<戻る

       増毛/天狗岳(973m))

 

岩尾の集落から望む増毛・天狗岳

     

 1/25000地形図  「別 刈」

集落の一角に車を停める。 いよいよ出発だ
雪の付いたコンタ400m岩峰はなかなか見事だ

馬の化石かと思うほどの見事な自然の造形 (559m右側のコルにて)

9年前が最後だったが、この増毛・天狗岳には三度足を運び三度とも失敗している。三度とも岩尾温泉からのルートだが1000mにも満たない山ということで、つい軽く考え日帰りで計画したことがその敗因であった。ということで、今回は前日に現地入り、少しでも早い時間から行動を開始することにした。ところが、岩尾温泉・夕陽の荘の駐車場にテントを張らせてもらおうと交渉してみたが、同施設は冬期間閉鎖とのこと。少々遠いが、以前利用したことのある濃昼の林道にテントを張って翌日に備えることにした。そもそも岩尾温泉を入山口に選んだ理由は、下山後の温泉が魅力的という単純な理由からである。何度も失敗していると変な意地や拘りも出てくるもので、一般的なアプローチとなっている別刈からの登頂では今さら納得できるわけもない。さらには失敗山行に付き合ってくれた幾人かのメンバーにも行くとなれば声かけしなければならず、それやこれやで9年もの間登頂を遅らせてしまった。今回は遠く山口県からtakataさんも参加している。今度こそはこのルートをぜひとも完成させたい、そんな思いで午後の札幌を出る。  

《岩尾〜654mコルへ》

9年前と同じ駐車地点に車を停める。町並みの一角だが、邪魔にはならないだろう。積雪に埋まった道路を進み、左側の沢形を渡って急斜面をひと登りすると広い樹林帯となる。平らな林間を真っ直ぐに進んで行くと、だんだんと幅が狭まり無名沢のコンタ130mで最初の渡渉となる。積雪量の多いこの時期であればスノーブリッヂもいたるところにあって、徒渉で苦労することはほとんどない。沢幅が狭まり、右岸左岸と渡りながら進んで行くうちにコンタ270mで559m右側のコルへと続く尾根の取付きとなる。付近から見るコンタ400mの岩峰はなかなかの迫力だ。真っ青な空に生える岩峰はとても400m程度の山とは思えず、つい登ってみたくなるが、左側に見える雄冬山はそれより遥かに高い。やはり400mは400mかと気づく。そもそもは海抜30mからのスタートで、標高差を考えればどれもそこそこに見えて不思議はないのかもしれない。

チロロ2さんを先頭にコルからの稜線を登る
通称;岩尾天狗から望む本峰
頂上付近からの南望(右側が雄冬山)

  樹林の尾根上を登りつめると先ほどの岩峰も目線の高さとなり、さらに低く小さくなって行く。急斜面をジグをきって登りきると傾斜が緩くなり、雪面の向うに目指す天狗岳がこの日初めて顔を出す。やはり圧倒される迫力である。おそらく他のどのアプローチからも、こんな素晴らしいアングルの増毛天狗を見ることはできないだろう。前回はここからホワイトアウトとなってしまったが、今回は青空が広がっていて、ここまでは今までにないくらい順調に推移している。休憩中、チロロ2さんが「サトマサさんが喜びそうだよ、これ…」と。見ると雪面から馬の頭が飛び出していた。鬣まで小枝で表現されており、見る角度によっては笑ってさえみえる。確かに「アソビホローケル山」の“詩の生まれた北の風景”に登場してもおかしくないような自然の造形である。  

559m右側のコルが近づくと増毛・天狗岳が姿を現す 岩峰左側の654mコルを目指す
コルへの斜面。ただし、難所ではカメラを出す余裕はない 654mコルから719m(点名;歩古丹)を振返る

