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       暑寒岳(1296.4m)

雨竜沼湿原と南暑寒岳

 1/25000地形図「暑寒別岳」「国 領」

展望台を過ぎるとこの日初めての南暑寒岳が見えてくる 雪渓の向うが南暑寒岳頂上
雨竜沼湿原ゲートパークを薄暗いうちに出る
しばらくは広い道路が続く
渓流第一吊橋からは登山道となる

ある老健施設の広報誌の表紙写真を頼まれた。札幌周辺の山々を特集したもので、今回が三回目、増毛山地である。できれば日常的に目する札幌市街からのアングルをと考えていたが、この時期となっては雪渓が少なく、しかも札幌側は南斜面でコントラストが今ひとつである。であればと、久々の南暑寒岳と雨竜沼湿原へ出かけてみることにした。南暑寒岳は私にとって増毛山地の最初の山で、約40年も前の話になる。その後、小さな山も含めこの山域の山々はほとんど登り尽くしたが、そんな中でこの南暑寒岳は有名どころということもあり、ついつい再訪を敬遠していた。

登山口の南暑寒荘周辺は公園化して「雨竜沼湿原ゲートパーク」との名称が付けられていた。最初にこの名を目にしたときには南暑寒荘の近くにおらが町のゲートボール場まで作ってしまったのかと驚かされたが、これは私の認識不足で、雨竜沼湿原への入口という意味だそうだ。以前に泊った山荘も今は建てかえられて立派になり、広い駐車場も用意されている。夜遅くの現地入りだが、午前4時の出発とする。写真目的であれば当然のことながら一番清涼感のある早朝のシャッターチャンスを狙いたい。

出発は管理棟に届けを済ませて行かなければならないようで、この時に協力費の500円を支払う仕組みになっている。夏には人気の高層湿原、当然のことながら入山者が多ければ多いほど荒れて行くのは必定だ。だれもがマナーを守ろうという気持を持たなければこのままの状態で維持して行くことは難しいだろう。この500円には500円以上の効果があると感じた。さすがに4時発とあれば有名どころとはいえ他の登山者はほとんどいない。広い道路をしばらく歩くと冬期には取り外されるという渓谷第一吊橋」となり、ここからが登山道のスタートとなる。

南暑寒別岳の頂上に到着

左岸から右岸、再び「渓谷第二吊橋」で左岸へと移り、急な登山道を登り詰めると辺りが開けて湿原の端に出る。あいにくの朝霧のため、見えるのは目の前の木道のみだ。日が高くなれば霧は山を下って平野へと流れ込んで消えるのだが、南暑寒岳へ登って増毛山地の山々も写真に納めなければならないので、湿原は帰りの楽しみとする。長い木道が続き、再び登山道となるまでには2kmほど歩かなくてはならない。ミズバショウやエゾノリュウキンカがまだ咲いているところをみると、つい最近まで雪渓が残っていたようで、少なくてもこの湿原周辺は今年の雪解けが遅かったということだろう。連日30°近い夏日の道内だが、この清涼感は何とも心地よく、さすが高層湿原の朝である。

湿原から南暑寒岳への登りは緩く、マイペースで歩いてさえいれば知らず知らずのうちに標高を上げる。途中、展望台が設けられているが、以前はもう少し低い位置にあったように記憶している。ただ、相当前の話しなのでおそらく私の記憶違いだろうと思う。展望台とはいえ湿原は濃い霧の中で何も見えない。ここの展望も帰りに期待するしかないようだ。登山道脇は背丈以上の根曲がり竹が密生しており、よく見れば程よいタケノコもいたるところに顔を出している。このエリアは国定公園の特別保護区域であり、当然のことながら一切の植物の採集は禁止されている。そういう意味では皆がマナーを守っているということになるが、通行人の多いこの登山道で真昼間から大胆不敵にタケノコ採りなど出来るものではないという方が妥当かもしれない。ところが、下山時にそんな機微を察することのできない輩が現われたのには驚かされた。「みんな我慢しているのだから、君も周りの空気を読み取れよ…」心の中ではあるが、私もそう呟いていた。

