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     ペケレベツ岳(1532.0m)

     

北東斜面を下って見上げるペケレベツ岳

 1/25000地形図「沙流岳」「十勝石山」

目指すペケレベツ岳は遠い
雪庇に注意しながらペケレベツ岳頂上を目指す
日勝トンネル手前のパーキングに車を止める
日勝ピークへの緩い斜面を登る
約1時間で日勝ピーク、日高の山並みが広がる
山口県からやってきたTaさん。背景は日勝ピーク、狩振山

  日高の主稜線上で最も登りやすい山といえばペケレベツ岳が挙げられる。日勝峠の十勝側・四合目からは一般登山者向のしっかりと整備された登山道があり、短い所要時間を考えても登山の対象としては初級の山と言える。山名は清水町のHP・清水町100年物語には、ペケレ・ペッと書いてアイヌ語で明るい・川、 あるいはペ・ペケレ・ペッで水・清い・川を意味し、町名の由来となった旨が書かれている。今回、十数年ぶりでこの山に登ることになったのは、山口県から年に数回は来道しているTaさんの日帰りの日高一山として挙がった山だからだ。

 地図がガイドチーム+山遊人さんでTaさんを迎える。今夜の宿にと、無料で山小屋生活を味わうことの出来る剣小屋へと向かう。しかし先着の山ヤさんが既に小屋の中でテントを張っている様子。まあ、小屋の端でも良いかと戸を開けると、何と!「ゆっくり歩きで低山を楽しむ」の山ちゃんとすてきな山ガールさん(カトリーヌさん)がストーブを囲んでいた。狩勝峠〜日勝峠の縦走を予定していたが、明日の雨天予報でオダッシュ山から下山してきたとのこと。山ヤの世界は狭く、道内何処に行っても知った顔に出会うものである。5名が急遽 7名に膨れ上がる楽しい誤算となった。

 予報に反して、晴天の朝を迎える。この日は札幌へ帰るだけとなっていた山ちゃんとカトリーヌさんだが、1445m峰(通称;日勝ピーク)まで我々を見送ってくれるとのこと。人気の日勝ピークとあって、他にもこの日の晴天に誘われた登山者が到着していた。この日勝ピークだが、以前(20年くらい前)には沙流岳へのアプローチに過ぎなかった。その後、日勝峠ということもあってアクセスが良く、駐車スペースも確保出来、斜面の滑りが良いとあっては口伝に多くの登山者に広がったようである。日勝ピークという名も何時の頃からかそう呼ばれるようになったようだ。確かに沙流岳よりも標高があり、立派に一山としての存在感はある。

 7名で快適な斜面を登って行く。南寄りの風は強いが、晴天が気持ち良く、視界は良好である。標高差約450mの単調な斜面、約1時間で頂上到着となる。登高ペースは個人差があり、無理に合わせて登るよりはマイペースが良い。そう知っている面々は三々五々の頂上到着となる。しかし、山遊人さんだけが遅れているようだ。聞けば古傷が障って調子が上ってこないとのこと。こんな場合、無理する必要など何処にもないのは常識、私とTaさんでペケレベツ往復としようと考える。さて、行こうかと思っていると、山ちゃんとカトリーヌさんもペケレベツ岳まで同行するとのこと。当初は考えてもいなかった入れ替え4人パーティのメンバー構成となる。世の中は判らない、一寸先も判らないのが世の中である。結局、彼らの先導でペケレベツへと向かうことになる。山ちゃんは持ち前の体力で、カトリーヌさんもなかなか慣れた様子で快調なペースで我々をリードして行く。

  1359mポコの西面を巻いて1160mの広いコルへと下る。この日の同ルートには先行者がいるようで、スキーのトレースが何処までも続いている。短く細いスキーなのでクロスカントリー用の板だろう。最初のコンタ1250mへの斜面で彼に追いつく。この山は初めてとの単独行者である。シールを付けていないようで苦労している様子。エールを交換、彼を追い抜く。さらに1343mピークから先にもトレースがあって、どうやら別ルートから登ってきた登山者もいるようだ。 頂上が見える地点まで登ると先行していた彼らはちょうど下り始めたところ。山ちゃんは何やら話しかけている。頂上付近では雪面が硬くなってスキーのエッヂが効かない。気の短い私はツボで頂上へと向かう。だが、これがけっこう怖い。傾斜がほとんど無いと油断したが、アイゼンがないのであればスキーを付けたままの方が良かったようだ。飛び出しているハイマツに掴まりながら何とか頂上に立つ。南側には日高山脈の山並が広がり、振り返った先には日勝ピークや沙流岳などお馴染みの山々が見える。風は強いが予想外の晴天となり、山口県からやって来たTaさんも十分に満足した様子。遠路のメンバーを迎える側としては最もほっとする瞬間だ。

1160mコルからはペケレベツ岳への登りとなる 予想もしていなかった4人パーティで頂上到着!

