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 鬼刺山(728.2m)

端正な姿を見せる鬼刺山  

1/25000地形図 「筬 島」

林道は早々に崩壊、終点より3.7km手前の地点に車を置く
林道跡を進むが、所々で大きく崩壊している (mocoさん提供)
最年長者・sakag氏の身体能力にはいつも驚かされる 
狭いV字の中を進んで行く
ここを抜けると三つの滝が現れる

  鬼刺山(おにさしやま)、何とも殺伐とした怖い名称だが、南北から見る山容は端正で、美しささえ感じられる道北の名峰である。この山は奥まっていることもあって付近の幹線道路からは見えない。唯一見ることが出来るのは国道239号の天北峠付近で、その尖がりようは少しでも山に関心がある人間であれば、つい目を奪われてしまうこと間違いなしだ。私がこの山を始めて見たのはちょうど逆・南側のシートートムシメヌ山の頂上からで、地味な山域にあっては際立った存在感を示す山であった。10年ほど前の残雪期に物満内川沿いの林道から一度チャレンジしたことがあるが、林道の雪がすっかり消えていたこともあって、取り付きの雪渓はまるで無く、この時は偵察のみにとどめている。7年前の藪山仲間のイベントでも一度計画したが、この時は雨で中止、私にとっては縁の薄い山となっていた。

稜線に飛び出して一休み、この後雨が降り出す
鬼刺山の頂上はすぐ近く

 今回はその7年前から同様にこの山が気になっていた北見・yoshidaさんの鶴の一声で鬼刺山のリベンジ山行が決まる。メンバーのEIZI@名寄さんとOgino@旭川さんは既にこの頂を踏んでおり、同じルートでは悪いかな… と思い、彼らが辿っていない二つのルートを考える。一つはあまいものこさんの記録にある鬼刺辺川で、こちらは長いのが難点。もう一つは東側の物満内川支流からで、コンタ200mから300mあたりがかなり怪しい感じである。昭和59年とされる測量隊も通過しているようなので、見掛け倒しかとも思われるが、失敗しては残るのは後悔のみだ。結局、二回目となるメンバーには悪いが、一番確実性の高い西側・知良志内川からのルートに急遽変更する。山行計画の立案者としては辛いところだった。

 林道は施錠されているが、中川の森林管理所に行って入林者の名簿に記載すれば入林OKとのこと。1口もビールを飲んでいなかったOginoさんが中川まで車を走らせてくれた。こうして何とか鬼刺への長い道程の第一段階をクリア、登頂への希望がぐんと湧いてきた。朝は早く、予定の30分前には準備完了となる。林道は凹凸が少なく、思ったよりも走りやすい。だが、地形図上の林道は3.7km手前の地点で崩壊、ここが実質上の終点となる。国の予算の関係上、ここより先に車が入ることは将来的にもないだろう。寸断された林道には草が生え、盛夏であれば背丈以上に茂ったイタドリ等の中を歩くことになるだろう。この山地は概ね地滑り地形で、大岩がゴロゴロしているような河原ではない。崩壊箇所が点在、かなり怪しい林道跡を辿る我々を、川の中を行くEIZI@名寄さんが先導するといった場面さえ見られた。川も林道跡もあまり大差はなく、特に上部へ進んで行くとそれは顕著で、無理して林道跡に拘るメリットはあまりないようである。

 240m二股を通過、河原にはそんなに古くはない人工物も見られる。少なくてもこの辺りくらいまでは林道が伸びていたのだろう。次の290m二股までの区間は少し広くなった川岸を利用、だれともなく枯れたイタドリを折って進んで行く。こんな小さな痕跡であっても、何かの時の目印としては有用だ。290m二股からは沢形も狭まって一気の登りへと入る。このルートを経験しているOgino氏によれば、3〜4ヶ所ほど嫌らしい草付きの登りがあったとのこと。狭いV字の通過は、こんな情報でもなければ不安にもなるところだ。最初に現れた滝は全体的には大きな階段状で、歩いて難なくこれを通過する。次の滝も階段状で、こちらは低いが一部微妙な登りがある。三つ目の滝が嫌らしい。見た目で5〜6mと推測するが、登れそうでいて登れない。果敢なmocoさんが取り付いたが、上部に次の一手がないようで停滞。何とかしようと左岸側に取り付いたMarboさん曰くは、ヌメっていて厳しいとのこと。すかさずEIZI@名寄さんは右岸側に高巻きルートを探すべく、草付き斜面を登る。ロープを持っている山遊人さんと私はその後に続く。前を登る山遊人さんにザイルの設置を頼む。私も低い位置で滝の上部へと入ったが、自分がずり落ちないように止まっているのがやっとだった。 mocoさんは山遊人さんの下ろしたロープで無事滝上へ、このルートの難所を通過する。

沢形を進んで行くうちに左岸側がザレ場となっている滝が現れる。角度的には登れそうなザレ場を登って滝の上へと出るが、そのザレ場の途中からのトラバースが嫌らしい。仮に足場が崩れてずり落ちたところで、擦り傷程度のダメージであろうが、出来れば落ちたくはない。足場を崩さぬよう慎重に沢形へと戻る。沢形が消えると斜面の傾斜はさらにきつくなり、Oginoさんを先頭に普通では考えられないほどの急斜面の登りとなる。すぐ横は小さな崖地形となっているので、斜面としてはこのあたりが限界かと思える角度である。えっ! 嘘でしょ… 心の中で思わずそう呟いてしまうが、Ogino&EIZI@名寄さんの道北組はそれを難なく登って行くからさすがである。掴む笹や潅木などのしっかりとした支点はなく、枯れたオオイタドリの太い茎のみが頼みの綱だ。もちろん、全体重を乗せるといった軽はずみなことは間違ってもできない。これを何とか通過、安堵の間もなく稜線へと続く藪漕ぎとなる。かなり濃密な根曲がり竹で、相変わらずの急斜面だ。あと、10mと見たが、10m進んでもさらに次の10mがどこまでも続いて行く感じがする。続くなら続いたらいいさ… そんな心境になると、意外にもあっさりと稜線上に飛び出していた。

