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      無意根(1460.5m) 白水川から無意根山

定山渓トンネル手前から望む無意根山

1/25000地形図意根山」「中山峠

スタートからしばらく・・・赤いナメ床が現れる

有名な白水川のゴルジュだが、年々姿を変えている

薄別登山口に車を停める
大滝上部の地図がガイドチーム (ヤマちゃん提供)

大滝上部の地図がガイドチーム (ヤマちゃん提供)

水芭蕉も今が最盛期 (源頭付近)

  しばらくぶりに白水川〜無意根山へ行ってきた。10年ぶりである。以前に入っていた山岳会では、白水川が沢教程の定番となっていて、私も毎年のように訪れていた。もっとも、私の所属していた山岳会に限らず、他の山岳会もこの沢を沢教程に使っており、シーズン初めにはなかなかの賑わいをみせていた。国道の白水橋から入り、源頭からは強烈な藪漕ぎで踏跡を探し、頂上からは薄別コースを利用して降りて来るというものだが、けっこう長い。ただし、やり遂げた後には達成感が残り、不思議に次の沢山行への意欲が湧いてきて、シーズンスタートにはもってこいのルートといえる。「地図がガイドの山歩き」としても、無意根山をUPするのであればぜひこのルートからと、ずっととっておいた計画である。

 この日は偶然ではあるが、以前に入っていた山岳会パーティと日程が一致する。懐かしい面々、思えば14年前、私にとって初めての遭難騒動の時、大変お世話になったM氏の姿もある。車を停めた薄別登山口と入渓地点までは少々距離があるが、乗ってきた車は一台であり、白水川の入渓地点までは歩く予定でいたが、見かねた彼らによって途中で車に拾われる。以前は国道から歩いていたが、現在はコンタ520m付近の砂防ダムまでの車の乗り入れが可能なようである。我々にとっては意外な時間短縮であった。大所帯の彼らよりも一歩先に白水の流れを進んで行く。赤いナメや小滝を幾つか越えるが、私にとっては初めての沢山行で足を踏み入れたナメであり、当時の記憶が鮮明に蘇えってくる。しばらく進むと先に彼らの姿、どこで追い越されたのだろうか?…よくよく考えてみると、林道終点からしばらくは歩道を歩いた記憶がある。やはり、久々のルートとなると、すっかり忘れてしまっているようである。5mほどの釜を持った滝が現れ、右岸を難なく登る。さらに大きな滝が現れるが、ここも右岸から登る。ふと見ると、こんな滝あったかな…と不安が過ぎるが、何度も入っている沢であり、必ず登れることは間違いなく、こんなところにも知り尽くされたルートの強みを感じる。左岸側が大きく崩壊した明るい沢相になると、いよいよ白水川の核心部、ゴルジュの滝は近い。赤茶色の大崩壊地の終りがこの滝となっている。

■核心部・ゴルジュ

 このゴルジュ、以前は右岸側のバンド状をへつり、最後の少々遠い一歩で無事に滝上到着となるが、必ず何人かは見事、数メートル下の滝つぼへ“ドボン”となった。ゴルジュ通過の際のご愛嬌といったところであるが、新人には試練であり、どの顔も真剣そのものであった。その後、このゴルジュは姿を変え、崩壊する度ごとに明るくなる。右岸側からは誰が残置したのかロープが垂れ下がり、へつりではなく、V級程度の岩登りとなった。今回、10年ぶりで見た印象として、以前のゴルジュに近い形となっているが、違うところといえば明るさとその規模であろう。胸上まで水に浸かればロープには届きそうであるが、仮に突然このゴルジュが現れ、垂れ下がるロープもなければ、大方の選択としては高巻きだろう。地形図を見ると、30mほども登れば地形は緩くなっている。我々は右岸側の取り付けそうな地点まで戻り、高巻くことにする。ここも最後に通過した10年前には明瞭な踏跡となっていたが、今回は踏跡も消え、藪が被ってしまっていた。途中に色あせた赤布が一箇所あったが、今は誰も利用していないようだ。下降面は少々急傾斜となっているが、木々を伝って行けば難なく沢身へ戻ることができる。

