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      貫気別(1317.9m)

/25000地形図「貫気別山」

台風被害で広くなった入渓地点付近 608m二股までは明るい沢

十数年ぶりで貫気別山を訪れる。当時、貫気別川・林道入口付近の農家に林道を聞きに立寄った折、母親の足許で「おじさん、うちのデントコーン畑にはクマさんが遊びに来るんだよ」との幼児の言葉に、その夜のテントの中ではまんじりともしない一夜を過ごした記憶がある。もちろんテントの入口と車のドアは直結していた。貫気別山を主峰とするこの山域は日高の主稜線とは離れた位置に在り、1000mを越えるリビラ山、ピウ岳とともに独特の山塊を形成している。特にこの貫気別山は特徴的で、西面三方には100mを越える岩壁をまとい、正に天然の要塞といった様相である。アイヌ語に詳しい中標津・すがわら氏によると、山名「ヌキベツ」とは「ヌプキ」が“水が濁る”の意で、濁った川とのことある。前回はドーム状・岩峰の南側からのアタックであったが、登れぬ滝に四苦八苦し、一緒に行ったI氏の確保で何とか難所を突破している。今回はさらに厳しそうな北面直登沢からの再チャレンジである。

核心部のV字渓谷
滝を登るOta氏(流木上部)

3年前の台風18号における厚別(アッペツ)川氾濫による被害は記憶に新しいが、この山塊はその水源に位置する。以前の面影を所どころに残すが、相次ぐ台風による大雨被害で、林道沿線の豊かだった森林はバリカンで刈ったような無味な広い河原へと変わってしまった。それでも周辺は森林資源が豊富なのか、新しい林道が現在も整備されているようである。左岸に付いていたはずの林道が右岸に付いていたりしていて、一瞬戸惑う感じだが、無事に目的の入渓地点までは車を乗り入れることができた。以前の地形図にはこの林道は載っていなかったため、当時はすばらしい発見をした思いであったのを覚えている。

入渓地点の出合から608m標高点・二股までの鬱蒼とした感じはなくなり、明るく見通しが良くなった気がする。今回は参加メンバーのOta氏から一番厳しそうな沢を・・・との提案があり、コンタ950m付近で対岸のコンタと崖がくっ付いている頂上北面へ向う沢を選択する。水量はかなり少なく、すぐにも枯れそうだ。コンタ780m付近で、左側が水流豊富な15mくらいの滝が現れ、ここまでは伏流であったことが判る。順相の滝で、登れば楽しそうであるが、予定のルートは水流の少ない右股である。

我々は水量の少ない右股へ
780m二股の滝は快適そうな感じ
850m左股はこの水流の上

コンタ850m付近は小さな函となっていて、右岸側から3〜4mのトヨ状の流れとなっている。後で考えればこの上部に目指す沢が続いていた。ただし、ここは磨かれたスラブ状となっていて、知っていても登れない。この時正しいと思われた右股は枯れていて、正面上部には一枚岩が行く手を塞いでいる。一枚岩手前から左側の枯沢へルートを取る。枯れた小滝跡が続き、微妙な箇所も数ヶ所乗り越える。途中、小尾根を乗越して一枚岩上部へ戻ろうと試みるが、沢形は無く、ただの斜面のみとなっている。不可解な気持で登って行くと、正面頭上にドーム岩壁が現れ、何となく違っていることに気付く。左側の小尾根に偵察に行ってみたところ、深い小沢があり、その先は四段・40〜50mのルンゼ状の滝となっていて、上部は岩壁へと消えている。いずれにしてもこれ以上先へは進めず、この小沢から下方に見える明瞭なシカ道をつないで、一番容易と思われる沢へトラバース、再チャレンジという結論となる。

50mほど下ると水流のある沢に飛び出し唖然とさせられる。上流は深く切れ落ちたX字渓谷となっていて、正しく探し求めた核心部直下にいるようである。ここが予定の沢であることは誰もが見た瞬間に理解する。行く手には樹木が逆さになって吊り下がる滝(10〜12m)が見えるが、その様相には誰もが圧倒される。ここを登れなければ先ほどのシカ道へと思いつつ、怖いもの見たさで滝に近づくと、意外にも何とかなりそうである。手前のハングした岩からは水が流れ落ち、この暑い日には清涼感たっぷりで気持が良い。奥のチムニー状のルートは下部が階段状、中間部より上は樹木が利用できそうである。ただし上部では不安定そうな泥付きとなっていて嫌らしそうだ。意欲満々のOta氏、抜群の安定感で登って行樹木に頼ることなく簡単にクリアーである。しかし、スパイク派は難儀する。よく、冬場に全面スパイクの靴でコンビニなどに入って行き、床が濡れていたりすると簡単に転ぶことがある。スパイク底の弱点は凹凸のない面では逆にスケート靴状態となるところであろう。トップロープであっても、下部の磨かれた岩上での足元には微妙なものがある。その点、フェルト底のフリクションは素晴らしい。

