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      天狗山(516.7m) ・・・音威子府

天塩川に映る音威子府・天狗山

1/25000地形図 「筬 島」

天塩川堤防脇に車を停める
この鉄橋から山行は始まる

斜里岳・清岳荘の管理人・熊ぷ〜さんが山を降りるこの月、藪山好きのメンバーが集う登山会が今年も開催された。熊ぷ〜さんの労をねぎらうという名目で毎年の恒例となったが、焚き火を囲んで普段はあまり顔を会わすことのない遠方の山仲間と酒を酌み交わし語らい、翌日は参加メンバーのだれもが登頂していない藪山の一山へ挑もうというものである。楽しさこの上ない企画であり、参加メンバーも年々増加傾向にある。とはいえ、誰しもが未踏のピークという山は少なくなり、場所の選定がかなり難しくなって来ている。今年の一山は苫前町の奥三毛別山が候補となっていたが、山の魅力で勝る音威子府の鬼刺山が一歩リードの形で計画される。当番のEIZI@名寄さんとOginoさんには既に登頂済みのピークであり、UP中の山行記を一時取り下げ、参加者には解答を見せないといった演出で、山を新鮮に楽しんでもらおうとの配慮もあった。この朝も皆が寝ている薄暗いうちから入山予定ルートの偵察に入り可能性を探っていたようであるが、時期的なものと悪天候による沢の増水によって、やむなく山域の変更を決めたようである。

頂上台地への最後の藪斜面 蛇行する天塩川と神路渓谷
天狗山頂上に埋められた三等三角点 存在感抜群の鬼刺山をズーム

そこで、代替案として用意されていたのが天狗山である。天塩川を挟んで鬼刺山の北に位置する標高517mと低山の部類に属する山で、私も現地入りしてはじめて知った山である。道内には“天狗”の名が付く山が多く、どの山もどこかに険しさを秘めているが、この山に関していえば険しさが見つからない。しかし、そのことがかえって知られざる部分への期待感を大きく膨らませるから不思議なものだ。入山口は松浦武四郎が天塩日誌の中で、蝦夷地に代わるいくつかの名称候補の中から「北加偉道」を選んだ地といわれる筬島(おさしま)で、正しく“北海道”発祥の地といえる。この筬島、現在は道内の他の過疎地同様に自然回帰が進んでいるようである。昭和42年に長年の悲願によって天塩川にかかる筬島大橋が開通するが、その後の産業の変革によって離農が進み、現在は数戸の農家を残すのみである。JR筬島駅は無人化し、乗降客はほとんどいないとのこと。音威子府村史によれば、筬島はかつて「コノハズク」の鳴き声を頻繁に聞き取れる場所として、全国的にも注目された時代があったそうである。当時の調査結果では、住民の95%もの人々が「ブッポウソウ」という鳴き声を聞いているという記録があり、マスコミにも登場したようであるが今は昔の話である。

このルートには一つの難点がある。車を降りて直ぐに頓別妨川に掛かる鉄橋を渡らなければならないということで、私には子供の頃の札沼線(現;学園都市線)で遊んでいて機関士に怒鳴られた記憶がよみがえる。以前に上川三山の一つである天幕山へ登った時も同様の状況であったが、レールに耳を付けて、音を確認、スキーを抱えて駆け抜けたことがある。宗谷本線の場合は列車の本数も少なく、出くわす確率は低そうだが、小心者の私としては気が気ではない。結局、取り付いたところは予定していた沢よりも少し手前の斜面であり、先頭を歩いている私の一刻も速く線路から逃れたいという思いがあせりをよんで、取り付き地点を間違えてしまったようだ。線路からいきなり藪斜面の急登となる。傍で見ていれば大所帯パーティの何とも奇妙な光景と映るであろう。急斜面の一登りで枝尾根上となり傾斜が緩くなる。15名もの人間が歩くと最後尾は踏み跡状態となるため、藪斜面とは思えぬほど歩きやすい。尾根上の藪の中に名寄行きのディーゼルカーが線路上を駆け抜けて行く音が響き渡る。山行全体では多少のタイムラグはあるが、過疎路線ということで考えればやはり間一髪であったと胸をなでおろす。

