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      無類岩山(1613.4m) 

人里離れた奥深き峰である無類岩山

奥深い無類岩山

    1/25000地形図「支湧別岳」「武利岳」

コンタ1100m付近から雪も現れる
1280m二股で休憩
前の晩、流れで冷やすビールの数も凄い
ホロカ林道終点に集結、いよいよ登山の開始である
流れは細く、長靴でも十分だ

岩山の名は多いが、並ぶものがない岩山となればこの無類岩山(むるいいわやま/大正5年点の記)くらいであろう。そういったイメージをかねがねから持っていたが、入ってくる情報では意外におとなしい山容の山とのことであった。そもそも無類は、アイヌ語の武利の語源“ムリイ”(いらくさの群生;sakag氏のHPから引用)と思われ、比較的岩がゴツゴツと見えるどこかある場所からの印象としての岩山とくっ付けて、こんな凄そうな山名になったと思われる。私の考えを言わせてもらえば、そもそもは武利の岩山だったのではないだろうか。そんなたわいないことを考えるのも山の楽しみ方のひとつである。

秋のこの時期、ネットを通して知合った藪山仲間が集う、題して「薮山まつり」は今年で7年目を迎える。今年は過去最高の総勢29名が、普段のこの時期であれば登山者もなく閑散となった武利岳登山口近くの河原に集った。遠く東京や千葉県からの参加もあり、飲めや歌えやの交流が深夜まで続く。それぞれの人生をそれぞれ違った実社会で過ごしている参加メンバーだが、同じ時代を生き、山へ登ってきたという共通点だけで人と人との垣根など簡単に取り払ってしまうものである。満天の星の下、夜遅くまで盛り上がったことはいうまでもない。この日は折りしもオリオン座流星群が観測される日と重なって、夜空を見上げれば必ずといってもよいほど流星が見られる。一年に一度のこの日の集いに華を添える格好である。

にわかに出現したテント村の朝は早い。雲ひとつ見られない快晴の朝、無類岩山への出発準備で賑わい出す。予定の7時30分にはすべての準備が完了、恒例の記念撮影終了後、すぐに出発となる。さすがにこの会に参加するメンバーは山慣れしていて、大人数にも関わらず号令など全く無用といった様子である。山行への参加は27名、車の台数もかなりにのぼる。これが一気に出口に近いホロカ林道へと逆移動するのだから、仮に武利岳登山道を目指す車がいたとしたなら何事かと思ったに違いない。

アプローチとなる十四ノ沢沿いのホロカ林道は約1.8kmで終点広場となるが、ここまで入れればまずまずである。狭い駐車スペースもそれぞれが他の車のことも考えて行動しているのか、意外にすんなりとすべての車が納まる。いよいよ無類岩山へ向けて隊列の出発である。まずは、広場から左岸側の古い林道跡へと急斜面を上がる。林道跡にはハンノキが繁っており、使用されなくなって久しい感じである。途中、何ヶ所か道路が崩れていて、谷底をのぞき込むとかなりの高度感を感じるが、進路はシカ道と思われる踏み跡がしっかりと続いていて、まるで登山道を歩いているかのような感覚でコンタ940m二股へと到着する。隊列の後の方を歩く私にとって、20名以上の先導者がいる状況では被っていた藪もしっかりと踏み込まれてしまったのかもしれない。パワフルなクリキ氏が27名の先頭に立ち、最後尾には工事現場?の総責任者といった風貌を持つE氏の黄色いヘルメットが見られる。前後がしっかりと固められた、かなり贅沢なパーティである。隊列の中の一人としてはガイドツアーにでも参加しているようで、妙な新鮮ささえ感じる。いや、これは遠くありし日の登山遠足の再現といえるのかもしれない。コンタ940m二股で道が途絶えて入渓となるが、すでに上流部の流れとなっていて、こんな水量では長靴でも十分に遡行が可能である。

正面には見事な山容の武利岳が現れる
無類岩山最高地点から見る三角点頂上(後方は支湧別岳)

薄い藪が両岸から被る平凡な小沢がしばらく続く。途中、1〜2mくらいの滝といえば滝といえるが、単なる段差といえばそんな感じのところが一ヶ所、それ以外に目立った変化は何もない。この沢に一度にこんな人数が入ることはまずないだろう。先頭も最後尾も見えない長い隊列だが、後も前も知った顔の藪屋ばかりである。少し広い見通しのよいところで先頭が休憩している。1070m二股である。後で判ったが、ここは古い集材路の終点となっていて、27人が休憩しても十分な広さである。秋の日差しを浴びて、久々の仲間が談笑する。こんなところにもYoshida氏とクリキさんの事前準備のきめ細かさがうかがえた。

1070m二股を左に入るとV字状に開けた真っ直ぐな谷地形となり、雪も付いてくる。遥か先を歩く先頭も視界の範囲だ。一週間前の偵察の段階では最大膝までのラッセルだったと聞く。そうだとすれば、この数日間でずいぶん解けたのだろう。途中で水流が完全に消え、傾斜が除々に増して来る。背後には狭い角度ではあるが斜里岳や雄阿寒・雌阿寒の山々が見えている。さらに少し傾斜が増したところで1280m二股となる。ここでの休憩は完全に雪渓上となる。ここを右へ入ってからは積雪と根曲がり竹が混在する形となり、長靴底のスパイクを効かせての登高となるが、ちょっとでも油断をしようものなら簡単に足を取られてテッ転んでしまいそうだ。頂上直下まで進むとさらに傾斜が増し、日頃のトレーニングらしきことを一切していない私としては周りを歩く仲間のパワーが何とも羨ましい。