 続く大滝はWeb上では見ていたが、過去何度も通過していたにも関わらず、全く記憶に残っていない。それだけ白水と言えばゴルジュといったインパクトが極めて強かったということだろう。20mを優に超える大滝は、「一人歩きの北海道山紀行」(sakag氏)の昨年の記録を見る限りでは豪快そのもので、一筋縄では行かない感じである。しかし、今回は水量も少なく、中段までの左岸の登りは記憶にも残らない程度である。中央の階段状へ横切る時には少々水を被るが、sakag氏が入った水量がかなり多い昨年の山行では、さぞかし大変だっただろうと容易に想像できる。

小滝の上りも楽しい 源頭から望む無意根山

 大滝を通過、その後、二つほど5m〜10mの滝を越える。一つ目はよく見ると、しっかりとした足場があり、二つ目は時にフリクションを利用する。そこを通過して間もなく、宝来小屋へと続く林道となる。この林道、10年くらい前には国道に掛かる無意根大橋を起点としていたはずであるが、今の地形図には載っていない。変わって、以前に伸びていなかった宝来小屋へとつながっているようである。白水川を遡行する登山者にとって、大変便利になったようであるが、森林管理所では利用していないのか、轍以外には雑草が繁っている。今後は徐々に荒廃して行くことだろう。ここで、白水遡行をリタイアした大学生グループと行き交う。この林道から宝来小屋へ下山するとのことである。

 林道から再び白水川の流れへと戻り、リスタートである。少し行くと10mほどの緩い滝が現れる。階段状で、見かけよりは全く簡単に登れる。こんなところにもこの沢の楽しさが隠されているのかもしれない。その後しばらくは穏やかな流れとなり、何もない。1020m二股では、以前に流しそうめんをやった楽しい記憶があるが、付近では単独行の登山者が疲労凍死した話を耳にしたことがある。林道が未だ通っていなかった当時、エスケープが出来ない長い沢の厳しさが垣間見られる遭難事故といえる。

大雪渓からいよいよ藪漕ぎへ
無意根山頂上にて

 右股に入ってしばらくは平凡な沢相が続くが、コンタ1080m二股で両股とも10m程度の滝となった分岐点となる。ここへ入るだれもがその解答を知っているようだが、私は忘れていた。何度も通過し、その都度、ここはこうだと教えてきたが、10年という歳月は短いようでいて長いのかもしれない。進路は左だと判ってはいるが左は直登不可能な滝となっている。チロロ2さんから解答を聞いてやっと思い出す。右側もぱっと見た目は垂直に近いが、取り付いてみるとまるで階段である。この階段を登り切り、滝上で小尾根を乗り越して左股へ入るのが正解であった。もちろん、有名なルートであり、乗り越しは踏跡となっていて、赤布も結び付けられている。初めての時は右股をそのまま進んでしまい、大先輩であるK山さんが、あわてて追っかけてきた記憶がある。ここを通過すると、後は容易に登れる滝が一つ、最後は源頭へと姿を変える。

無意根山への途中から見る中岳

■無意根〜中岳の踏跡と藪漕ぎ

 源頭は大雪渓となっているが、今年は例年になく小さい。その代わりにお花畑が出現し、チングルマやエゾツガザクラが咲き乱れている。山岳風景は、さながら“ミニ大雪山”といったところだ。さすがにこの標高ともなると季節が遅れ、アイヌネギもまだまだ食べ頃である。しばしのんびりと休憩するが、ここからがこの山行の本当の核心部である。30年ほど前には無意根山〜中岳間は1m幅位のしっかりとした刈分けとなっていたが、あまり利用者がいないのか年を追うごとに荒廃が進み、現在は刈分けを見つけ出すことがかなり難しくなった。M氏の話によると、皆が利用する大雪渓からの入口が一箇所あり、そこであれば、この踏跡が見つけやすいとのこと。我々はあいにく別の沢形から入ったが、出来るだけ融通が利かない樹木を避けて笹薮を選び、藪の上層面の凹んだところを探して、約50分の藪漕ぎで踏跡へ飛び出す。ただし今の踏み跡の状況では、少し油断すると、すぐに外してしまうので注意が必要だ。今後はいっそのこと、この踏跡がないものとして計画を組んだ方が安全かもしれない。

