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      音別岳(1330.5m)

  

   

ラサウヌプリから望む遠音別岳 (中標津・すがわらさん提供)

/25000地形図「遠音別岳」「真 鯉」

強風の中、頂上を目指す
遠音別岳頂上に立つチロロ3(旧姓naga)さん
オペケプ川林道の途中に車を停める
天然林の疎林の中、頂上を目指す
途中から見る海別岳は平らな台地状だ
遠音別岳頂上まではここから標高差約500m

知床と言えば、だれもが間違いなく“秘境”をイメージすることだろう。言葉の通り知床はアイヌ語でシリエトク、即ち地のはてであり北方・千島へのロマンを描きたてる最果ての地である。数年前、夏山登山で羅臼岳へ登ったが、ガイド登山の行列には驚かされ、秘境登山のイメージとはほど遠かったのを覚えている。遠音別岳は羅臼岳ほどの標高はないが、人の手が入っていないということでは秘境・知床を代表する山の一つと言えるだろう。スノーモビルが縦横無尽に走り回る道内の山岳で、さすがにこの遠音別岳周辺はしっかりと規制されているのか、入った形跡を見ることもなく静かな登山が楽しめた。

この山のアプローチは難しい。夏道がないから難しいのは当然であるが、スキー登山であっても厳冬期にはかなり厳しい気象条件を強いられ、簡単には近づけそうにない。夏であればどの沢詰を行っても遡行距離が長い上、詰では知床特有の強烈なハイマツ漕ぎを覚悟しなければならないようである。気象が安定し、ハイマツもしっかり積雪に埋まっている春山で計画するのが無難なところであろう。札幌から計画する場合、往復するだけでも相当な時間がかかり、日曜日のみの休日である私にとっては大型連休以外にこの山へ登るチャンスはない。前日の海別岳登山は晴天であったが、本命である遠音別岳登山の当日の天候は下り坂となる。気圧の谷が日中にかけて本道を通過するとの予報で、朝から林道でさえ強風が吹き荒れ、畳んだテントのフライが飛ばされそうになる。昨日の穏やかさとはうって変わっての天候に、登頂の成否が危ぶまれる。札幌近郊の山域であれば簡単に出直すことも可能であるが、知床の山のリベンジともなれば来年以降への延期は必至であり、簡単には引き下がれないところである。

ルートはオシンコシンの滝の斜里寄りにあるオペケプ川林道の西側の尾根から取付き、コンタ800m付近からの広い緩斜面に入り、頂上の西側に延びる尾根を辿って頂上へ至る予定である。このルートは八谷氏が考えたが、細かなアップダウンが比較的少ないようである。この時期の海岸付近は雪が消え、すんなりと取付きからスキー登山というわけにはいかない。林道から尾根を目指して藪へ入り、しばらくはスキーを持っての藪漕ぎである。ただし、雪が消えたばかりであり、下草は成長前なのでそう苦労はない。途中、送電線下を通過するが、その頃から所々に雪渓が現れる。と、ほぼ同時にヒグマの足跡も現れる。他の山域と比べ知床がヒグマの生息密度が高いことは有名な話ではあるが、想像以上である。足跡はこの後もコンタ800m付近まで大小様々なものが見られるが、この山域の個体数の多さを証明していると言えそうだ。また、藪を漕いだ折、時期的にはまだ早いために全く油断をしていたが、多くの小さなマダニがズボンの上を這っていた。八谷氏曰くは、ズボンは明るい色の方が良いとのことであるが、明るければダニを見つけやすいのは確かである。

ラサウヌプリ北側の岩峰はとても登れそうにない 話題のラサウヌプリ
ラサウヌプリをバックに八谷夫妻 (遠音別岳頂上にて) 東面の崖は覗き込むこともできない

尾根上は広い緩斜面である。樹林帯の中では風も弱く、快適なスキー登山である。341m標高点があるコブは左側を巻き319mのコルへ出る。昨日のものなのかオペケプ川へ向うトレースを発見するが、川の渡渉を繰返しながら登ってきたとは考えにくい。オペケプ川の林道が地形図で記載されているよりは奥へ伸びていると考える方が自然である。319mコルからは徐々に標高を上げて行く。コンタ500m付近でこの日一番の急斜面となるがそれ程のことはない。この斜面を登り終えると再び樹林が疎らとなった広い斜面が広がる。付近はさすがに「遠音別岳厚生自然環境保全地域」となっているためか、樹木も自然林であり、幹が太く立派なものが多い。右手へ進めば珍しい動植物の楽園と言われる湖沼群であるが、時間的に立寄る余裕がないのは残念である。コンタ800m付近からは視界が開け、目指す遠音別岳が真正面に姿を現す。一見丘状であり、さほど時間はかからないようにも感じられるが、約500mの標高差を考えればそう簡単ではなさそうだ。雪面から顔を出したハイマツは所々で針路を塞ぎ、場所によっては軽いハイマツ漕ぎとなる。

スキー歩行では風に対して不安定であるため、コンタ860mの尾根取付でスキーをデポすることにする。ピッケルを取り出してツボで登るが、ピッケルは緩んだ雪面では突き抜けてしまうため、この状況下ではストックの方がはるかに良かったようである。地形図上、尾根の風下側である北面は傾斜があり、トラバース気味のルート取りは難しいとのことである。強風の中、風上側である傾斜の緩い南面を登って行く。南からの強風は止まることなく吹き続け、加重のかからない方の足が風にさらわれそうになり何度もバランスを崩す。所々で藪漕ぎとなるが、強風の中ではかえって拠所となるから面白いものである。意外なことに頂上が近づくに従い風が弱まってくる。地形が影響しているのかもしれないが全くラッキーである。最後の藪を越えるとあとは雪面を登り詰め、憧れの遠音別岳頂上に到着する。後で考えれば、遠音別岳頂上部の取付き地点である平地が、この日一番の風の通過地点となっていたようである。話し声が伝わらないような強風は私もあまり経験がない。

話にはよく聞いていたが東側の切れ落ちた崖面の迫力は凄まじく、吸い込まれそうな感じであり、覗き込むことすらできない。西側には地形図上に山名は載っていないが、存在感のあるラサウヌプリの全容を望むことができる。同山から尾根続きである北側の岩峰は天を突くような山容であり、将来とも私が登ることなど到底できそうにない。立ち寄ることは出来なかったが、湖沼群の一番大きな沼は湖面の中央部のみが顔を出していて、遅い知床の春を感じさせてくれる。沼に映るこの遠音別岳の勇姿を想い浮かべながら下山の途につく。(2005.5.4)  

参考コースタイム】オペケプ川林道(駐車地点) 6:20 → 619mコル 8:15 → 860mスキーデポ地点 10:20 → 遠音別岳頂上 12:55、〃発 13:10 → 860mスキーデポ地点 13:45 → オペケプ川林道(駐車地点) 16:15  

メンバー】hachiya夫妻、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

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