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   前富良野岳(1625m)

山麓から見た前富良野岳

 1/25000地形図 「本 幸」

前富良野岳への最後の登り
原始ヶ原登山口まで入ることができた
原始ヶ原は未だ雪渓に覆われていた
原始ヶ原から尾根に取り付く
頂上の肩へと続く雪渓に出る

 前富良野岳について言えば、山名がよくない。この名を最初に耳にして、富良野岳の派生尾根上のコブか前衛峰程度の山といったイメージを思い浮かべてしまう。確かに富良野平野辺りから見た場合、富良野岳と比べれば明らかな標高差があって、そう思われても仕方がないと納得できる。だが、実際に登ってみた感想としては、それなりに離れており、独立した一山といった風格と雰囲気があり、この両山は同格といってもよいほどのなかなかの山だった。

 雪渓のつながりがかなり怪しくなるこの時期、今週が限界かもしれないとIkkoさんが計画した山行計画に参加を申し出る。タフなIkkoさんはこの山を経由して旭岳までの往復を考えているようだが、稜線上となればさすがに雪渓など残っていないはず。さらにハイマツ漕ぎともなればそうそう容易には進めず、前富良野岳までとどけば御の字と考えていた。この山には登山道がないため、雪渓を利用しての場合は、やはり登山道が利用できる北東面側の原始ヶ原を経由するルートが最右翼となる。

 すっかり雪が消えて初夏を思わせる原始ヶ原登山口だが、我々の車2台のみ。晴天の予想にもかかわらず、十勝連峰は雨雲が残ったままの状態にある。Ikkoさんとのコンビとしては珍しく、しっかりと整備された登山道に快調に歩を進める。途中、南面の沢の出合を通過するが、Ikkoさんはちょうどこの時期のここからの山行記録をネット上から引っ張ってきており、同じルートからの登頂を考えていたようだ。沢筋には雪渓が残っているかもしれないが、踏み抜きでもしたら万事休すとなる。私としては沢筋登高のリスクを考え、ここからは入りたくなかった。参加させてもらった身として強いことを言える立場にはないが、ここは強く主張してしまった。原始ヶ原への途中1ヶ所、融雪で増水した川を渡らなければならない場面があり、ちょっと厳しいかと思ったが、よく見れば簡易的な渡渉ルートが作られており、さすがにそんなところは登山道である。そうこうしているうちに原始ヶ原到着となる。

  有名どころでもあり、ひょっとして登山者がいるのでは… と思ったが、やはり我々のみである。原始ヶ原からは季節が完全に逆戻り、まだまだ雪渓上の行動となる。道内屈指の高層湿原であるが、単なる雪原とあればさすがに訪れる人もいないのだろう。もっとも、5年前のワタスゲが真っ白な綿帽子を付ける6月に入山したときにも他の登山者はみられなかった。自然豊かな素晴らしいルートであるにもかかわらず今ひとつ人気がないのは、富良野岳への登頂を目的とした計画であれば、少し遠回りといった印象が強いのかもしれない。単なる雪原でも雪渓を狙ってきた私としてはしてやったり気分である。まだまだ早春といった感じの中、北へと針路を取る。

頂上直下からトウヤウスベ山と大麓山を望む 前富良野岳に立つIkkoさん

  当初は一番可能性が高い富良野岳から続く北東尾根からのアプローチで考えていた。ガスがかかって頂上までは見えないが、すぐ先の尾根上にも頂上近くまで雪渓が続いているように見える。易きに流されるのは人の常、結局、この尾根に取り付いてみようとの話になる。標高を徐々に上げると原始ヶ原を中心にトウヤウスベ山、大麓山、下ホロカメットク山等のなじみの山々が背後に広がる最高のロケーション。こんな時期の山歩きは最高だ。思惑通り、雪渓が繋がり順調に標高を上げて行く。 と…、前方を見たところ、さらに先へと続く雪渓が見当たらない。ひょっとして袋小路?… 目を皿にして辺りを見まわすが、前方は完璧にハイマツに塞がれてしまった。ゴーロが雪渓に埋まったような場所で、岩に上がって次の雪渓を探す。北側100mくらいのところに雪渓を発見! だが、ハイマツを漕いでそこまで行くのはちょっときつい。仕方なく、潅木帯を選んで、上へ上へと進む。時折現れる雪渓をつなぎながらも右へ右へと移動、何とか見えていた雪渓の上部に無事到着、ほっとひと息つく。

