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   東斜里岳(1452m) ・・・パンケニワナイ川から東斜里岳へ

ガスに霞む東斜里岳

1/25000地形図「斜里岳」「瑠辺斯岳」「俣落岳」

天候も安定、未知の沢へいざスタート
しばらくは水流のない河原を行く
水流が出て、初めての滝らしい滝
940m二股だが、この時は気が付かなかった

Ota氏(大好き!Mt.Onne管理人)と約束したパンケニワナイ川、雨によって中止となった昨年のリベンジはいつも頭にあった。記録がない上に沢自体も長く、それ相応の準備が必要である。先月にはプレ山行として無意根山・白水川へ行き、時間の掛かる遡行を通して現在の自分の沢慣れの度合いや持久力をチックしてきた。

いよいよ本番である。札幌からは夜通しの運転で根北峠へ入る。斜里岳周辺は前日からの霧雨で、ワイパーを動かしながらの走行となる。こんな天候では、とても未知の長い沢へ入ろうなどという気分にはなれないが、この時期のオホーツク海側は高気圧の勢力が強く、根室半島沖を低気圧が通過する度に湿った空気が吹き込み、しばしばこのような状態になるそうである。協議の末、翌日に計画していた中標津町・クテクンベツ岳をこの日に繰上げとする。日頃の行いの良さか、中標津側の天候はまずまずで、クテクンベツ岳は首尾よく成功、あとは翌日の天候回復を待つのみである。

核心部のゴルジュ、さてどう登るか?

宿泊した清岳荘で朝を迎えるが、相変わらず霧雨は止まらない。当のOta氏は頭から中止などはないといった様子で、さすがに私はどこで中止を切り出そうかとそのタイミングを考える。とりあえずは入渓地点の橋まで行って様子を見るしかないようである。ところが、根北峠から瑠辺斯林道進んで行くうちに同じ曇り模様でもぐっと安定した高曇り状態となる。こうなれば心機一転、さあ決行である。出発前に気が付いたが、林道上にはヒグマの大きな糞が…やはり言われているように斜里岳の裏側はヒグマの生息密度が濃いようだ。我々が登るパンケニワナイ川は、斜里岳の中標津側(南側)から南斜里岳や1452m峰(通称、東斜里岳)へ突き上げる、ほとんど記録を見ることのない沢である。斜里岳に特化している大好き!Mt.Onne管理人さんとしては興味の尽きないところであろう。

  入渓〜

昨年の小屋の沢同様に水の流れはなく、石のごろごろした河原が延々と続いている。乾いた石の表面はフリクションが効いて歩きやすく、右に左に蛇行しながらも、けっこうなペースで順調に進んで行く。約50分でコンタ700m付近の規模は小さいがゴルジュ状のチョロチョロと水流のある最初の小滝が現れる。3〜4m程度ではあるが、立派に釜を持っていて、融雪期や大雨後の水流があるときには激流となるのかもしれない。右岸側から上部へ抜け、滝上の小さな淵へ落ちないよう、へつりでここを通過する。その後、再び乾いた河原となるが、直ぐに水流が現れる。水流はやがて沢の流れとなり、徐々に遡行の雰囲気が盛り上がってくる。日も差しはじめ、最初の滝らしい滝が現れる。5m、3mの二段で、手掛かりはしっかりとしていて難なく通過する。その後も滝や釜が連続して現れるが、まるで問題はない。滝と滝の間には見事なナメ床も現れ、何とも心地よい遡行が続いて行く。

ニ・ゴルジュから1時間10分で940m二股となるが、この時点でここが940m二股であるという認識はない。左股には水流はなく、巨岩のチョックストーンとなっていて登れない。水流がある右股のトイ状5mの滝を登ると左股からの水流が滝上で合流していた。目指す南斜里岳へはここを左へ入るべきであったが、右股の滝から登ったこともあり、水流があるのは右股で、当初予定していた沢を枝沢と思い込んでしてしまった。何の疑問も持たずに進んで行くと、三段ゴルジュ状の滝となる。各段とも小さな釜をもっていて、水にどっぷりと浸からなければ取り付けそうもない。先行するすがわらさんとOtaさんは左岸の際どい高巻き、私は右岸の藪漕ぎ高巻きでここを切り抜ける。核心部が近いことを窺うかのように、小滝が連続して現れる。5mほどの小滝では右岸側の大岩の隙間を登るが、取り付きから2mは少々微妙なバランスを強いられる。次に現れる釜を持った5mの滝では、Ota氏が右岸の微妙なへつりで上部へ抜けるが、私にはとても真似できず、左岸をへつって滝横のチムニーからガバを頼りに滝上へと抜ける。

