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      ペクンネウシヌプリ(836.1m)

山域の中でも独特な山容のペクンネウシヌプリ

    1/25000地形図「俣落岳」「武佐岳」

ソウキップカオマナイ砂防ダムに車を停める
予想以上に増水したソウキップカオマナイ川
予想以上に増水していたソウキップカオマナイ川
予定の小沢出合だと思ったのだが・・・
コルヘ向けて枯れた沢形を登る

道東・標津山地の山々には特徴的な山が多く、標高が低いわりに楽しむことができる山域である。この中の一つに、このペクンネウシヌプリがある。いかにもアイヌ語地名といった感じであるが、アイヌ語地名に疎い私には意味不明で、山名の解説に窮していた。そんな様子を見かねてか、さっそく掲示板に書き込んでくれた網走・伊藤氏には感謝したい。また、あまいものこさん、そして今回も詳しい解説をしてくれた、なかしべつ*すがわら氏の考察にはいつもながら大いに頷かされた。ペクンネウシヌプリはアイヌ語で「ぺクンネ・・水黒い、川黒い」を意味しているらしい。昭和10年頃にはソーキップカオマナイ川の上流に鉱山が存在したようで、おそらく付近では黒鉱(閃亜鉛鉱、方鉛、重晶などの混合鉱石で、黒い色をしている)のために川が黒く見えたであろうとのこと。昔の道庁地図には山名が載っていたそうであるが、現在では点名として「弁勲嶺(ペクンネ)」のみが残っているようである。

岩峰と思えたところも左側には潅木が密生

この山は尖峰山行の悪天時の代替案として熊ぷ〜さんから提示されていた山であったが、早朝に現地入りしてみると昼寝を決め込むにはもったいないような晴天で、金曜夜札幌発でいつも道東二山をやっているOtaさんがおとなしくしているはずはなく、代替案の山へ登ってみようとの話になった。ただし正直なところ、この時点では二人とも山名も判らず、何となく恐そうな三角点名の山というだけの認識である。

昨日からの雨のためにソウキップカオマナイ川は増水している。熊ぷ〜さんからのメールで、長靴でもOKとあったが、どうしてどうして下手したら流されかねない水量である。“ソーキップ台地のエンゼルフォール”と呼ばれているらしい50m落差はありそうな滝が前方高くに姿を現している。この滝も普段は糸のような細さにしか見えないとのことであるが、今日は見事な瀑布となっている。ソウキップカオマナイ砂防ダム堰堤の上部は広い河原となり、流れが大きく三つに枝分かれしている。最初の流れを渡渉して感じたが、流心での水流の強さはなかなかのものだ。三つがまとまった時にはかなり慎重に行動しなければならないだろう。

最初は右岸側を進むが、そのまま進むのは難しく、結局何度もの渡渉を強いられる。場所によっては腰近くまで水に浸かってしまうのは予測外であった。すでにこの時点でズブ濡れ状態であるが、この時期としては気温が高いことが幸いし、悲壮感は感じない。川幅が狭まり流速が速まっているところで、先を行くOtaさんの渡渉の様子を見て、あとに続くのは困難と判断する。私は高巻くことにするが、そこで林道跡と思われる平らなところに飛び出す。後で聞けば、鉱山へ続く以前の「鉱石の沢林道」ではないかとのこと。雑草が生い茂る盛夏であれば見つからなかったかもしれないが、草木の枯れる晩秋ともなれば見えぬものも見えてくる。寸断されてはいるものの、目で追って行けば次につながる部分は自ずと見えてくる。この沢の遡行では十分に利用する価値はありそうだ。その後、何度か水に浸かりながらも、ペクンネウシヌプリの北西側コルへ向うと思われる?小沢の出合に到着する。

