於鬼頭岳(1176.3m)
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1/25000地形図「於鬼頭岳」
沢の源頭を詰める (Ogino氏提供) |
笹薮から突如岩稜が始まる |
車を停めるスペースがないので縦列駐車 |
この沢唯一の本格的な滝が現われる |
左岸を難なく高巻いてクリア |
於鬼頭岳は天塩岳の前衛峰といった感じの山で、鋭角的な山容は旭川付近からも容易に指呼することができる。しかし、登山道がないためにガイドブックには登場せず、一般的にはほとんど知られていない。大雪山から左側へ視線をずらして行くと、すぐ隣りがニセイカウシュッペ、少し離れて天塩岳の山塊が見え、そのすぐ先にこの於鬼頭岳が頭を覗かせている。“於鬼頭”の読みであるが、朝日町町史では「オキト」となっており、オ(川尻)キト(アイヌねぎ)
アイヌ葱のある川尻と、昭和16年、17年の「上士別村報」に当時の似峡国民学校長の「松浦判官天塩日誌」からの考証として載っていた。一方、「オケト」と呼ぶ人も多いが、道内各地に見られる「オケトウンナイ(鹿の皮を乾かすところ)」(出典:Wikipedia)という意味のアイヌ語地名がここにもあてはまるという意見だろう。地形図上のポンオケト川から推測してこちらの読みが正しいと私は考えたが、地形図の標記がいつも正しいとは限らず、半世紀も前に「天塩日誌」の考証の中で取上げられている以上「オキト」が正しいようだ。当てた漢字であるが、頂上付近の険しさを考えると「鬼」の字を使ったには少なからず意味があるように思う。利尻・鬼脇山や音威子府・鬼刺山、何れも険しさを秘めた山である。和名の山であれば、険しさを表現する山名として“天狗”を使うことが多いが、もともとのアイヌ語名がある場合には当てる漢字でその山の特徴を表現したと考えても不思議ではない。ひよっとしたら、この於鬼頭岳もこの字を当てた側の主観が入っているのではないだろうか。
この山に初めて登ったのは13年前の4月だった。ネットも現在ほどの情報量はなく、ガイドブックに載っていない山の情報源は道路地図と地形図のみであった。林道の除雪状況が判らないため、道道101号線(下川愛別線)から一番近いイワナ沢川の林道を利用して入山する。777m標高点からの枝尾根に乗って931m標高点から於鬼頭岳の北斜面に回り込むルートで計画した。この日は晴天で雪も締まっており快適なツアーとなったが、931m標高点の手前で今までに見たこともないような巨大なヒグマの足跡を見た。飛び散った雪は解けておらず、たった今、この地点を通過したばかりのようであった。我々が進むルートは沢筋にしても尾根筋にしても頂上と麓を結ぶ線上の行き来であるが、彼らは違う。尾根も沢もなく、平気で、しかも直線的に我々のルートを縦断していた。その桁違いのパワーには完全に位負けしてしまった記憶がある。その後、777m付近と頂上直下の北斜面で、それぞれ別の個体のものと思われる少し小振りの足跡も見た。1ルートで三頭、そう考えるとこの付近は、ヒグマの生息密度がけっこう濃いエリアといえるだろう。
今回は28名もの大所帯での再訪となる。この山の眺望の素晴らしさはよく知っていたので、何度か再びこの山へ登ることを考えたが、やはりあの時のヒグマの足跡があまりにも鮮烈で、1〜2人での入山は正直気持が悪かった。さすがにこの人数ともなると恐いものはないと考えてしまうから、私も臆病者ということだろう。毎年1回行われている薮山仲間の行事だが、今回は道北のEIZI@名寄さんと旭川のOginoさんが当番で、彼らの頭を大いに悩ませたようだ。沢シーズンがオフとなるこの時期、長靴でも登れることが前提となり、山域選択には意外と苦労させられる。一週間くらい前から天気予報が気になり、いつもYAHOOのポイント予報を見て一喜一憂していた。登山当日はかろうじて晴れ曇りの予報で安心していたが、前々日の昼休みにOginoさんからとうとう雨予報が付いたとのメールが届き、さすがに私もショックだった。前日、現地に到着したが素晴らしい晴天で、雨予報などとても考えられない感じであった。しかし、サハリンに低気圧が近づくための影響で、登山当日は昼過ぎから崩れるとのこと。
岩稜に取り付くと視界が急に開ける |
最高地点の岩峰で休憩 |
キャンプ地から3.7Km(道道101号からは約8Km)ほど入った林道が今回のルートである。入口にはゲートがあるが、歩いても大した距離ではない。昨日からの晴天はこの日も続いている。早いうちに登って、さっさと下った方が良さそうである。沢地形の中に林道が続き、700〜800mほど進むとポンテシオ湖への取水トンネルの施設が現われる。道路に沿って流れる小川がこれから詰める南西面の直登沢で、水量は思いのほか少ない。地形図上の林道終点で道路は無くなるが、流れの両岸の雑草は既に冬枯れしていてかなり歩きやすい。
眼下に岩尾内湖が見える |
