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 西別岳(799.5m)摩周岳(857m)

 

   

リスケ山から望む摩周岳

/25000地形図「摩周湖南部」

登山口から約300m離れたところに臨時の駐車場が設けられていた
何処ががまんなのか判らない「がまん坂」 まるで「アルプスの少女ハイジ」の世界だ
黄色の花と蝶 こんな光景が我々を癒してくれる
リスケ山は頂上らしい頂上 初めて目指す摩周岳が現れる

  布施明「霧の摩周湖」でその名を不動のものとした摩周湖、言わずと知れた北海道が誇るトップクラスの観光ゾーンである。透明度世界一のバッケンレコードを持つこの湖だが、現在はかつて程の透明度はないらしい。その吸い込まれるような湖面もさることながら、この湖の場合は湖と山とが織り成すその景観が素晴らしい。もし、この湖に摩周岳(カムイヌプリ)が無かったとしたなら、このような調和のとれた光景は見られなかっただろう。真っ青な湖面に落とす摩周岳の急斜面と火口壁の険しさは、湖全体をより神秘的なものとし、景観の中では間違いなくスパイス的な効果をもたらしている。神秘的な湖と険しい山、両方が合わさって「摩周湖」なのだと思う。一方、隣の西別岳だが、こちらは正反対で、牧場の中の山といった和やかな雰囲気を感じさせる。酪農地帯に隣接しているイメージのためかもしれないが、山容自体が穏やかで、見ている者にとってもどこか安心感を感じさせる。今回はこの対照的な両山に登り、道東らしさを満喫しようという計画である。

摩周岳から望む西別岳 (右端が頂上)

  効率の良さを考えて、西別岳から摩周岳を目指すことにする。ところが、西別岳の登山口に着いて、車を停める場所がないのには困ってしまった。この日はヘリで山に資材を運ぶため、駐車場を含めその周辺は全て“駐車禁止”であった。よくよく探したところ、300mほど離れたところに臨時の小さな駐車スペースが設けられていた。しかし、なぜ山に資材を運ぶ必要があるのか… 後で判ったが、環境省の登山道整備事業のためで、手頃な石ころを山の上まで運び上げ、登山道の急なところに中間点を作っているらしい。何とも驚く話であるが、付近の山々の登山道を年度ごとに一山一山整備しているとのこと。ここまで行う必要があるのかどうかは疑問に感じるところだが、入山者が多い山ともなれば、これも一つの方法なのかもしれない。

 おかげかどうか、西別岳の登山道には所々に土のうが置かれ、楽かどうかと問われれば確かに楽である。まるで放牧地の中の歩道でも歩いているかのような緩い登山道となっている。だが、なぜか「がまん坂」という名が付けられている。登山なのだからこの程度は当然で、これが“がまん”なのであれば最初から登山などしない方が良い。空は晴天、まるで緑の牧草地に続くような登山道は気持ち良く、気が付けば標高は上り、背後には樹海が大きく広がっている。特に標津山地との間は完璧に樹海で埋まっており、道東ならではの自然の豊かさと言える。小さな樹林帯を過ぎると第一お花畑、名は判らないが黄色い花が目立っている程度。続いて第二お花畑、先月江差・笹山で目立っていたウツボグサもここでは混じって咲いていた。いずれにしても花の最盛期は過ぎてしまったようだ。程なくリスケ山分岐となる。とりあえずはこのピークも寄って行くことにする。わずか50m程であり、寄らない手はない。西別岳を形成するもう一方のピークであるリスケ山、頂上は狭く、いかにも山の頂といった雰囲気である。展望も本峰と負けず劣らずで、登山開始からのアルバイトを考えれば十分過ぎるご褒美と言える。

西別岳頂上までひと登り 西別岳頂上は360°の展望が楽しめる
良く見ると、実に深い緑の中である
突然現れた「柴犬さくら」 私もチロロ2さんも足の速い登山者だと思っていた

 西別岳までは目立った登りもなく、天上の散歩道といった感じである。第三お花畑にも目立った花はないが、最盛期であればきっと素晴らしいお花畑へと変わっていることだろう。距離がありそうに感じた西別岳も意外と短時間で難なく到着する。頂上標識の裏側でほっと一息入れていたところ、小さなハエが群がってきて、払っているだけでも四苦八苦、とても休める雰囲気でなかった。ところが、標識の表側に立ったところ風上のせいか、全く小バエは寄ってこなかった。冬期の寒風もそうだが、位置を考えて休むのも山の知恵と言えるのかもしれない。西別岳頂上の展望は言うこと無しの大パノラマである。写真では決して伝わってこない3Dとでも表現すればぴったりの見事な景観だ。