 以前の無意根山への登りは、踏跡が明瞭で、登山道と何ら変わりはなかった。何年か前にHYML(北海道山メーリングリスト)の有志によって踏跡の笹刈が行われたそうであるが、現在は再び鬱蒼としてきた様子で、かなり判りづらくなっている。しかし、白水から上がってくるような登山者は一般的には熟達者ばかりであり、こんなところで踏跡を見落すとは考えられない。途中から見える中岳の頂上付近には現在も踏跡のような筋が入っており、往時の様子が窺える。頂上への最後は低いハイマツの中の一本道であるが、ここも随分と被ってきた感じだ。遭難慰霊の大きなケルンを通り過ぎ無意根山頂上に到着する。以前には春夏秋冬を通して、年に何度も足を踏み入れた頂上であるが、藪山趣向となった現在ではほとんど踏むこともなくなった。余市岳と並ぶ1500mに近い札幌市内の高所で、白水遡行の終了地点である。

 帰路のルートとなる薄別コースは電光坂付近が土砂崩れのため、現在は森林管理所によって立入りが禁止されている。しかし、この登山道を使わなければ車を置いた薄別登山口への下山が出来ず、悪いが通過させてもらう。登山道は土砂に完全に流されてしまったようで、崖面が露出している。我々はスパイク地下足袋を効かせて難なく下降するが、登山靴やフェルト底では、きっと苦労するに違いない。昨年から膝を痛めているチロロ2さん、ただでさえ10時間以上の登高を無理強いしていることもあり、最後は大事を取って、かなりのスローペースで下ることにした(2008.6.22)

【遭 難】*******

 前々回の白水遡行、14年も前のことである。私は今回行き交った山岳会の沢教程のCLとして、この沢を訪れている。全くの初心者が入ったパーティを受け持ち、最後尾のリーダーとして入渓した。他のパーティには「頂上までは行かない」と言って入渓したが、引き返さずにそのまま遡行を続けてしまった。かなり遅れて源頭の雪渓に到着、無意根〜中岳の刈分けを目指す。数年前の明瞭な刈分けが頭にあり、そこにさえ飛び出せばどうにかなるだろうとの思いであったが、当時は既に不明瞭となっていて、結局見つけられずに時間切れのビバークとなる。私としては前述の疲労凍死の件が頭にあり、初心者パーティを考えての決断であった。ここで問題となるのはビバーク云々ではなく、「頂上までは行かない」と言っておきながら、頂上を目指したことである。自分の心の中に、あわよくば抜けてしまおうという気持があり、その気持を自分自身でコントロールできなかったところに、この遭難事故の原因があった。そもそもが教程山行であり、頂上を無理に目指す必要などなく、完全に目的を取り違えていた。この日は天候も安定しており、一晩のビバークは問題なく過ごせたが、天候が崩れる状況であればどんなことになっていたのか、想見の領域である。翌朝、宝来小屋前まで自力下山するが、山岳連盟が救助隊を召集、多くの山仲間が仕事を休んで駆けつけて来てくれていた。M氏を始め、多くの人達に心配をかけた私の勝手な行動は、非難されて然るべきであった。

【参考コースタイム】薄別登山口 5:15 林道終点 5:35 ゴルジュ 7:35 大滝 8:20 林道 9:00 大雪渓 11:05 、〃発 11:40 → 踏跡 12:30 無意根山頂上 14:00 、〃発 14:45 → 宝来小屋 17:30 薄別登山口 17:50    (登り 8時間45分、下り 3時間5分、※各地点での休憩時間含む)

メンバー】saijyoチロロ2

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