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   ヌモトル(612.8m) ・・・若い二人の女性が酒を飲み交わし騒ぐ山?

目指すヌモトル山は雨雲の中

1/25000地形図「貫気別山」   

林道ゲート前に車を停める
林道から籔斜面に突入する
昼でも暗い針葉樹林帯の中
心霊写真を期待したが、Ko玉氏以外は写っていなかった
尾根上に出ると明るさが戻ってくる
尾根の左側は崖斜面となっていた

八月と言えば怪談話が定番であるが、以前からWeb上で心霊スポットとなっている日高町のヌモトル山へ行ってみた。この話だが、あるはずのない薮山山中に“幻の家”が現われ、そこの座敷では若い二人の女性が酒を飲み交わし騒いでいるとのこと。酒の匂いまで漂ってくるらしい。近づこうと思ってもどうしてか近づけず、気が付けば崖っぷちに追い込まれていたというものだ。我々「地図がガイドチーム」は決して中高年探検隊ではないが、我々のフィールドである薮山が心霊スポットとなっているのは珍しく、一度行ってどんな山なのかを自分の目で確かめてみたいと思っていた。日高全山完登を間近に控えたKo玉氏はヒグマに対しては決して恐れることのない強い男であるが、反面、幽霊や心霊現象系に対してはめっぽう弱いようである。我々との間に利害が微妙に一致、この日のヌモトル山行となった。

日本海を進んできた低気圧がサハリンを通過、それに伴う寒冷前線の影響で朝からの霧雨、ヌモトル山の林道入口に到着する頃には本降りとなり怪談話には格好の舞台が整った。ただし、途中、2003年の豪雨で甚大な被害をもたらした厚別川は茶色の濁流となっており、さらなる天候の崩れも予想されるため、あまりゆっくりとはしていられない。

林道入口にはゲートがあり、ここからのスタートとなる。ゲートから300mほど進むと分岐となっている。一般的には右側のヌモトル山北側の麓を大きく巻いて最後は西側から小沢を詰めるようだが、この雨ではそんな余裕もなく、できるだけ林道入口に近い沢を詰めて、さっさと登ってさっさと下山することで考える。林道分岐には「七沢越」と書かれた古い標識があり、こんなところにもこの山が心霊スポットとなった気味悪さが感じられる。我々は左側の東面を巻く林道へ入って一番頂上が近い沢から登ることにした。最初の沢は伏流となっているのか枯沢で、まだまだ頂上へは距離がある。やるのであれば次の沢、最後は籔漕ぎとなってもせいぜい200m程度である。ところが、尾根を見ていると笹は背が低く、膝くらいまでしかないようである。辺りは針葉樹林帯となっていて、かなり鬱蒼としている。であれば下草はさらに薄いだろう。結局、沢へは行かず、尾根から籔漕ぎで頂上を目指すことにする。

途中から針葉樹林帯に突入するが、何とも暗く、肝試しでもやっているのではないかと思うような不気味さである。どのくらい暗いのかといえば、ヘッドランプを点けなければ地形図が全く見えないほどで、午前中にもかかわらず夕闇迫る薄暗さだ。おかげで下草はさらに薄く、考えようによっては快適ということになるのかもしれない。また、こんな日でも雨に当たらぬのが良い。急傾斜を地下足袋のスパイクを効かせて登って行く。途中、かなり古そうな草生した集材路跡を利用するが、この集材路跡も見ようによってはかなり不気味に映る。場所が場所だけに、さすがに気持が引いてしまっているというのが正直なところだ。

急斜面を登りきると尾根上へと飛び出した。どっぷりと深い霧の中ではあるが、明るさは取り戻す。籔は背の低い笹(おそらくミヤコザサ)で、薄っすらシカ道も続いている。豪雪地帯では根曲がり竹が冬期間の間、分厚い積雪に守られてしっかり成長できるとKo玉氏の説明、確かに豪雪地帯(日本海側)の籔漕ぎは尋常ではない。その点、日高西部の低山ではどこも背の少し高い草原を歩いている程度である。この山も同様の笹に覆われているようだが、気候的にもこの種のものが生育しやすい環境なのだろう。沢を上がることを考えれば遥かに尾根筋の方が快適で、我々の尾根を使う選択に間違いはなかったようである。

ヌモトル山頂上に無事到着 二等三角点「奴牟取山」

途中、何ヶ所かで集材路跡と交差し、尾根に沿って続いているところではこれを利用するが、雑草が生い茂った集材路跡よりは尾根上をそのまま進んだ方が歩きやすい。尾根上のシカ道を辿っていてふと気が付いたが、左側はスッパリと切れていて、ガスでよく見えないがかなりの崖斜面となっている。雪庇のように下がえぐれていては危険であるため、シカ道を逸らして右側の笹薮へと逃げる。怪談話の中で“幻の家”に惑わされ、引きずられて行って我に帰った場所とはこんなところかもしれない。頂上までわずかのところで集材路跡が横切っている。そこを横断、最後の急斜面を登りきると細い頂上の稜線となる。稜線上の少し高いところが頂上で、数メートル先に三角点を確認する。ガスがかかって良く見えないが、まわりの樹林帯を考えればこの山の頂上からの展望はあまり期待できそうにない。生暖かい強風も吹いていて、心霊スポットと騒がれるこの山としてはおあつらえ向きの雰囲気である。不気味さを感じないといえば嘘になるが、結果的には何もなく、いつもと変らぬ頂上到着であった。

 怪談話の起こった経緯を想像してみると、この山には古い集材路が巡らされており、昔から林業関係者やシカ撃ちのハンターなどの出入りが多かったと想像される。特に山中に泊って作業を行っていた男たちの間では、美しい二人の女性が酒盛りしている姿はある意味憧れで、男ばかりの酒盛りの席では頻繁に話題となっていたのだろう。当然、この山の地形を知り尽くしているであろうから崖の存在も周知のところであり、それらがいろいろ結びついていったのではないだろうかと推測する。それが巡り巡って現代では怪談話として伝わっているように思う。今現在、こんな草木しか繁っていない山中に普通の家というのは何ともアンバランスで恐怖心を駆り立てられるが、一昔前(昭和30年〜40年頃)であれば、逆に現在よりも開かれていた地域が多く、この付近にも飯場や開拓農家等の建物が建っていたとしてもなんら不思議ではない。もちろん、お化けが好みそうな古い廃屋もこの山の山麓のどこかに存在していたのであろう。今回我々が登ったルートはほんの一部分であり全部を見てきたわけではない。一部分しか見ていない私としては、決して心霊話を全面否定するつもりはないし出来るものでもない。夢のない現代、ひょっとしたらそんなことがあってもよいのではないだろうか … むしろ、そんな思いを強くする霊場“ヌモトル山”であった。(2010.8.1)

参考コースタイ七沢越林道入口8:55 → ヌモトル山頂上 10:15 、〃 10:25 → 七沢越林道入口 11:25 ( 登り 1時間20分、下り 1時間 )

メンバーKo玉氏、saijyo、チロロ2

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