線路からいきなりの藪斜面 藪漕ぎの果て、いきなり林道が出現する
今年も集まった藪山仲間

長年藪を歩いていると、林道が見えてくるようになる。微妙な樹木の生え具合から通っている道路の規模までもが見えてくるものである。この日もそれなりのものとは想像したが、飛び出してみると正に林道であり、車のタイヤ痕まではっきりと見えている。藪尾根もしくは沢から林道へ飛び出すケースは実に多い。ガイドブックに登場する山であれば、林道情報もルートの一環として登場するところであるが、マニアックな山では縦横無尽に入る林道や集材路に出くわすと意外さをより強く感じるものである。藪漕ぎや沢歩きといった未知の部分がそう感じさせるのかもしれない。とりあえず林道上へ出て、仕切り直しである。途中、ヤマブドウやコクワなどが見られ、しばし秋の豊かな味覚を楽しませてもらう。

天狗山本峰と467mコブとのコルへ向かう当初予定の小沢を過ぎ、次の水流のある小沢へ入る。今回の足回りは長靴が前提とのことで、ルート選択も必然的に変わってくる。途切れそうで途切れない小沢は延々と続き小滝(2m)も現れるが、長靴でも十分である。小沢はコル手前から本峰へ向かい、稜線手前で藪に消える。稜線上は中程度の根曲がり藪であるが、ところどころでツルが絡み、見た目よりは歩きづらい。頂上台地手前の広い藪斜面を一登り、背後には筬島付近の天塩川と緑の平野が広がる。頂上までは平坦であるが、潅木が邪魔して歩きづらい。三等三角点は藪の中であり、展望は今ひとつである。少し進むと天塩川へ下って行く枝尾根の頭となり、ここはすこぶる展望が良い。真正面には今回予定していた鋭鋒・鬼刺山が堂々と、山域の盟主といった貫禄を見せている。たかだか700m程度の山であるが、地域によっては立派に700mと思える。やはり山は高さだけではなさそうだ。東側には頂上部が雪雲で霞んだ本道最北の1000m峰である函岳、加須美岳などの山塊が望まれ、早い冬の到来を感じさせる。蛇行する天塩川と秋色に染まる神路渓谷(当地ではこう呼ばれている)など、藪を漕いだ者にしか味わうことの出来ない特別の眺望がある。

天狗山は地形図には名が載っているが、山名も標高も我々藪山愛好者でさえ食指を動かさない山である。食わず嫌いと言ってしまえばそれまでであるが、意外な中に意外に良い山が存在するところが藪山登山の最大の魅力であり、原点ともいえる。鬼刺山ほどの山であれば、きっと今後も登頂する機会はあるだろうが、この天狗山については一つのきっかけがなれば決して出会わなかった山と言えるだろう。来年は我々札幌メンバーが当番、これからの一年間は藪山仲間をあっと言わせる、隠れた名峰探しが楽しみである。素晴らしい山を紹介してくれたEIZI@名寄さんとOginoさんには登山会の準備も含め、改めて感謝である。(2006.10.21)

今回同行して頂いた ■熊ぷ〜さんの山行記へ ■EIZI@名寄さんの山行記へ  ■Lukyさんの山行記へ 

【参考コースタイム】 鉄橋手前P 8:10 → 林道出現 8:55 → 天狗山頂上 10:55、〃発 11:40 → 林道 12:50 →  鉄橋手前P 13:40

メンバー】 熊ぷ〜さん&エル嬢、EIZI@名寄さん、Ogino@旭川さん、網走・伊藤さん、八谷ご夫妻、あまいものこさん、Fusako@北見さん、清水@北見さん、Luky@美唄さん、nakayama@札幌さん、橘井@枝幸さん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga) 

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