左側の岩を登るが、取り付きの2mが微妙

■核心部・ゴルジュ〜東斜里岳へ

小滝群を抜けると視界が開け、雪渓が残る核心部のゴルジュが姿を現す。ここで地形図を確認したところ、間違えていたことに気付く。結局、小滝群を戻るのは億劫であり、予定を変更して本流をそのまま詰めることにする。もっとも、パンケニワナイ川の完全遡行と考えればこちらが正解であり、目的がこの沢の遡行である以上、間違えを悔やむ必要は何もない。一服しながら核心部を観察、その抜け方を検討する。巨岩がチョックストーンとなっていて、普通のゴルジュとは少し様相が違う。大きく分けて三段となっているが、中段の登りの途中にほどよいテラスがあり、そこへ抜けさえすれば我々の勝ちと読む。左岸側から大高巻きをした場合、ゴルジュの上部へは抜けられるかもしれないが、一見登れそうに見えても、高度を稼いでいくうちに、意外な草付き急斜面となってしまい、二進も三進も行かなくなることはよくあることである。運良く、エスケープ用の支点でも見つかればまだましだが、あるのは草ばかりという状況にでも追い込まれれば最悪である。

ここはOta氏が斬り込み隊長となり正面突破を計る。核心部手前の狭い淵は全身を目一杯にチムニー登りで通過、二段目のテラスへの微妙な部分は日頃の岩トレの成果か、フリクションを利用して危なげなく登りきる。さすがに彼の安定度は抜群である。沢の遡行では、一人が成功すれば勝ちである。二段目の上部へは水流際から一登り、次の三段目の巨岩上への登りとなる。巨岩に掛かった雪渓の下から窓となった上部へ飛び出す手もありそうだが、途中は真っ暗で様子が判らない。この巨岩は低いが少々ハング気味で、さすがにこうなると岩トレで日頃から鍛えていなければ突破は困難である。再びOta氏がトップで攀じ登り、お助け紐で引き上げてもらう。核心部は実質ここまでである。 

正面突破を試みるOtaさん

コンタ1200m付近も地形図ではかなり細かくなっている。鬼が出るか蛇がでるか、不安感は完全に消え去り、好奇心のみがぐんと先行した状態である。辺りは高山的な雰囲気へと変わり、エゾコザクラやトカチフウロなど、色とりどりの高山植物が咲き乱れる別天地へと変化している。この山ならではの赤いナメ床やナメ滝が続き、遡行のクライマックスには大雪渓とそれに続く30mはあろうかという大滝が現れる。高さはあるが、既に源頭であるために水流は糸状で、エネルギー不足といった感は否めない。現れた時には一瞬“オッ”と思うが、Ota氏との会話の中で「ここから見れば立って見えるんだよね…、ただし、近寄るとそうでもなかったりするんだよね」とのやりとり、大雪渓を沢タビのキックステップで登って行くうちに、会話通りの状況へと変化して行く。最初に予定していた右岸は意外に立っているが、左岸側は緩いバンドが落口へと続いていて、登山道で言えばザレ場に近い状態となっていた。

詰めは赤いナメ 東斜里岳頂上にて
古の“登山道“を下る
今回は残念ながら登れなかった南斜里岳 いにしえの“登山道“を下る

後はほとんど藪を漕ぐこともなく、1508m峰とコンタ1480m峰(通称;中斜里岳)との間のコルへ飛び出す。ここからはガスの合間に、馬の背付近の様子が間近に見られる。斜里側の悪そうな天候の中、人の声が絶えず聞こえ、多くの登山者が斜里岳ピークへと向かって行くが、我々が彼らと行き交うことはない。ガスの中に隠れる斜里岳本峰を尻目に、我々は東斜里岳への踏み跡を辿る。1480m峰を途中でかわし、コルへの急斜面を下って、あとは目的の東斜里岳への真っ直ぐな踏跡を登りきるだけである。東斜里岳は青空の中にあり、登り詰めることの喜びが大いに膨らむ。健脚者のすがわら氏は全く速く、またたく間に東斜里岳の頂上へと消えて行ったが、今や少数派となった愛煙家である私とOta氏は呼吸を整えながら、一歩一歩前進といったところで精一杯だ。