立派な一等三角点「鬼刺岳」

 ここまで来ればいよいよ鬼刺ピークは手中に入ったも同然、ここでしばし休憩とする。ところが、パラパラと冷たいものが落ちてくる。函岳や南側の天塩山地の山並が見え、頂上の大パノラマを期待するが、正に暗雲漂う雰囲気とはこのことだ。雨脚も速まり、雨具の上着を着込む。Yoshidaさんは先日の北アルプスで下ろしたばかりの目にも眩いスカイブルーのもの、こんな藪山で使用するにはもったいないが、彼の山男そのものの風貌と上手くマッチしており、まるでアウトドアメーカーのカタログのワンカットでも見ているかのような映え具合だ。頂上までは明瞭な踏み跡となっていて、難なく肩を通過、10年越しの鬼刺山ピークに立つ。藪山としては場違いとも思われる立派な一等三角点が我々を迎えてくれた。辺りはガスの中、時折ガスが薄くなって大展望の一部を映し出すが、後から後からガスが頂上に被ってきているようだ。

しばし記念撮影等で時間をつぶすが、最後まで晴れず仕舞い、下山とする。下山ルートは頂上の肩から真っ直ぐ西に伸びる尾根上を藪漕ぎで下るルートだ。私が先頭で藪に突入するが、スタートの方向が微妙にずれていたようで、すかさず後から修正が入る。今のGPSの精度の高さは凄いものがある。このまま根曲がりに引張られれば物満別川へと下ってしまうところだった。ただし、知ってはいても根曲がり竹の藪の中では簡単には修正を許さない。標高を少しでも落とさぬようトラバースを開始するが、ズリズリ下降してしまう。結局、笹を掻き分け真っ直ぐに登って何とか尾根上へと登る。結構なアルバイトとなってしまった。尾根上には根曲がり竹の根元に境界標が埋められていた。標石を埋める作業中は綺麗に笹は刈られていたのだろうが、その後ここまで密生したのだろう。

頂上はタイミング良くガスの中、          登頂しただけでも まっ、いいか! と、思おう
満足、満足 … 鬼刺山頂上

 眩いスカイブルーのジャケットと根曲がりの藪が似合うはずはない。道北特有の濃い根曲がり竹の尾根、こんなルートに拘ったところで良いことはなさそうだ。結局、核心部を外して往路の沢へと下ることになる。ところが、mocoさんの新調したGPSではちょうど核心部のすぐ上の地点で往路の沢と合流と出た。Ogino氏は「大したことはない、ぜんぜんだ… 」と全く普通の顔をしている。確かにそうだった。滝の高巻き下降も、慎重に行動しさえすればロープを取り出す必要もない程度のものだった。登る時点でのルートの規模や危険ヶ所のチェックを怠らないことが大切ということだろう。沢下降の臨機応変な策として、沢筋を避けて尾根筋を藪漕ぎで下降する手をよく使う。確かにある意味で尾根は安全だが、そのまま沢下降した場合に考えうるリスクとしっかり両天秤にかけ、客観的な判断で行動する必要がありそうだ。さすが粒揃いのこの藪山メンバー、今回は良い勉強をさせてもらった。(2013.9.20)  

◇◇◇

匠の技 ここにあり!

【匠の技】 転ぶ時には大きな声を上げてメンバーを驚かせるmocoさん、今回、我々のパーティが名付けた愛称はKo(ケーオー)mocoさんだ。本家のKo玉氏(今回は参加していない)だが、山行中にはいつも「ー」とか「テテテテぇ〜」とか野生的な声を上げてメンバーを驚かせる。最初は何だ…? と思ったが、これは彼特有の獣害対策で、例えばエゾシカの逃げ方を見ても、かなり早い段階で我々に気づき、知らぬ間に逃げているようである。これに私が気づいたのは、ある山行で、200mくらい先の笹薮をエゾシカが必死で逃げている姿を発見した時だった。熊鈴やラジオよりも人間の存在を知らしめる上では遥かに効果的ということであろう。一方、mocoさんに聞いたところ、彼女の場合はバランスを崩した際に、大きな声によって無駄な力を分散、転倒時のダメージを和らげているらしい。この両人のレベルともなれば、登山の教科書には決して出て来ることのない奇妙な裏技が存在しているようだ。いやいや、匠の技とでも言った方がぴったりかもしれない。どうせ、誰も入ることのない山域、世間一般の常識などかなぐり捨てて大いに叫んだ方が良い、私にはついそう思えた。  

大好き!Mt.Onne・marboさん  ■ 一人歩きの北海道山紀行・sakag氏  ■ 北見山岳会・yoshidaさん     道北ヤブ山日記・oginoさん

【参考コースタイム】 良志内川・車止め 640 290m二股 8:55 鬼刺山頂上 11:25、〃 発 11:50 → 290m二股 13:40 → 良志内川・車止め 15:40  (登り 4時間45分、下り 3時間50分)

メンバーsakag氏、yoshidaさん、EIZI@名寄さん、Oginoさん、marboさん、山遊人さん、mocoさん、チロロ3さん、saijyo

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