遠く、真っ白な大雪山も稜線上に浮かぶ

吸い込まれるような青空の中に目指す白い峰がちらりと見え、萎えかかった自分の心もにわかに息を吹き返す。頂上は目と鼻の先、完全に射程圏に入ったようである。先頭は既に頂上に到着したようだが、私の場所ではもう一息といったところだ。ふと見上げると、数人前を行くF女史が頂上部へ飛び出した瞬間「わ〜すご〜い!わ〜わ〜」と歓声を上げた。後続にとって、これからすぐに見るであろう壮観な眺めを思い描くには十分過ぎる効果であった。さあ、いよいよ私の番だ。その瞬間、本当に飛び出すように全面に山並みが広がった。いつも見ている薮山風景とはぜんぜん違う、これぞ山といった感じの大迫力パノラマだ。武利岳の雪を付けた迫力ある姿、それに続くニセイチャロマップ岳や支湧別岳、その後に浮かぶ真っ白な大雪山、正に圧巻である。恒例の頂上ビールや三角点の確認をも忘れ、しばし見入ってしまった。山はこうでなくちゃあ、自分の心の奥底からのささやきとも思えた。

この山の三角点は、話題の映画「剱岳点の記」(新田次郎原作)で有名な柴崎芳太郎測量官が設置したということを、今回始めて東京から参加した「秘境日高三股へようこそ」管理人のたかやなぎさんから聞いた。その他にも同様の点が道内には何ヶ所かあるそうで、柴崎測量官の足跡を追って彼は下山後さらに何点が訪れてみるとのこと。詳しくはこちらのサイトを参照してほしい。いづれにしても同測量官が遠くこの地を訪れていたと考えると、足許に埋まる三角点も特別なものに感じる。

360°の眺望は山座同定の材料にこと欠かない。特に驚いたのは、羅臼岳に続く海上と思えるところに知床岳がうっすら浮かんでいたことである。最果てまで見渡せる眺望は第一級そのものである。そうこうしているうちにすぐ南側の峰に人影が現れる。他にも登山者?と一瞬思ったが、さすがにそんなはずはない。我がパーティのメンバーであった。少々前後が開いたこともあって、そのまま斜面を登り詰めてしまったようである。下山時、この峰も訪れてみるが、三角点が埋まった頂上よりも数メートルほど高く、こちらが本当の無類岩山頂上のようである。眺望でもすっきりと見える分、こちらに分があるようだ。

無類岩山頂上にて全員集合(Oginoさん提供) 頂上にて(Aketaさん提供)

下山は速い。息せき切った最後の登りもあっという間である。途中、1070m二股からは集材路跡を使って沢へと下る。後続のKo玉氏がそのまま集材路跡を間違って下ってしまったのではないかとの話になるが、Ko玉氏であれば放ったらかしで下っても話の興として終わってしまうだろう。逆をいえば、たとえ山中で逸れてもこの日のメンバーは自分ひとりでも下るメンバーばかりで、全く心配する必要はないということだ。Ko玉氏の名誉のために付け加えておくが、彼は先頭グループで沢へちゃんと下っていたようである。下山後、林道終点の広場に集まり、Yoshida氏の終了のあいさつと来年の道北開催を確認して解散となる。今回の素晴らしい山と晴天は今後のプレッシャーになること間違いなしである。Ogino氏が笑いながら、来年の山はとなりの人の顔くらいしか見えない薮山しかないよね…と言っていたのが印象的であった。ひょっとして、彼は本気かもしれない。

帰路、峠へ向う車の車窓から見る無類岩山は武利岳と比較しても遜色のない山容を見せる。我々が登ったルートを見ても、視覚のマジックかそのせり上がっている様はとても登れる感じではない。この山が有名にならなかった理由はやはり奥深く、人々の生活の中ではあまり身近な存在ではなかったことが起因しているのかもしれない。いろいろ取沙汰される大規模林道であるが、今後はこの山域に多くの登山者を迎え入れる役目を果しそうだ。かつての支湧別岳もそうであったが、ネットやガイドブックによる情報は一気に多くの登山者を迎え入れる。いつまでも知る人ぞ知る名山であってほしいと願う気持はあるが、それは私の身勝手な願いといえるのかもしれない。(2009.10.25)

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【参考コースタイム】ホロカ林道終点P 8:15 → 940m二股 8:35 1070m二股 9:00 無類岩山頂上 10:50、〃発 11:50 1070m二股 12:40 ホロカ林道終点P 13:20     (登り約2時間35分、下り約1時間30分 途中の休憩時間を含む)

メンバー】Yoshidaさん、クリキさん、EIZI@名寄さん、ogino@旭川さん、八谷ご夫妻さん、たかやなぎさん、Aketaさん、Sakakuraさん、Kobayashiさん、スガワラ@北野ご夫妻さん、fujimoto@低山大好きさん、山ちゃんさん、佐藤@清田さん、俊一@池田さん、Torimotoさん、todateのもっちゃんさん、Nakayamaさん、Kitui@北見枝幸さん、Ko玉さん、Luckyさん、あまいものこさん、キンチャヤマイグチさん、saijyo、チロロ2さん、他1名

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