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      布部(1338m)

松籟山から望む布部岳

    1/25000地形図「布部岳」

1180mコルから布部岳を望む
布部岳への入口「新プリンスホテル」
ゴンドラからリフトを乗り継いで、いざ出発!
富良野西岳の右側のコルを目指して

  布部岳は近そうで遠い山。今までに何度か計画したが、なかなか実現することはなかった。一番オーソドックスなルートとしては北の峰からのものがあるが、できれば尻岸馬内川から行けないものかと取っておいたためである。今回は結局、北の峰から、しかもゴンドラ利用の山行となる。ただし、考えようによっては暑い時期にわざわざ藪漕ぎをしなくても、四季を通じて一番良いこの時期、Tシャツ一枚で雪渓上をスキーで辿る“天上の楽園ツアー”を味わわない手はない。

当初の予定通り、6時に現地入りできればゴンドラ始発の9時までには時間があり、富良野新プリンスホテル前から歩いて登っても時間的には余裕が出てくる。しかし、なんだかんだで現地入りは結局7時となってしまい、下から足で登って行くかどうかは微妙な時間帯となる。日の長さを考えればゴンドラの始発を待っても、余裕で布部岳は落せるだろう。この布部岳、語源の“ヌム・オッ・ペッ(胡桃が多い川)は十勝連峰・南斜面から原始ヶ原を経て空知川へ流れ込む布部川のことであり、この山の名とはあまり関係がない。布部の町から見えるインパクトの強い山ということで、この山名になったと想像するしかないようである。

 係員に呼び止められることは覚悟の上でリフトを降りる。これはスキー場をアプローチとする山では何れも同様で、その辺のスキー場側の事情は十分に理解していた。案の定呼び止められたが、この日は晴天ということもあり、意外にも16時のスキー場終了までには戻って来るようにとの注文のみであった。コース外立入り禁止のロープをくぐり、いざ出発である。いきなり標高1000mの初夏と春山とが同居したような世界へ飛び出し、すぐに北の峰の頂上となる。夏であれば登山道からは少しの藪漕ぎを楽しむところだが、この時期であれば除雪後の雪山程度に過ぎず、のんきに構えていると見落としてしまいそうなピークである。しかし、ワールドカップで有名な北の峰の頂上であることに変わりはない。ここから少し下って西富良野岳と1237mピークとの中間コルを目指す。途中、1124m小ピークは左側を巻くと帰りのためにも効率がよい。

アルペン的山容の芦別岳は存在感抜群である
アルペン的山容の芦別岳は存在感抜群だ 負けず劣らず天を突く、夕張中岳
布部岳頂上部は意外な痩せ尾根 布部岳頂上にて

 コルからは西富良野岳・西面を、できるだけ標高を落とさずに巻こうと考える。だが、雪質によってはエッヂを立てながらの無理なトラバースとなり、20m〜30mほど標高を落としてでも傾斜の緩い斜面を歩いた方が効率的は良さそうである。結局、斜面に拘ったにもかかわらず途中で小沢が入り込み、平坦地へと下る破目になる。ともあれ、概ね少ないアップダウンで1180mコルへ飛び出すことができたと、自画自賛することにしよう。道内屈指のアルペン的山容の芦別岳、負けず劣らず天を突くような夕張中岳、正に夕張山地独特のパノラマが眼前に展開している。

 ここからは地形図を片手に布部岳北側の湖沼のコルへと向う。相変わらずズリズリのトラバースとなるが、少しの辛抱でコンタが広くなった斜面へと抜けられるのは地形図を見る限りでは明らかだ。思い切って標高を落とすことにすると徐々に斜面が緩くなり、無雪期には沼が出現すると思われる凹地となる。この秘沼に映る布部岳はきっと素晴らしいであろうと想像を巡らすが、この絶景に出くわすにはそれ相応の藪漕ぎを覚悟しなければならないだろう。

 頂稜部への登りは結構な急斜面となる。救いは、この陽気で雪が腐っていて、キックステップがしっかりと効くことである。バランスにさえ注意すれば大事はない。頂稜部に飛び出すとイメージとは違った意外な狭さに驚かされる。富良野側から見る山容はずっしりとしているが、実は見かけ倒しの上げ底状態だったということである。この痩せ尾根、雪庇上を歩くことも可能だが、ところによっては下部が解けてなくなってしまっているところもある。ここは見極めが大事で、とりあえずは最悪でも潅木にぶら下がることを覚悟で、しっかりと木々に掴まりながら雪庇上を進む。

 いよいよ頂上であるが、辺りはどこも同じような感じで、頂稜部=頂上と言っても決して間違ってはいない。我々は1338m標高点を頂上と決めるが、厳密に最高地点といえる場所を特定することは難しい。予めGPSに入れておいた標高点の緯度経度を確認、頂上到着とする。高度感が素晴らしく、雪渓を頂いた大雪方面の山々もくっきりと見える。何と言っても圧巻は、やはり芦別岳を中心とする夕張山系の山々だ。明日登る予定の松籟山や御茶々岳も見えるには見えるが、この布部岳より低いとあってはやはり脇役といった感じにしか映らない。だが、山は高さだけではない。心してかからなければ今日同様の壮快感を味わうことは難しいだろう。そんなことがつい脳裏に浮かんでしまう布部岳の頂上であった。(2009.5.4)

以前の清酒「男山」ラベル 1180mコルから見た富良野西岳

【清酒「男山」の旧ラベルは裏から見た富良野西岳】

 道産子であれば少なからず目にしていた清酒「男山」のラベルであるが、私がまだ子供であった時代(40年くらい前)には荒々しい山の図柄(写真参照)で、いったいどこの山を描いたものなのか、ついつい気になっていた。大人になって山への結び付きが強くなってからは、日光の男体山や雄阿寒岳など“男”が山名につく山を想像していたが、旭川の酒造メーカーでもあり、きっと地元大雪山・旭岳のデフォルメであろうというところに落ち着いていた。今回びっくりしたのは布部岳への途中、1180mコル付近から振り返った富良野西岳の山容だ。まるで以前の「男山」のラベルそのものだった。角度といい右上がりの形といい、さらに手前の尾根を雲になぞらえたと考えれば、このアングルからの作成と断定しても、おそらく間違ってはいないだろう。当時のラベルをデザインした社員はきっと山をやる人間であり、この角度から西富良野岳を見て、荒々しい、だが、包容力のあるすっきりとした山容に、この清酒のイメージをオーバーラップさせていたのではないかとついつい考えてしまった。あくまで私の想像ではある。

「一人歩きの北海道山紀行」sakagさんの山行記

    

【参考コースタイム】ゴンドラP 9:00 リフト終点 10:30 → 1180mコル 10:40 → 布部岳頂上 12:05、〃発 12:15 リフト終点 14:40 ゴンドラP 15:20

(登り 3時間5分、下り 3時間5分)※ゴンドラ、リフト、休憩時間、すべて含む

メンバー】sakag氏、Hori氏、saijyo、チロロ2

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