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 藻琴(999.9m)

頂上付近は深いガスの中 (「ハイランド小清水725」から藻琴山を望む)

/25000地形図「藻琴山」

清々しい駐車場、登山者は我々だけだった
出発からすぐにハイマツ帯となる
オオカメノキの咲く登山道

「困った時の藻琴山」これは我々が道東へ出かけて行く際によく口にする言葉である。というのは、ガイドブックでは初心者向となっていて、登山時間が短く、標高差が少なくて登山道もしっかりとしているなど、容易な条件の全てが揃っているらしく、多少の悪天でも登れそうだからだ。札幌から遠路道東まで出かけて行って、運悪く手ぶらで帰る羽目になった場合にはぜひ立寄ろうと、山を始めた頃からずっとそう思っていた。言わば保険代わりである。とは言え、藻琴山自体はどっしりとなかなか存在感のある山で、この山の山腹を道路が通過しているために容易な山となっているだけである。今回は保険を解約するべく、この山に登ってみることにした。

どこにでも見られるイヌガラシ 藻琴山頂上にて

 以前のガイドブック(北海道の山・山と渓谷社)に載っていた「一升瓶を頂上に置いてちょうど1000m」といった今村氏のこのフレーズは印象的で、若い頃の私は、藻琴山に出かけて行って盛り土でもしたい気分になった記憶がある。あれから約半世紀、人からは同じことを何度もしゃべっていると言われる年齢になってきた我々だが、車中の会話でもこのフレーズは何度も繰り返されていたように思う。登山口となる藻琴山展望駐車公園で既に標高720m、頂上までの標高差はわずかに280mで、これを登って登山か… とも思ったが、そんなことを言っては藻琴山に申し訳ない。ここは真摯に、一番入山者の多いこのコースから藻琴山登山を楽しませてもらうことにする。

 朝霧が立ち込める屈斜路湖を抜けて藻琴峠に向かって車を走らせる。途中から辺りが明るくなり、陽も差し始める。展望駐車公園に着く頃には見事な雲海となり、まるで天上の楽園といった雰囲気となる。広い駐車場はさすがに我々の車だけ、清々しさを感じる素晴らしい朝である。もっとも、この山に要する登山時間を考えれば、こんなに早朝から行動する必要はなかったのかもしれない。ここでは何と言っても綺麗なトイレが良い。単に登山口として考えれば贅沢過ぎる感じである。案内板も綺麗で、久々のハイキング気分を満喫する。スタート地点が既に六合目であり、最初からハイマツ帯の中を進むことになる。登山道は両脇から低い笹が被っていて、この日最初の登山者となったためにズボンは朝露で濡れ、雨具の下をはいてこなかったことに少し後悔するが、終わりとは言ってもまだまだ夏、そんなに神経質に考える必要はない。25分で、全国で一番最後に咲くと言われている「天涯の桜」の横を通過する。一部の登山者しかこの存在を知らなかったらしい。沖縄から始まる桜前線の北上が終わるのは5月の稚内だが、この桜が花開くのはさらに1ヵ月遅れの6月というのだから驚きである。

 総じて単調な登山道だが、40分ほどでこのコースの一つのポイントとなる屏風岩となる。フィックスロープも設置されているが、手すりくらいに考えてもよい。人間誰しも歳を取り、山など登れなくなってしまうだろうが、その時期を早めるか遅くするかは本人次第だと思う。仮にその時期が早く来たとしても、私は仕方がないと割り切れるだろう。その時期を早めるか遅らせるかは運もあるだろうが、本人の日頃の精進次第だと思うからだ。この場の少し大げさなフィックスロープに、ついそんなことを考えてしまった。

屏風岩付近を登る 999.9mの一等三角点「藻琴山」

 近いと聞いていたこともあって、次々と出て来るニセピークには惑わされる。さて、到着かと思ったが、なかなかピークには到着しない。そうこうしているうちにいきなり広場に出る。チロロ3さんが以前に言っていた「10分で藻琴山の頂上を踏んできた」を思い出す。おそらく、この広場から少し下れば林道の終点があり、そこまで車が入るのだろう。まあ、そこから登るのも良いかもしれないが、このコースもそれなりに登山といった雰囲気がある。まだまだ健常者を自負している私としては少なくても1時間くらいは歩きたいところである。晴れていた天候も頂上が近づくにつれて、すっかりガスの中となる。残念ながら、素晴らしいと言われている藻琴山の展望を見ることは出来ないだろう。展望については何かの折にでも、その林道を車で辿ることにしよう。ここまで着たならとりあえずはピークだけは踏んで行かなければならない。

 広場からはいよいよ頂上へのひと登りとなる。少し小高くなった樹林帯の中へ突入、登り詰めると999.9mの一等三角点「藻琴山」が埋まった頂上に飛び出す。以前は一升瓶(40cm)だったが、現在は鉛筆1本程度に縮まっている。近年の精度が増した測量の賜物といえるが、やはり1000mとはならなかった。頂上標識では1000mと表記されてはいるが、ここは999.9mの方が話題性があって良いような気がする。標石から10cmのところ、自分の靴より上は全て1000m以上という方が絶対にインパクトがあるだろう。予想はしていたが、頂上はすっかりガスの中、多少待ったところで晴れそうにもない。どんな大展望が展開するかは再び「困った時の藻琴山」を継続、今後の楽しみとすることにした。屈斜路湖外輪山・最高地点からの未だ見ぬ展望を頭に描きつつ下山とする。(2013.8.21)

参考コースタイム】 「ハイランド小清水725」登山615 屏風岩 6:55 藻琴山頂上 7:10、〃 発 7:30 → 屏風岩 7:40 → 「ハイランド小清水725」登山815 (登り 55分、下り 45分)

メンバーsaijyo、チロロ2

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