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      ノ岳(1519m)

久々に見る中ノ岳の頂上(右側)

久々に見る中ノ岳の頂上

1/25000地形図「神威岳」「ピリガイ山」

出発地点の神威山荘は登山者で賑わう 沢の中では随所に見られる“ミヤマキスミレ”
中ノ岳へ向って直ぐに現れるゴルジュ。分岐からの巻き道もある 稜線へ上がると“エゾツツジ”の可憐な姿も見られる

  中ノ岳は日高山脈の主稜線上にあるメジャーな山であるが、北のペテガリ岳や南の神威岳ほど有名ではなく、日高の中では第二グループの山と言えるかもしれない。上級者であれば中ノ川からの困難な遡行なども面白いのかもしれないが、私のレベルでは一番ポピュラーなニシュオマナイ川からのルートが妥当なところである。この山は三度目である。最初に入った時の思い出が一番強烈だった。えりも岬〜宗谷岬との稜線繋ぎに燃えるI氏に付き合っての山行計画であったが、中ノ岳〜神威岳間の主稜線の藪漕ぎトレースで、途中1493m峰(通称ニシュオマナイ岳)の肩に一泊し、7時間半で神威岳に到達している。当時の様子としては、標高のあるところではわりと踏跡が明瞭であるが、標高を落とすと背丈以上のハイマツや潅木に四苦八苦した記憶がある。特に神威岳手前のコル付近の藪漕ぎが強烈であったが、今もさほど変わりはないと思われる。やっとのことで飛び出した神威岳登山道に取り付けられていた「中ノ岳へ」と書かれた標識が妙におかしかったのを覚えている。

記憶にはなかったが小滝も現れ、楽しい遡行となる

594m二股からはガレ場も現れる

  天候は晴れの予報であるが、稜線はガスがかかって見えない。以前の山行では見ている景色でもあり、今日のところは雨がないだけよしとする。860m二股までは先行するT山岳会パーティの後を追う形である。彼らは実力者揃いの屈強なパーティであり、滑滝の連続する左股へ向うが、我々はガレた一般ルートである右側へ入る。以前に最終崩壊地の左側の踏跡を下った記憶から、この踏跡を探したが、それらしき崩壊地も踏跡も全然見つからない。今回は三度目ということで、気持的にはかなりの余裕があり、つい油断してしまったことは否めない。結局、崩壊地もないまま、ガレから藪漕ぎとなり、最後はシカ道を辿って稜線上に飛び出す。飛び出したところは1372m標高点のある岩峰の南側であり、970m二股で間違えたようである。

  日高側にスパッと切れ落ちたこの岩峰、過去に通過したという事実がなければ、引き返しを考えるほどの急峻さである。前回の記録ではこの岩峰の基部の踏跡を辿ったとのこと。全然記憶がないから、記憶というものは全くあてにならないものである。岩峰上には忠実に踏跡が続いていて、潅木にさえ摑まっていれば全く危険はない。この付近は狭いだけに踏跡も判りやすく、意外に簡単にコンタ1330mのコルへ抜ける。

  頂上が近づくと踏跡も明瞭である。頂上手前のコンタ1440mコブ付近の凹地は良いテン場であるが、ヒグマの楽園とも何かで読んだことがある。前回はここに泊まり、頂上へはご来光を見に登っている。コブからはコル付近の踏跡に一部被ったところはあるが、頂上までは概ね明瞭である。登って行くと山頂部は左側のコブの方が若干高く見えるが、実際1〜2mは高いような気がする。頂上には色褪せたピンクテープと折れたストックが置かれているが、このストックは十数年前に置かれていたものとは違うものであろう。端正な美しいペテガリ岳の山容を楽しみにしていたが、今回は残念ながら何も見ることができなかった。

左股は見かけよりは厳しい
1372m標高点岩峰は険しそうだが、踏み跡はしっかりしている

  下りは扇形に広がる南西面にどうルート取りするかであるが、できるだけ左寄りの下降が無難なようだ。岩峰基部付近の少し手前から下り始める。下降中、背丈の低いハイマツ帯が見え、潅木も少なく歩きやすそうな若干右寄りの尾根を選ぶ。最初は下りやすそうであったが、これが今回最大の失敗であった。尾根上を下って行くうちに潅木が増えてきたため、何となく左側に平行する小沢へ入り込むが、そのうち傾斜が増してくる。さらに下って行くと沢中の狭い視界の向うに見える対岸の斜面が妙に遠い。どうやら左股へ落ち込むルンゼ状の枝沢へ入ったようである。小滝を下った先には予測通りの滝が現れ、懸垂で下る。持ってきたロープは8mm・30m一本で15m下って目一杯である。一つ目の滝はその「目一杯」で、ロープの先端は地に付いていない。次の滝は最初ほどの落差はなさそうであるが、しっかりした支点を取るのは難しい。その先に見える三つ目の滝の高度感はとても一つ目、二つ目の比ではなさそうだ。振り返ると一つ目の滝の登り返しは滑状で手掛かりも少なく、フリーで登り返すにはかなりいやらしい感じである。両岸が立った狭いルンゼ状の中では巻くことも出来ず、最初の滝を降りきった後続にザイルの回収はしないよう慌ててストップをかける。

迷い込んだ小沢。この先からは滝の連続となる。
中ノ岳頂上に到着! 迷い込んだ小沢。この先からは滝の連続となる。

  結局、一本目の滝をプルージックで確保を取り、登り返すことにする。トップロープだから登れるが、予測通り磨かれた岩壁には所々に手掛かりがあるくらいで、その間隔もけっこうある。滝下でロープを回収していたらどうなっていたやら…考えただけでも背筋が寒くなる。三つ目の落差のありそうな滝では、最悪の場合はハーケンで支点を作り、ロープをシングルで使って下降していたかもしれない。しかし、その先はノンザイルであり、次に打つ手は全くなしである。日高の沢では忠実に往路を下るか、でなければロープは少なくても50m以上は用意しなければならないようである。この付近の地形は地形図からは読み取れないものがある。

  スパイク地下足袋に履き替えて、最初の滝の下降点からさらに小滝を一つ登り返してから左岸へ取り付く。いつもであれば、水流が消えた時点でスパイク地下足袋に履き替えるのが常であったが、この日に限っては、つい億劫で全く何も考えずに行動していた。スパイク地下足袋はがっちり斜面を掴み、難なく藪斜面をトラバースすることができた。この場合、斜めに生える笹のトラバースはフェルト底ではかなり厳しいかもしれない。尾根を二つ乗り越えるとガレ場が見え、何とか往路に戻ったようである。距離にしてわずか数百メートル程度の狭いエリア内であるが、ちょっとしたルートの違いで大きく明暗が分かれる。ガレ場を少し下った先はT山岳会パーティと分かれた左股との出合であった。(2005.7.17)  

参考コースタイム】神威山荘P 6:30 → 549m二股 8:30 → 主稜線(1372m標高点の南側) 10:25 → 中ノ岳頂上 12:05、〃発 12:30 → 860m二股 15:10 → 神威山荘P 17:05 

メンバーsaijyo、チロロ2

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