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      小屋沢山(969.2m)

 

1/25000地形図蘭部岳」

管理道もだんだん鬱蒼としてくる
エンビ製の階段ブロック・・・これが歩きやすい
ポンノボリ沢出合には広い駐車スペースがあるが、ヒグマの糞も・・・
尾根道起点にはこんな滝も

元小屋沢山の山名の正確な由来は判らないが、この山の沢のどこかに炭焼小屋もしくは飯場小屋があったのではないかとは容易に想像できる。北海道内にあっては逸早く「倭」が進入したこの地域、こういった和名の山が多く、山名のある山の密度も他の地域と比べて格段に高い。現在、この山の頂上には“元小屋”ならぬ北海道電力の立派な飯場小屋が建っていて、登山対象としての山というよりは電力会社の現場といった雰囲気である。以前、雄鉾岳へ登った時、送電線が縦断するこの山の全容を眺め、以来ずっと気になっていたが、昨秋、「一人歩きの北海道山紀行」sakag氏が送電線には歩道があるものとの前提で、単独にて実地検分、氏の予測通り、この山の“登山道”を発見する。近はヒグマの密度が濃いといわれる山域で、いたるところに糞や爪痕などの形跡が見られる。道南という地域性を考えれば、決して一人では入りたくない山である

Sakag氏の山行記録によると「林道の轍にクマの糞があちこちに落ちていて、それをかわしながら走る」とあったため、ついサファリパークの中でも走るような想像をしていたが、走ってみると普通の林道であった。ところが終点の広場に着くや否や、真新しい糞の山のお出迎えである。4人パーティという安心感からか少々観察を怠っていたようである。広場横を流れる相沼内川は清流で、伏流水が源と思われる。この川を渡ったところから管理道が続いている。アプローチとなるポンノボリ沢は枯れ沢で、管理道路は川原と絡み合うように続き、時には川原を繋ぐ方が速いようにも思われる。度重なる増水があるのか、管理道路が流されてしまったようだ。場所によっては直線的に続くが、右側へ折れる頃から草木が被りはじめ、所々で崩壊してしまったようだ。同時に沢の水量も増え始め、野趣溢れた沢歩きといった様相となるが、直ぐに登山道顔負けの管理道入口となる。

管理道は鉄塔を繋ぐ形で続いており、かなりしっかりとした感じだ。尾根への取り付き付近の景観は左右ともゴルジュ状となっていて、右股には水量のある56m弱の滝が見られる。仮に一般登山道としてこのルートを開放した場合、間違いなく格好の休憩地点となることだろう。ここから628m標高点までは急な登りとなる。一般的に整備された登山道の急斜面では、必ずと言ってよいほど木片を使って階段を作っているが、歩幅にぴったりと合う階段に巡り会うことは稀で、その多くは邪魔もの以外の何ものでもない。これを避けようと道幅が広がり、むしろ周りの自然環境を悪くしているようだ。その点、ここの管理道は作った視点が全く違うのか、素晴らしいの一語に尽きる。歩幅はぴったりと合っていて、歩く側の状況を十分に考えて作ったようだ。ただし、業務用ということで階段ブロックにはエンビ製のものを使用しており、これはこれで一般登山道での使用は物議を交わすことになるのかもしれない。

628m標高点からは尾根上に続く緩い一本道となる。他と違うところといえば当然のことながら、必ず鉄塔下を通過するところである。管理道の途中にもヒグマの糞が見られ、不用意に歩くと踏んでしまいそうだ。アップダウンを繰り返しながらも標高を上げ、徐々に右側へカーブしながら頂上へと近づく。最後は正面に忽然と家屋が現れるが、写真等でいくら知っていてもやはり唖然とさせられる。山の上というよりは何か子供の頃に遊んでいた、新興住宅地の原っぱでも歩いているような雰囲気である。建物は山小屋というよりは普通の家といった感じで、窓から覗いてみるとテレビや冷蔵庫など、家電製品も備わっている。直ぐ横を送電線が走っていることもあり、電気は使い放題なのであろう。送電線を保持するための飯場として使っているようだ。

小屋というよりは家のような頂上小屋
郊外の原っぱのような光景が・・・ 深い笹薮の中の三等三角点「元小屋沢」

この山の本当の頂上ともいうべき三角点はさらに300mほど先である。そのまま歩道を進み、一番近そうなところから竹の子取りのように背丈以上の根曲がりの藪へ突入する。逆向きの根曲がりはかなり強烈であるが、三角点の臭いが判るというKo玉氏、大して探すこともなくピンポイントで目標物を発見する。もちろん、三角点に臭いなどあるはずはなく、微妙な笹の向きや人の入った形跡など、長年の経験による潜在的な感覚が彼を正確に誘導しているようである。Sakag氏曰くは「上空すら満足に見えない藪中の頂上」とのこと。確かにその通りで、私の踏んだ三角点の中でもワースト上位にランキングされそうだ。ただし、残念なことに送電線が頭上に見え、せっかくの登頂気分に水を注す感じは否定できない。

下山時、628m標高点からの急な管理道を下っていると、下方からエンジン音が聞こえてくる。木々の枝越しに覗いてみると、ヘリである。鉄塔ごとにホーバリングし、気が付いてみるとあっという間に頭上である。日曜日であるにも関わらず、送電施設の様子を偵察しに来ているようだ。施設の維持には弛まぬ努力が必要ということであろう。山は登山者にとって、自然環境に身を置き、一人間としての自分に回帰できる場であるとの認識を持っていたが、この山について言えば、自然環境とインフラ維持との闘いの場であり、それにも関わらずヒグマの生息密度が濃いといった、何ともアンバランスなものを感じる山であった。(2007.7.29)

■「一人歩きの北海道山紀行」sakag氏の山行記

【参考コースタイム】 ポンノボリ沢出合P 750 尾根取り付き 8:55 頂上小屋前 10:40 元小屋沢山頂上 10:55 、〃発 11:15 頂上小屋前 11:35 、〃発 11:45 尾根取り付き 12:40 ポンノボリ沢出合P 1340 (上り3時間05分、下り2時間25分)

  【メンバーkoさん、numaさん、saijyo、チロロ3(旧姓naga)

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