真正面奥に見える渚滑岳 |
そこを過ぎて小休止、回りの話によれば距離的には行程の7〜8割は既に終了しているとのこと。盛夏であれば鬱蒼と繁るイタドリやフキなど、またブヨや蚊、ダニなどにも悩まされ、ヒグマのことも考えれば悲哀漂うところであろうが、冬枯れして見通しも良く、しかも28名とあってはまるでハイキングである。こんな山でこんなに気軽な山行ができるのも、年に一度の“薮山祭り”の大きな楽しさといえるだろう。雨天予報のこの日とあっては、メジャーな天塩岳と比べ入山者の数では完全にこちらが上回っていることだろう。
気付くと暗い雲が山を覆っている。この分だと予報通りに雨が降り出すのは間違いなさそうだ。890m二股からは直接頂上へと突き上げる右股へは行かず、笹薮が覆い被さる左股へとルートを取る。幹事にこそっと聞いてみたところ、山行のクライマックスは趣向を凝らし、岩稜から頂上へと飛び出す感動的なルートを考えているとのこと。さすが藪漕ぎ山行を至当とする道北チームの芸は細かい。沢形が細々と稜線近くまで続くが、やがて根曲がり竹の濃密な藪斜面へと消える。ただし、藪の隙間には空が見えるから稜線はそう遠くはなさそうだ。道北が誇る手強い根曲がり藪も、20数名もの藪ヤが通った跡は薄っすら踏み分けられてしまうからマンパワーとは凄いものだ。
稜線上へ上がると目指す於鬼頭岳の岩峰が笹藪の向うに見えてくる。無雪期の頂上展望も良いことは事前に聞いて知っていたが、参加メンバーには極秘とのこと。しかし、どこから伝わったのか誰もが知っているようだ。岩峰が近づき、見ると先頭グループは既に登っている。無雪期の於鬼頭岳がこんなに賑わうことは今までかつてなかったことだろう。岩峰へ上がると視界はぐんと広がる。高曇り状態の空模様で眼下には旭川方面の平野や岩尾内湖が見えている。まずはホッとした。頂上はやや先で、細い岩稜を伝って行くと狭い頂上は人人人で溢れかえっている様子。順番待ちではないが、最後は少々待たされる。後で聞いたところによれば、この日の最年長参加者・sakag氏に敬意を表し、この日の初登を氏のために取っておいたとのこと。さすが道北チームのやることは心憎い。来年の道央組もさらに頑張らなければならないようだ。
最高地点の岩峰で休憩 |
最高地点の岩峰と三角点の埋まる頂上に分かれての休憩、そうでもしなければ28名もの人々はとても収容しきれないない。冷たい風が吹く頂上であるがガスに覆われた天塩岳を除いては360°の展望をほしいままにしている。天塩岳ならともかく、その左側に見える渚滑岳をも当たり前のように話題に上がっている。この山も決してメジャーな山ではないはずなのだが、メンバーの大半は既に登っており、遠く千葉県から参加のogawaさんまでもが登っていた。さすが山域の濃さでは際立つ薮山愛好家集団である。恒例の記念写真、狭い岩峰に28名全員が集合する。ザックを置いて上がらなければとても乗っかりきらず、ぎゅうぎゅう詰め状態ではあるが見事全員が一枚の写真に納まった。
恒例の行事も無事終了、祭りのあとの翌々日、この時を待っていたかのように今シーズン最初の西高東低の気圧配置となる。札幌の街は湿った雪で一夜にして銀世界へと変った。おかげで重い雪のために我が家のポプラは曲がって電線に引っかかり、かなりヒヤヒヤさせられる。於鬼頭岳もけっこう雪が降り積もったことだろうと思っていたところ、ちょうど一週間後の於鬼頭岳の様子がHYML(北海道山メーリングリスト)のメールで流れてきた。エバさんの「エバ夫妻の山紀行ログ」である。Sakag氏の山行記を参考に登ったそうだが、晩秋の山が冬山へと一変していた。手強かった根曲がり竹も重い雪に沈み込み、登る手法も藪漕ぎからラッセルへと切り替わっていた。「夏将軍」との言葉まで聞かれた記録尽くめの今年の暑い夏であったが、本家本元・冬将軍の足音が今年もすぐそこまで近づいて来たようである。(2010.10.24)
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【参考コースタイム】 林道入口P 6:50 → 林道終点 7:40 → 於鬼頭岳頂上 9:40、〃 発 10:20 → 林道終点 10:55 → 林道入口P 12:05 ( 登り 2時間50分、下り 1時間45分 )
【メンバー】Oginoさん、EIZI@名寄さん、yoshidaさん(旧姓 熊ぷ〜さん)、Sakagさん、高柳さん、Otaさん、mononofuさん、若葉マークさん、nakayamaさん、Kituiさん、クリキさん、スガワラ@北野さん、スガワラ@北野Yuさん、八谷さん、八谷Maさん、ヤマちゃん、yoshioさん、千田卍さん、宮王さん、北山さん、Ogawaさん、fujimoto@低山大好きさん、luckyさん、キンチャヤマイグチさん、numaさん、saijyo、チロロ2さん、チロロ3(旧姓naga)さん ( 28名 )