《654mコル〜天狗岳頂上》

 沢の源流域を馬蹄状に大きく巻いて、いよいよ最大の難所・654mコルへの登りである。944.3m(点名;岩尾天狗)から719m(点名;歩古丹)へと続く北西尾根の南西側の斜面はどこも厳しく、唯一の弱点といえば654mコルへの斜面くらいだ。とはいえ、ここもかなりの傾斜で、登る標高差が一番短いというだけのこと。前回はこの取付き地点が定まらずに719mへと上ってしまったため、ここで1時間強のロスタイムを作ってしまった。今回は視界不良に備え、GPSにポイントを入力してきているが、この視界の良さではその出番はなさそうだ。トラバース気味に斜面へと突入、雪面はカリカリで、注意をそらせばずり落ちてしまいそうだ。一部ではあるが45°くらいはありそうで、雪崩によるデブリとは違うが大量に転がり落ちた雪塊がそれと似たような光景を作り出している。キックターンしても次のルートが取りづらく、斜面が緩くなるまではスキーを外してキックステップで一歩一歩着実に登るしかないようだ。今までに二度ここを登っているが、実際に来てみなければこの大変さはなかなか思い出すものではない。途中からは再びスキーを付けて何とか654mコルへと抜ける。この山はやはり手強いと改めて感じさせられる1場面であった。

 コルからは反対側にも青い海が現われる。青空をバックに端正な719mピークが美しい。ふと見ると沖には雪雲が這うように近づいてきている。海面はささくれ立っていているのか色が変っており、雪雲周辺では気流が乱れている様子。何とか登頂までは追いつかれないようにしなければ…と思うが、それは難しいかもしれない。チロロ2さんを先頭に狭い稜線から岩尾天狗への広い稜線へと回り込む。途中、岩尾天狗の頂上かと思われる雪庇の付いたループ状の高みを乗り越すが、斜面には弱層があるとTakataさん、かなり慎重になっている。見ればかなり小さな雪庇なので踏み潰しながら標高を稼ぐのが良いだろう。ここを過ぎると平らになり、今度こそ本当に岩尾天狗と思われる小ピークが少し距離を置いて現われた。この頃からから先ほどの雪雲に追いつかれたようで、雪もちらつき始める。もうここまで来れば天候のことなど気にしてはいられない。小ピークが近づきそれを渾身の思いでひと登りするが、さらにその先にこれぞ本物といった感じのピークが現われた。結果的にはこれが岩尾天狗だった。登った小ピークは余計だったようで、後続には登らないよう手で合図しながら下ることにする。11時30分、岩尾天狗のピークに到着する。ピークらしきところが十数メートルほど離れて二ヶ所、両方とも踏んだので到達したことについてはまず間違いないだろう。降雪は通り雨のようなもので、再び青空も覗き始めた。さあ、いよいよ本峰だ。

西風を避け、頂上東側で休憩

頂上から増毛の市街地を望む

11時50分、やっと頂上に到着

  この時期特有の硬くなった雪庇の残骸を乗り越えて天狗岳頂上の高みを目指す。春とはいえ広い雪面にはシュカブラが発達しており、スキーを滑らせるにはしっくりとこない感じである。岩尾天狗からは大きく見えた頂上部だが、斜面へ実際入ってみればただの平坦地に過ぎない。GPSを取り出していよいよカウントダウンの開始となる。この道具は前回の時には存在すら知らなかったが、その後急速に広まった文明の利器である。今回の山行での出番はなかったが、縮まって行く表示が登頂目前の感動をさらに大きなものにしてくれる。400m、300m、… 残り100mとなって雪原に小さな除雪後の雪山程度の高みが現われた。あれだ! 11時50分、9年間の思いを胸に、増毛・天狗岳の頂上に到着する。(2011.03.27)

 

【参考コースタイム】 岩尾P 7:10 → 559m右側のコル 9:10 → 654mコル 10:15 → 増毛・天狗岳頂上 11:50 、〃発 12:20 → 654mコル 13:00 → 559m右側のコル 13:35 → 岩尾P 14:45 (登り 4時間40分、下り 2時間25分 )

メンバーtakataさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

<最初へ戻る