 いよいよ摩周岳だが、ここから見える摩周岳は何とも遠い。しかし、西別岳からは緩い下りが続くためか、1時間で第一展望台からの分岐となる。展望台までは5.6kmもあるそうだが、アップダウンが少ないこともあって、こちらのコースはそう大変ではないようだ。分岐から摩周岳へと向かっていると、後からクマ避け鈴の音が聞こえてきた。朝一番の登山者がそろそろ到着の時間帯かと思った。それにしても元気の良い登山者だなぁと思った。あまりの元気の良さに私も思わず引いてしまいそうな思いである。少し後を歩くチロロ2さんのところへ戻ってみると、何と白いワンコだった。チロロ2さんはあまりの速さに避けて道を譲ったそうだが、その相手が可愛いワンコで二度びっくりだったとのこと。名は「さくら」、パパの名を聞くのを忘れてしまったが、パパと日本中を旅する冬場のみ大阪在住の登山犬である。Blog柴犬さくらの旅日記」に登場するさくらはどこかユーモラスで、全国どこへ行っても人気者のようだ。まったく利口なワンコで、この日もしっかりパパを支えての摩周岳登山だったようである。オス犬は総じてヤクザだが、メス犬はやはり回りに対しての労わりがある。このあたりは人間も同様なのかもしれない。

  いよいよ頂上への登りとなる。後から何やら若い衆がヘルメットを被ってやって来た。山とヘルメットとなれば普通は沢ヤだが、よく見れば持っている装備もちょっと違うようだ。どちらかと言えばワークショップでいつも見かける道具、秀岳荘のプレミアものではない。しかし、藪ヤとも違う。話を聞いたところ、前述の環境省の作業へとこれから向かうらしい。強いかと言えばそうでもないようで、秘密の林道を使って車で上ってきたとのこと。最後の詰めではかなり喘いでいる様子。作業ともなるときっと腕っぷしを利かせる男達の逞しい姿があるのだろう。抜きつ抜かれつ頂上到着となる。もちろん「さくら」もやって来る。神秘の秘境「摩周岳頂上」のはずだったが、意外や意外、神秘性のかけらもなく、ヘリも上空を旋回する騒然とした現場と化す。ヘルメットの男達より若そうな一見生真面目そうな現場の監督が、我々に次にヘリが到着するまでに全員退去せよとの指示。「さくら」の記念撮影もままならず、登山者一同早々の下山開始となる。

摩周岳頂上には作業員が続々と登ってくる 摩周岳頂上に石を下ろすヘリ
被災地にはこのスタイルで慰問に

柴犬さくらの旅日記

  頂上から少し下ったビュースポットでさくらとパパ、そして私達の4人でヘリの作業を見ていたが、石を運ぶヘリの姿は何とも奇妙なものに映った。登山道の石は現場で調達するものと考えていたからである。頂上直下の下山途中、後続の登山者が登ってきた。チロロ2さんは立ち入れないと教えたらどうかと言っていたが、私は教えるべきではないと答えた。見た限りではそんなに神経質になるほどの危険性は感じないし、第一ここまで登ってきて、頂上手前で引き返すよう忠告することは、あまりに酷である。要は、ヘリのいないタイミングで登頂すれば良いだけの話である。

 帰路、チロロ2はさくら共々第一展望台へと下ることにする。私は車の回収があるので西別岳へと戻らなければならない。分岐でさくらとツーショットで記念撮影、心の中で、いずれどこかでまた!それまで元気でな…と祈りつつ、西別岳の方向へと向かう。下山後、地元の登山者とここのルートの話となったが、下りの西別岳の登りでは皆無口になるらしい。実際、西別岳を登り返して下山して来たが、確かに下山にも関わらずまた登り返さなければならないという辛さは、精神的な負荷となる。下山後、車のエンジンをかけてチロロ2さんに電話を入れたところ、展望台から約1kmの地点を歩いているとのこと。もちろん、こちらは一人ともなれば休憩はないし、思わず早足ともなる。そんな要素はあるが、それを差し引いても、摩周岳は西別岳を経由した方が速いし、充実感も味わえる。神秘性には欠けてしまったが、さくらとの出会いなど、思い出深い一日となった。(2013.8.20)

参考コースタイム】 西別岳登山640 西別岳頂上 8:15 摩周岳・西別岳分岐 9:15 摩周岳頂上 9:55、〃 発 10:00 → 頂上下のビュースポットで30分休憩 → 摩周岳・西別岳分岐 11:20 →  西別岳頂上 11:55 →  西別岳登山1235 (登り 3時間15分、下り 2時間 5分)

メンバーsaijyo、チロロ2

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