東斜里岳頂上からは辿ってきたパンケニワナイ川の全容が手に取るように望め、南斜里岳への詰めで沢形がルンゼのように垂直に立ち上がっている様子をうかがうことができる。仮に予定通り詰めていた場合、枯れ滝の連続となり、尾根へ逃げても岩壁が途中で立ち塞がり、已む無く引き返しといった状況に陥っていたかもしれない。ただし、対岸から見る斜面は視覚の上では壁のように見えてしまうのも事実で、案外大したことがない場合も多い。さて、実際はどうであったか、こればかりは何時の日にか同ルートへ再チャレンジして、自分の足で解答を得るより方法はないようである。 

古の登山道から下山

源頭を彩るエゾコザクラ トカチフウロ

東斜里岳からの下りは、かなり以前に根北峠への登山道があったそうで、藪は被っているかもしれないが、それを下ってみることにする。Ota氏は以前、東尾根上の草原の中に登山道を見たとのことで、その真偽を確かめることも今回の目的の一つであった。東尾根への頂上直下は崖となっているそうで、まずは北側から回り込むようにハイマツ帯を下るが、転がり落ちそうな下りである。東尾根へのトラバースはさらに困難を極め、こんなことなら懸垂してでも真っ直ぐに東尾根を下るべきだったと後悔する。何とか崖の基部から回り込んで、尾根上へと出るが、やはりハイマツ帯の中であることには変わりはなく、もがき苦しむ状況もあまり変わらない。

主役は登攀系のOta氏から藪にはめっぽう強いすがわら氏へとバトンタッチ、彼の先導で古の登山道を辿る。どうやらOta氏が草原と言っていたのはハイマツ帯だったようで、となりの芝生が良く見えたに過ぎなかったようだ。目線を極端に下げれば確かにハイマツを鋸で切った跡があり、抵抗力の少なさから、以前は登山道であったと頷くことができる。しかし、ちょっと油断をすれば直ぐにハイマツの海と化するところはやはり藪尾根そのものといえる。すがわら氏の微妙なルートファインディングによって古の登山道を辿り、少しずつではあるが東斜里岳が離れて行く。コンタ1070m尾根分岐が勝負の分かれ目で、ここを過ぎれば、どこでパンケニワナイ川へ下っても、困難な滝は出てこない。コンタ1070m尾根分岐から先、古の登山道は根北峠へと方向が変わり、我々は一気に川を目指して下ることにした。

 懸案であったパンケニワナイ川を無事登り終え、斜里岳の四方から突き上げる沢の魅力が少しずつではあるが解ってきたような気がした。一般コースを含め、これで3方向からの踏破となったが、それぞれに充実感を感じ、思い出深い山行となった。360°のうち、わずか数度のエリアに立ち入ったくらいでは斜里岳の持つ本当の姿は語れず、あらゆるルートから、しかも四季折々訪れることによってのみ、この山の持つ本当の素晴らしさを理解することができるのかもしれない。(2008.7.20)

     ■Otaさんのパンケニワナイ山行記へ 

【参考コースタイム】パンケニワナイ川・入渓地点 P 6:35 ミニ・ゴルジュF1 7:25 940m二股 8:35 核心部・ゴルジュの滝 9:05 → 大雪渓と30mの滝 10:20 → 稜線(登山道) 10:55、〃発 11:20 東斜里岳 11:45、〃発 12:20 パンケニワナイ川 16:05 パンケニワナイ川・入渓地点 P 17:25   (登り 5時間10分、下り 5時間5分、※休憩時間含む)

メンバー】なかしべつ・すがわら氏、Otaさんsaijyo

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