ペクンネウシヌプリ頂上から尖峰を望む 一等三角点「弁勲嶺」
ペクンネウシヌプリから842m峰を望む 842m峰頂上はハイマツに覆われていた

早速この小沢を進むが、考えていた方向とは違っていることに気付く。ここを訪れる登山者の多くが、この小沢で間違っているようであるが、沢の出合いは地形図よりも少し下流で合流していることが多く、そういった意味では経験がなせる失敗と言える。藪をひと漕ぎして修正するが、正しい方の沢形には水がない。おそらくは伏流となっているのであろう。歩きやすそうな小尾根にルートを変え、背の低い笹薮を登りきると、辺りは平らになる。枯れて林立するイタドリの向こうに、荒々しいペクンネウシヌプリ西面が姿を現す。左側には岩峰とキレットも見られ、これをどうやって登るのだろうか?と思わず考えさせられる。しかし、進んで行くうちにコルが見え、背の低い笹藪がコルまで続いているのを確認、心配するほどのことではなかった。コルからは冬枯れした潅木帯の中を登って行く。いきなり下からは岩峰に見えていた岩稜上に飛び出す。頂上へはスッパリと切れ落ちた細い稜線上を進むが、切れているのは右側だけで、左側は藪斜面であるからどうってことはない。詰めはハイマツを避けながらの急な潅木帯の登りとなり、何となく続いている踏み跡らしき跡を辿って行く。大岩が見え、そこが頂上かと思ったが、頂上はさらに2030mほど先であった。藪が刈られた小広場の中央に一等三角点「弁勲嶺」は埋められていた。明日登る予定の尖峰は、一段小高く華麗な姿を見せている。さすがに一等三角点の山、海岸部をはじめ360°の展望が広がっているが、斜里岳や海別岳など、楽しみにしていた山々がガスに隠されて見えないのは残念だ。

砂防ダムからは綺麗な富士山形に見えていた842m峰も、ここからは少し角度がついた形で望まれる。増水したソウキップカオマナイ川へ引き返すのもつまらなそうで、変化を求めるOtaさんと私のコンビでは当然のことながら藪漕ぎでこの山を越えてテン場へ帰ろうとの話になる。早速ペクンネウシヌプリからの下り、842m峰への登りルートの検討に入る。ハイマツをできるだけ避け、右に左にルートを変え、笹藪のみを選んで行けば、意外と簡単に登りきれるのではないかとの結論となる。コルからは予測通り、背の低い笹藪が続いている。途中、ハイマツと思えた針葉樹も意外なことにイチイで、思ったほどの登りではなかった。順調に標高を稼ぎ、ハイマツが現れたのは頂上近くになってからである。登りきった地点がこの山の最高地点で、842m以上はありそうだ。ペクンネウシヌプリと比べ、山容の特徴が乏しいだけに山名は付いていないが、標高はこちらの方が高い。頂上部は南北に長く、842m標高点は北の端である。ハイマツに邪魔されるが展望はまずまずである。

 とりあえずは標高点付近までハイマツ漕ぎで進み、そこからは砂防ダムへ向って一気に下ることにする。あとの興味はピンポイントでテン場に飛び出せるかどうかである。冷たいビールが待っている。こんな思いでの下降は、意外に遠く長いものだ。少々左側へずれ込んだため、右寄りを意識的して下って行くが、細かな沢形に影響されるため、なかなか直線的には進めない。時々5000円以下の安価なウェーダーもあるとのこと途中から見た砂防ダム付近のテントの数は増えている。既に薮山仲間は集まっているようだ。さあ、もう一息!(2008.10.25)

【薮山登山の道具】

薮山へ登るための道具は、山の専門店ではなくワークショップの方が的を得たグッズが豊富だと言うのが仲間内での定説となっている。これは値の張る高価な道具をサバイバルな山行で使うにはもったいなく、安価で使い捨てに近いものの方が自由に行動しやすいというところによるものだが、どうしてどうして、中には登山道具以上に優れたものもある。今回はワークショップではなく釣具店から仕入れてきたらしいが、Otaさんがウェーダーという渓流釣りで使う、いわゆる胴長を持ってきた。気温がかなり下がるこの時期ともなると、濡れは寒さを増長し、気持の余裕を無くすものである。体調によっては疲労凍死ともなりかねない。そういった意味で、濡れないこの道具は実に魅力的である。もっとも、転倒した場合には水が逃げずに逆効果となることも考えられるが、慎重に行動してさえいれば快適そのもののようである。いろいろな道具を試してみる楽しさ、これも薮山登山ならではのものである。  

Otaさんの「blog」へ

【参考コースタイム】ソーキップカオマナイ砂防ダム 9:10 小沢出合 9:55 ペクンネウシヌプリ頂上 11:35、〃発 11:45 842m峰頂上 12:50 ソーキップカオマナイ砂防ダム 14:00  (登り 2時間25分、下り 2時間15分)

メンバー】Otaさん、saijyo

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