<戻る

 マクワンチサップ(574.1m)

  

   

つつじヶ原から望むマクワンチサップ

1/25000地形図 「川 湯

つつじヶ原から望むアトサヌプリ(硫黄山)
急斜面を登って行くIkkoさん
やっとサワンチマップと同じくらいの高さとなる

 マクワンチサップ、特に“山”も“岳”も付かない山名だが、立派に一山といえる山容の山である。となりのアトサヌプリは「硫黄山」の名で道東観光の定番となり、おかげかどうか、その影に完全に隠れてしまったのがこの山だ。だが、この山はアトサヌプリよりも標高が高く、頂上には三等三角点「硫黄山」が埋められている。ひょっとしたらこの基準点設置の折にはアトサヌプリも含めた総称が硫黄山だったのかもしれない。その場合、この山が頂上となるが、特徴に乏しいこともあってアトサヌプリの方が勝手に一人歩きしてしまったような気がする。ちなみに、この付近の山々はアトサヌプリ火山群と呼ばれる屈斜路カルデラ内の十の山からなる中央火口丘。一番新しい火山がアトサヌプリで、このマクワンチサップは次に新しいらしい。どちらも同じ溶岩円頂丘といわれる小火山で、タイムラグはあるが同じ生成過程をたどったようだ。山名についてはアイヌ語のマク・ワ・アン・チサップ(後方・に・ある・?)で、語尾のチサップについては意味不明とのこと。

マクワンチサップ_ピークにて (Ikkoさん提供)

   この日はアトサヌプリからの縦走を考えていたが、さすがにこの時期のツボ足登山は厳しく、一度硫黄山駐車場に降りてからのリスタートとなった。もちろん、足回りはアトサヌプリ山行では置いて行ったスノーシューである。午後の山行計画はつつじヶ原からマクワンチサップとサワンチサップのコルへと続く歩道に入り、そこから急斜面を登って頂上へ向かおうというもの。この山の登山では一般的によく使われているルートである。車はつつじヶ原の手前の駐車帯に止め、つつじヶ原の入口まで歩くことにする。つつじヶ原は時期ともなればエゾイソツツジが咲き乱れる風光明媚なところ。冬場でも周辺ではネイチャーウォークが行われているのか、スノーシューの跡が続いている。つつじヶ原の一帯を過ぎるとそんな形跡もなくなり、あとはIkkoさんを先頭に黙々とコルを目指すのみ。2Kmの行程、約30分でコルに到着、ここからが後半戦の本番である。

 Ikkoさんから「どちらから登りますか?」との意外な問いかけ。時間的なものを考えれば日の短い今のこの時期としては一山が限界、もちろん午前に登ったアトサヌプリと対になるのはこの山で、当然のことながらマクワンチサップと答える。Ikkoさんは午後のこの少ない時間で二山を考えているのだろうか… まあ、行けるところまで行ってみよう、これが私の回答である。少し歩いてマクワンチサップの斜面へ入ると様相は一変、一気にかなりの登りとなる。スノーシューは年末に秀岳荘で買ってきて、たった今値札を外してきたばかり。過去にも数えるほどしか使用経験がない道具。この道具の初心者としてIkkoさんに急斜面の登り方を尋ねたところ、基本直登とのこと。クランポン(爪)を斜面にけり込んで登るらしい。こんな急斜面をスノーシューで登るのは初めてで、その感覚がなかなかつかめない。登山靴でのキックステップであれば上手い具合に力が伝わるのだが、この日は長靴、しかもこの道具とのセットとあってはそうそう上手く行くはずもなく、やたらとずり落ちるばかりだ。スキー登高とは登り方もルート取りも基本的に違うようである。先を行くIkkoさんのステップを崩さずさぬよう騙しだまし歩を進めるより他にない。

 急登続きで変化に乏しいこの登りだが、背後に見えるサワンチサップの迫力ある姿のみがせめてもの癒しとなる。サワンチサップはマクワンチサップよりも50mほど標高が低く、この山が高く見えているうちはまだまだである。この先、斜面が何となく緩くなるようにも見えるが、これは私の希望的な観測に過ぎない。ここは我慢のしどころ、木々につかまりながらも焦らずに標高を上げて行く。

三等三角点「硫黄山」と金麦
マクワンチサップ_ピークから硫黄山 (Ikkoさん提供) 三等三角点「硫黄山」と金麦

 コンタ450mを過ぎる頃から少しずつ傾斜が緩み、かなり歩きやすくなる。最初の変化とも言える緩い沢形を過ぎると頂上から伸びる派生尾根への登りである。そのまま進んでも頂上へは到達するだろうが、ここは一息入れたいところ。見通しが良いこの派生尾根への斜面はエゾシカの生活の場となっているようで、縦横無尽に彼らのトレースが刻まれている。彼らが、風が避けられる深い樹林帯ではなく何も無いこんな吹さらしの雪面を好むのは、食料に困窮するこの時期、食することの出来る樹皮が近くにあるのか、あるいは敵をいち早く発見して自らの身を守るためなのか、いずれにしても食害問題等で狩猟の対象となっている彼らだが、我々以上に必死に生きているということだけは確かである。

 尾根上は広く緩い雪面となっていて、程なく樹林帯に覆われた頂上丘が現れる。ひょっとしたら樹林帯の中の展望の全くない三角点かも… つい、そんな気分にもさせられるが、上って行くうちに樹林帯が途切れて広い雪原に変わる。頂上と思われる高みが現れ、よく見れば三角形の黄色いプラスチック製の標識が立てられていた。やった!心の中だが、ついそう叫んでしまった。午前のアトサヌプリからは何とも遠く感じられていただけに正に嬉しさの倍返し、満足感たっぷりの登頂となる。目線より低い位置は樹木が視界を遮っているが、頂上らしいこの開放感は何より気持が良い。Ikkoさんはビューポイントを探して反対側へと下って行く。良い写真を撮るためには労を惜しんでいてはダメということだろう。確かに少し下ったところからは午前中に登ったアトサヌプリが遮るものなく望むことが出来た。日も翳り始め、さすがにこれから3山目のサワンチサップへと向かうには無理がある。足を引っ張ってしまった側としては大変申し訳なく感じたが、この日はここまでとさせてもらう。サワンチサップとポンポン山はまた次の楽しみとしたい。(2014.1.2)

【参考コースタイム】 つつじヶ原 P 11:25 →  マクワンチサップ頂上 14:05、〃 発 14:25 つつじヶ原 P 15:35   (登り 2時間40分、下り 1時間10分 )

メンバーIkkoさん、saijyo

<最初へ戻る