 さて、下りだが、スキーのデポ地点までが怖い。キックステップが効かず、ハイマツに掴まりながら躊躇していると、先ほどの単独行の登山者が到着、私のアイゼンをお貸ししましょうか? との親切な言葉。何ともありがたいものだ。アイゼンをうっかりザックごと家に置いてきてしまった私とは気持のあり方が違うようだ。デポ地点はすぐ先だったので何とか自力で進んだが、自分のうっかりミスは他人にも迷惑になるものと大いに反省する。もたもたシールを外している私を尻目に、メンバーは稜線を快適に下って行く。コンタ1300mのコルへと下る手前で先行パーティと共に我々メンバーも大休止の様子。聞けば彼らの登ってきたルートは登山道のある尾根よりはスキーには適しているとのこと。日勝峠に戻るよりは楽かと思って登山道の下降を提案したが、私も地形図から見るこの尾根が快適とは思っていなかった。

 折れたストックの修理に手間取る彼らに下降地点を聞いて、一足先にそこを下ることにする。十勝側は雪庇が張り出していて、近寄る気がしなかったが、見れば確かに彼らのトレースが残っている。ただ、積雪の状態によっては雪崩れる危険性も否定できないような地形であることに変わりない。躊躇する我々を尻目にカトリーヌさんは果敢に下降を開始している。最近の女性の強さを見せ付けられる思いである。雪質は重く、とても快適とは言えないが、上手い人間はやはり上手い。何度も外れる私のビンディング、そろそろ換え時か… いやいや、スキー技術の問題か… そんなことを考えながらもぐんぐん下って行く。雪質が良い時期であれば楽しさこの上ない斜面と言えるだろう。このルートも口コミなどで広がって行けば、滑り目当てのスキー登山者やボーダーなどで将来的には賑わうかもしれない。つい、話題のタケノコ山(南富良野町)を思い出す。徐々に傾斜のない広い尾根となり、小沢を一つ越えて広い雪面を通過、国道のパーキングに飛び出す。

 今回の山行、ザックを忘れたり、成り行き任せの部分が多いなど、私個人としては今ひとつぴりっとせず、反省点の多い結果となったが、そんな部分を差し引いても新鮮味のあるペケレベツ岳を味わえたことは素晴らしく、十分に満足できる二日間であった。(2013.4.13)

 

【小説「風が死んだ山」】

 私が未知なる存在を始めて感じた山がこのペケレベツ岳だった。これを霊感と呼ぶかどうかは別として、未だに自分自身の空耳だったと理解するには割り切れないものがある。20年以上も前になるが、当時所属していた山岳会のメンバーであるIさんと剣山とペケレベツ岳を日帰り2山で計画した時のことである。剣小屋で泊まって翌日は朝から雨、それでも剣山を午前中に終わらせ、午後からペケレベツ岳へと向かう。標高の高いこの山は、登山口ですら風雨が強く、横殴り状態となる。登山道があり、夏ということもあって、体力的に自信のあった私とIさんはそれぞれのペースで雨の中、頂上へ向けて出発した。簡単な夏尾根登山とばかりに走るように登るが、どうやら女性二人が先行している様子。ぺちゃくちゃ話しているが内容は判らない。さすがにメジャーな山、こんな雨天でも登山者がいるのだろうと思っていた。私が先行、頂上にてIさんを待つ。下山は一緒だったが、帰路の車中でIさんが、saijyoさんと話をしていた女性二人はいったいどうしたんだろうとポツリ、彼も先行者の話声を聞いていたのだ。頂上より先に行ったのだと簡単に考えていた私としては、頂上より先に登山道など有るわけがないことを思い出して、ぞっとした。

 新田次郎の短編に「風が死んだ山」というのがある。ある状況の中でだれかが錯覚を起すと、同じ心理状態にいる回りの人間も同じ錯覚を起してしまうといった、人間の心理の弱点を描いた作品である。幽霊なのか錯覚なのか…言えることは、私とIさんが全く同じ心理状態だったということだろう。木々の間を抜ける風の音の波長が女性の話し声に近かったと解釈してはいるが、実際のところはどうなのか…

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【参考コースタイム】  日勝トンネル手前 P 8:00 日勝ピーク頂上 9:00、〃発 9:20 ペケレベツ岳頂上 11:15、〃発 11:25 → 国道 P 12:45  (登り3時間15分、下り1時間20分)

メンバー山ちゃん、カトリーヌさん、Taさん、saijyo手温 山遊人さん、チロロ2、チロロ3(旧姓naga) …日勝ピークまで

 

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