになってしまう日高の多くの山々が、頂上到着と同時に一気に目前に現れる喜びと、その壮大さに裏打ちされたものなのかもしれない。晴天の日のここでの山座同定は、きっと楽しさこの上ないものと容易に想像される。私は二台のデジカメを持っていったが、千歳のたかさんのカメラはプロが使うような本格的なものである。ただ、どんなカメラをもってしてもこの立体感を伴ったパノラマは表現し難いものがある。

ピセナイ山は噂に違わぬ山であったし、残雪期には絶対に再訪したい山である。しかし、何にも増してこの山を素晴らしいものに感じさせたのは、山を通して、また一人の山仲間と知合えた嬉しさである。私はなぜ山に登るかと問われたら、間違いなく山仲間がいるからだと答えるだろう。それは付合いだから登るのではなく、クマが恐いから複数で登っているわけでもない。共に山へ踏み入れることによって、一般社会では味わえぬ人と人との深いつながりを感じることができるからである。(2008.11.23)

千歳のたかさんの山行記

【参考コースタイム】林道ゲート 8:15 ピセナイ山登山口 9:35 6合目 10:55 ピセナイ山頂上 11:50、〃発 10:00 6合目 12:40 ピセナイ山登山口 13:25 林道ゲート 12:30 (登り 3時間35分、下り 2時間30分)

メンバー】千歳のたかさん、saijyo、チロロ2  

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