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      於曽牛山(898.8m)

どこにでもある尾根の突起に過ぎない於曽牛山

1/25000地形図 「豊 糠」

木々の間からイドンナップ
頂上は藪の中
尾根取付き地点の林道駐車スペース
老木に絡まる蔦類の新緑が美しい
ルート中、5〜6ヶ所に見られる「鳥獣保護区」の看板

於曽牛山は、日高幌尻岳(深田久弥氏が独自に選択した「日本100名山」の一つ)の額平川コースのアプローチとなる林道入口付近に位置する非常に目立たない山である。“オソウシ”とは、アイヌ語で「川口に滝のあるところ」の意味があるようであるが、私は“ウシ”は「場所」ではなく酪農王国北海道を代表する「牛」の方がいかにもという感じがあり、当て字である「富村牛」「養老牛」等からゆったりとした大きな山というイメージを懐いていた。雪渓が残るトムラウシが横たわる乳牛に見えるのは私だけかもしれないが、正に北海道の山といった印象である。こちら於曽牛山はマイナーな面や山自体が小さいことを考えると、イメージ的には“遅牛山”といったところかもしれない。今回は道内1000m以上の山すべてに登頂した八谷氏の提案で、EIZI@名寄氏や「ゆっくり歩きで低山を楽しむ」のYama氏、glissader氏の新顔メンバーも参加してのチャレンジである。こういった動機付けがなければ、899mと低く、山名や三角点が無ければ単なる尾根の突起に過ぎないこの山、他の山をよほど登り尽くさない限り登る順番が巡ってこなかった山と言える。

前日、千栄にある函館マウンテンクラブの日高ロッヂに集まり、この山の攻め方を検討する。私はストウニ(シドニ)川沿いの作業道を奥まで入り一気に急斜面を詰めるルートを考えたが、八谷氏は尾根を末端から忠実に詰めるルート、Yama氏、glissader氏は沢詰めルートと三つの案が出て、集中登山はどうかということで大いに盛り上がる。翌日、全員が初見山ということで現地入りするが、沢ルートについては現場を見上げただけで「今回は止めておこう」という気分になるほど詰が急峻で、一筋縄では攻略できそうにはない。三パーティが二パーティとなり、結局我々も彼らに合流、尾根を末端から登るルート1パーティでの出発となる。

取付きの尾根末端付近は樹林が鬱蒼としていて、二の足を踏みたくなるような感じである。ただし、日差しが燦々と降り注ぐ南面や、稜線のハイマツ帯とは違って、陽光の届かない暗い雰囲気の中では下草の生長も少ないようで、薮は思いのほか薄くて歩きやすい。取付きはけっこう急峻であるが、薄い薮の中の踏み跡を木々に摑まりながら一気に高度を上げる。登っていることが実感できるだけに、気分的には全く疲れない。この踏み跡、獣道というだけではなく人間も歩いているようである。頂上も含め、5〜6ヶ所に「鳥獣保護区」の赤い看板を見るが、倒れたもの、杭のみのものと様々である。人里に近いこともあり、狩猟解禁時にはエゾシカを追って、この踏み跡へ入り込むハンターがいるのでないかと思う。鳥獣保護区とは自然動物の繁殖を促すために、指定されたエリアのことで、当然のことながら鳥獣の捕獲が禁止されている区域である。鳥獣保護区には二タイプあり、一つは環境省、もう一つは都道府県が指定する保護区である。こちらは環境省が設定した、より重要性が高い方であるが、一般的にはほとんど知られることもなく、狩猟も平気で行われているのかもしれない。ともあれ、尾根上の単純なルートであるが、登山道に近いものがあり、少々ルート整備をすれば簡単にガイドブックに登場してもおかしくはないような立派な登山道となることだろう。ただし、鳥獣保護区の主旨から考えれば、それは決して望ましいこととは言えない。

藪中で見つけたカモメラン 於曽牛山の三角点

そろそろダニの季節なのか、先頭を歩くとズボンにダニが張り付き、ルートファインディングよりもそちらに気を取られてしまいがちである。下草は相変わらず薄く、ギンリョウソウや美しいカモメランなど“薄い薮”ならではの花々が目を楽しませてくれる。樹林は自然林であり、エゾ松の老木に絡まる蔦類の新緑が見事で、そのコントラストが実に豊かで美しい森林を形成している。斜面が緩くなると熊笹と思われる笹薮となる。千島笹かもしれないが、背が低いためにさほど苦労はない。背後には糠平山、その稜線上からは特徴的なシキシャナイ岳も顔を出す。アプローチとなった豊糠付近の牧草地が広がり、徐々に標高が上がっているのが実感できる。目を転じると日高山脈の盟主といえる日高幌尻岳や寄添うように鋭鋒・戸蔦別岳が雲間に指呼することができる。藪山山行では、頂上は近いようでなかなか近づかない。次のコブが頂上と思いつつも、それを越えればもっと高い次が現れる。経験上、こんなことは日常茶飯事であるが、未だ同じような状況で同じように期待してしまうから情けない。

 何度か頂上への期待を裏切られながらも、最後にはここぞと思える鳥獣保護区の杭のみが立った地点へ到達する。杭付近を捜索し、かなり苔むした三角点を発見する。心配なので、手で擦って真中の十字を確認、間違いなく於曽牛山頂上である。付近は樹林に囲まれているが、前述の日高幌尻や戸蔦別岳の他にイドンナップの長い稜線やナメワッカ岳等も確認でき、視界が利けば北日高核心部の素晴らしい展望台となりうる頂である。また、展望台といわれている糠平山なども別の位置から確認することができ、山座同定の材料には事欠かないようである。笹の生い茂る鬱蒼とした薮中の頂上ではあるが、樹林の間には間違いなく素晴らしい眺望が隠されているようであり、冬期間のアプローチさえ許せば、ぜひスキーにて再訪したい頂であった。(2006.6.18)  

■同行して頂いたEIZI@名寄さんの山行記

【参考コースタイム】 尾根取付き 8:20 → 於曽牛山頂上 10:40、〃発 11:20 → 尾根取付き 13:00

メンバー八谷夫妻、EIZI@名寄氏、Yama氏、glissader氏、saijyo、チロロ2

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