貫気別山頂上に到着 貫気別山一等三角点
帰路、踏跡から見る貫気別山頂上 特徴的な貫気別山の岩壁とリビラ山(奥)

核心部の滝を越えても、スパイク派には試練の連続である。フリーで辛うじて続く滝も抜けるが、狭く沢形がしっかりしとした沢底では岩も磨かれていてひやひやものである。小滝といえども侮れない状況が続く。コンタ1100m付近でようやく水流が切れて一息つく。ここからはスパイク底の本領発揮である。結論的にはここで真っ直ぐに稜線を目指せば良かったのだが、我々は頂上を目指して薮へ突入する。薮は中程度の根曲がり竹であるが、単純に体力勝負であり、やはり靴底に関係なく年功序列の順に遅れて行く。夏も本番となったためか、ダニがいないのは何よりである。コンタ1280m付近で西に伸びる稜線へ飛び出すが、薮中にはピンクテープも見られ、意外に登られているような印象を受ける。低い薮を少し漕ぐと明瞭な踏跡が現れ、久々の貫気別山頂上に到着である。一等三角点を中心に薮が刈られ、藪山としては“整備”されている。以前同様、ガス模様で視界はよくないが、双耳峰となっているリビラ山が雲間から姿を現しているのを確認することができる。

下りはどこへ下るか判らない“ミステリー登山道”である。藪山派の選択肢は何でもありで、臨機応変というか成り行きまかせというか、日暮れまでには下山できれば何でもよい。一番易しい沢からの下りを目論んで稜線を辿ると、明瞭な踏跡が延々と続いている。十年以上前にもこの踏跡はあったが、手入れなしでは存続しえないはずである。きっと、ここ1〜2年の間に、測量の関係か何かで刈り分けされたのだろう。ひょっとしたら何処かの集材路につながっているのではないかとの期待もあり、どんどん進んで行く。反対方向へ続くようであれば、すかさず薮へ突入して車を目指すつもりでいたが、どうしてどうして、我々が期待する方向へと向って行くではないか。ただし、標高を下げる毎に刈り分けされた根曲がり竹は荒くなって行き、おそらく集材路との合流点付近では跡形もないように思われる。東大雪・西クマネシリ岳にも以前の明瞭な登山道が残っていて、登山ブームの前だったためか登山者はなく、標高を落とした時点で藪の中に消えてしまった記憶がある。地元が本腰を入れて、この山に登山道をと考えれば簡単に夏道は付くかもしれないが、見たところではお花畑も無く、一般登山者へのアピール度は低いかもしれない。938m標高点を過ぎたあたりからシカ道にルートを切り替え、車の停まっている方向へ下る尾根にルートをとる。途中、古い集材路が現れるが、鬱蒼としていて薮漕ぎ状態である。最後は車を停めた地点から続くブル道に入り、ぴったり車の横に飛び出す。

 貫気別山の面白さは未知であることも大きな要素であるが、何と言っても天然の要塞を思わせる山容に尽きる。北側は樹木が生い茂り、完璧な岩壁とは言えないまでも、総じて岩壁であり、とても木々を伝って攀じ登るルートなどは考えられない。林道がしっかりとしているためアプローチが容易であり、頂上へ至る沢はどれも変化があって面白い。今回のルートは「北海道の山と谷」(北海道撮影社刊)に載っていればくらいの感じであるが、難易度というよりはルート自体が短いためである。ただし、日帰り山行ということでは手頃であり、今後はネット情報その他から、登山者も増えて行くことだろう。(2006.7.30)

 参考コースタイム】 林道・駐車地点 9:00 → 770m二股 9:55 → 核心部入口 10:55 → 貫気別山頂上 12:45、〃発 13:30 → 踏跡を辿る →  林道・駐車地点 15:40

メンバー】Ko玉氏、Ota氏、キンチャヤマイグチさん、saijyo、チロロ3(旧姓naga)

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