 意外な苦戦に自分の読みの甘さを感じるが、前富良野岳へは到達できそうなので、結果良ければ全て良しである。頂上の肩まで急な雪渓をスパイク長靴の頼りないキックステップで乗り切る。とは言え、Ikkoさんはいつもこれなのだから、慣れとは凄いものだ。肩付近では飛ばされそうな強風、飛ばされぬよう低い姿勢を保ちつつ風下となる表側へと回り込む。ここでこの日初めて前富良野岳ピークとのご対面となる。空へと突き出る三角形の山容は晴らしいの一語に尽きる。もっとも、日頃は藪山低山ばかり歩いているので、それとの比較でそう感じたのかもしれない。最後はIkkoさんを先頭に、稜線上に残る雪渓をつないで前富良野岳のピークへと飛出す。私はこれで十分。だが、Ikkoさんの気持は旭岳往復へと向かっている。ネット上の記録では2時間もあれば往復可能のようだが、今の私にはそんな気力などはないし、正直なところサバイバルな行動自体にも興味が湧かなかった。

ご存知「金麦」  ・・・うっかり、撮影前に開けちゃった
ご存知「金麦」  ・・・うっかり、撮影前に開けちゃった

 頂上の展望は予想を遥かに超える素晴らしさである。緑の富良野平野の向こうには雪渓の残る夕張山地の山々、振り返れば原始ヶ原を中心とした山塊とそれに続く十勝連峰や大雪山等、山座同定の材料にはこと欠かず、しばし時を忘れてしまう。Ikkoさんの思いは痛いほど伝わってくるが、今の自分には山でさえこれ以上は苦痛以外の何者でもない。まずは一刻も早く職場から離れてゆっくりとすること。ないものねだりかもしれないが、これが事実である。「あと11ヶ月だよIkkoさん、その時にはぜひ旭岳まで行こう」、正直そんな思いであった。

 Ikkoさんは南面の沢ルートを確認したい様子。であれば、行ってみますか!… ついそんな気分にもなる。こちらはかなり下まで雪渓が続いており、登高ルートで使った東面よりもかなり残っていそうな感じである。高い地点から見ていることもあって、沢の両側はどこでも逃げることが出来そうな気がする。急な雪渓を走るように下ると谷地形がぐんぐん近づいてくる。それと共にいつでも逃げられるはずだった両岸の斜面がぐんと立ち上がってくる。やはり沢は沢。だが、沢の雪渓を下る以外に術はなく、もはや選択の余地などない。隠れた滝などで雪渓を踏み抜かぬよう、心持V字の中心を外しながらも慎重に下って行く。そうこうしているうちに登山道まで残り500mを切って枯沢状態となる。この時期ならではの雪渓利用の快適さに、往路の苦労はいったい何だったのだろうとつい考えてしまうが、それはあくまで結果論。ネットの情報をあまり見ない私としては正攻法を取っただけのこと。あれでよかったのだ、あれが正解だったのだと自分に言い聞かせながら、かなり近づいた登山道へと向かった。(2015.5.24)

参考コースタイム】原始ヶ原登山口 P 7:55 →  原始ヶ原 9:00 前富良野岳頂上 11:05、〃発 11:45 登山道合流地点 13:25 原始ヶ原登山口 P 14:00   (登り3時間10分、下り2時間15分)    

メンバー】Ikkoさん、saijyo

山行写真

 

原始ヶ原への登山道にて (Ikkoさん提供)

原始ヶ原に到着 (Ikkoさん提供)

登りの途中、下ホロカメットク山をズーム

頂上から旭岳と富良野市街を望む

頂上にて

頂上からのパノラマ写真  左から富良野岳、下ホロカメットク山、原始ヶ原、トウヤウスベ山 (Ikkoさん提供)

頂上から南西尾根と富良野平野、旭岳(右)  (Ikkoさん提供)

 

下降途中から前富良野岳を振り返る

 

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