南暑寒岳頂上から暑寒別岳と滝雲
南暑寒岳頂上から鋭角的な群別岳を望む

956m三角点付近を通過する頃から霧が晴れて雨竜沼湿原の全容が姿を現す。のっぺりとした恵岱岳を背に数多くの湖沼が点在し輝いている様子が見える。ガスはさらに下の平野部へと下り見事な雲海となっている。早起きは三文の徳というが、朝のすがすがしさはとてもわずか100円で買えるものではない。500円支払ったことを織り込んでもなお余りあるほどの壮快感を味わわせてくれる。南暑寒岳が近づき大きな雪渓も現れた、いよいよ久々の頂上が雪渓のすぐ先に待っている。雪渓で頂上ビールを冷す雪をかき集め、再びハイマツ帯の登山道へと入る。100mほど進んだところで急に視界が開け、三角点が斜めに飛び出した頂上に到着する。

雨竜沼湿原は霧の中だが、薄っすら青空も見えてくる まだミズバショウも見られる

頂上展望は過去の記憶とは違って実に素晴らしいものだった。日本海側は雲が湧き上がって低い山を覆い隠し、その雲が滝雲となっては消えて行く。その動きが山そのものをさらに力強いものにしている。特に山域の主峰・暑寒別岳や鋭峰で名高い群別岳などはそんな見事な姿で他を圧倒していた。以前に見た眺望と大きく違うところといえば、先日登った尾白利加岳(奥徳富岳)を真正面に、見えるもの・見えないものの全てが馴染み深い山へと変っていたことだ。この山域のみならず、遠く夕張や大雪・十勝、三頭山周辺と同様の見方をすれば山座同定の材料には尽きることはない。時を忘れ、展開する眺望にしばし見入っていた。

下山時、頂上を出てすぐに我々の次の登山者が上がってきた。さて、これから先は挨拶また挨拶である。展望台付近のガスは朝の霧とは違って日本海側から流れ込んできたもの、にも関わらず展望台は多くの登山者で埋め尽くされていた。雨竜沼湿原も朝よりは状態は良いが山はガスって何も見えない。結局、諦めて下山することにする。ところが、やや下ったところで振り返ると南暑寒岳が顔を出していた。すぐに登り返して湿原へと向かう。相変わらずすれ違う登山者の数は多く、中には往復2回で計4回も同じ登山者と同じ挨拶を交わす破目となる。本来は相手の状態を思いやってのエールの交換のはずだが、とにかく挨拶しないと何となくばつが悪いのか、形だけの挨拶となっている気がする。礼節を重んじる日本人ならではの独特な光景といえるのかもしれない。

40年ほど前、当時高校生だった私にとって南暑寒岳は遠かった。滝川駅からバスに乗って終点の暑寒ダムまで行き、そこから南暑寒荘までは徒歩の長い道程であった。今でこそ道道に昇格して部分的にはきれいに舗装されているが、当時は砂利道のみであった。途中、国領にはまだ家屋が取壊されずに残っていたのを覚えている。雨竜沼湿原は1990年に国定公園に昇格、2005年にはラムサール条約登録湿地にも登録されされ、あの“尾瀬”に勝るとも劣らない押すに押されぬ観光地へと変貌しつつある。時代の移り変りでスポットライトが当たる場所というのは大きく変化するものとつくづく感じさせられる。○○の尾瀬という言葉をよく耳にするが、こんなケースでは共通点は多少あっても、本家とは程遠い場合が多い。いわば、本家の知名度にあやかりたいと宣伝の意味で使う慣用句のようなものである。この雨竜湿原の場合、あえて尾瀬に頼る必要など全くないだろう。Web上には逆に尾瀬を南の雨竜沼湿原と言った方が妥当との見解も載っていたが、これは極端な意見としても、より自然が豊富に残る雨竜沼湿原が素晴らしいということだけは異論のない事実のように思えた。(2011.7.3)

【 山行中に見かけた主な花々 】

オオバナノエンレイソウ タカネザクラ ハクサンチドリ
シナノキンバイ
シナノキンバイ シラネアオイ オオタチツボスミレ

【参考コースタイム】 雨竜沼湿原ゲートパーク P 3:40 → 雨竜沼湿原入口 5:00 → 南暑寒岳頂上 7:30、〃 8:25発 → 雨竜沼湿原入口 10:40 → 雨竜沼湿原ゲートパーク P 12:35  (登り 3時間50分、下り 4時間10分  ※途中引き返し、休憩時間を含む)

メンバーsaijyo、チロロ2

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