<戻る

       苦茶古留志山(997.7m)

 

 1/25000地形図「二岐岳」

F1 に続く小滝を行く
520m二股付近は伏流となって枯れている
ここから先fは枯滝の連続となるが、全く撮っていない
核心部を過ぎると鬱蒼としてくる
苦茶古留志山へと向かうシャトルバスの中
幌尻橋がスタート地点
行く手に現れるF1
倒木を使って難なく通過

  2010年に盟友のKo玉氏がひょんなことで入院生活を送ったが、このリハビリ中の書き込みの中で目前に迫った日高全山登頂計画の仕上げについて気を吐いていた。そのResで、私が残る日高の山の中で比較的厄介そうな山として挙げたのが岩内岳と苦茶古留志山であった。そしてあれから2年が過ぎ、氏が日高山域で未登頂の山として最後に残ったのがやはりこの二山であった。ひとえに全山と言っても、これは100mにも満たない山も含む全てで、地形図上に名が無くても多くの人達から認知されていればその都度その山も含めていったから完璧である。いよいよその残る二山のうちの苦茶古留志山への計画遂行となる。

 ところが、この山へは新たなる難題が生じた。そのアプローチで、自由に車を走らせることが出来なくなったということである。深田久弥「日本100名山」の一つである日高・幌尻岳がこの山の奥に位置しているため、シーズン中の糠平・幌尻林道の通過車両が極端に多くなったようで、通行の安全や環境保全が難しくなったというのがその理由。代わりに旧豊糠中学校(とよぬか山荘)と幌尻岳への第一ゲート間にシャトルバスを走らせるというもの。往復で3500円、バス代がかかるのはしかたがないとして、当の日高・幌尻岳ならいざ知らず、日に3本しかない運行ダイヤにこの山への登山時間を合わせなければならなくなったことについては何とも割り切れなさを感じる。そうは言っても、どうしても行かなければならないのが今回の山行、Ko玉氏の入念な計画の下このバスに乗る。

  苦茶古留志山へは少し手前の幌尻橋で降ろしてもらう。幌尻橋で下山後のバス待ち用のビールを冷やし、すぐに水量のないクチャコルシュナイ沢へと進んで行く。Ko玉氏の話では、沢の途中までは崩壊はしているものの林道(ルシュナイ林道・1305m)があるとのこと。ただし、わざわざ林道へとまわるのも億劫な話で、流れが小さい割には河原が広く歩き易いこともあって、そのまま進むことにする。イラクサ?が多い河原は油断するとズボンや手袋がその毛様体でいっぱいになる。触った部分がしびれるのでイラクサ科の植物であることには違いないが正式なところは判らない。約20分で右から左へと川を横断する前述の林道とぶつかる。この時はこの荒れた林道が後で役に立つとは思ってもいなかった。

 それなりに時間がかかるものと思っていたが、その予想に反して470m二股へは約30分で到着する。急ぎ足だったためか、私は最初の420m二股を確認してはいない。日高の沢でもあり、地形図を見た限りではそれなりの困難を予想していたが、ここまでの感じではKo玉氏と行くいつもの藪山と何ら変わりはない。二股を左に入って直ぐに3〜4mの小滝が現れる。左岸側の倒木を伝って簡単に通過するが、Ko玉氏に誘われた山としては思いもかけない変化といえる。なんせ今までには山行中最大の滝でも50cmというのもあったし、そもそもスタートから藪が被った枯沢というのもあった。ピーク最優先の氏の登り方としては当然といえば当然で、これこそがピークハンターの真髄といえるし、偉業というのはこうした地道な積み重ねから生まれるのだろうとも思う。ただし、一般的な面白さという面で考えればやはり今一で、同伴者のリピーターが少ないのも事実である。

 次の520m二股は沢形が頂上に一番近いところまで突き上げる左股に入ることにするが、水は枯れている。Ko玉氏は用意周到で、伏流となっていると知りつつも保険代わりに水を汲んでいる。私はチロロ3(旧姓naga)さんから氷入りの水をもらって飲み、次の水分補給は頂上ビールで十分と考える。藪漕ぎと水の関係は微妙で、それぞれの経験則から成り立っている。もちろん地形図の読みや天候、個人差もあると思う。小沢を進むと直ぐに流れが戻ってくる。滑りやすいが、フェルトであればそんなに微妙でもない。ただし、枝沢を見る限りでは詰めの急登が予想され、藪山では必需品といわれるスパイク地下足袋に履き替えることにする。もちろんヌルヌル対策としてもこちらの方が優れている。

 予想外の短時間で頂上へ程近いV字型に切れ込んだ小沢に到達する。流れは再び消えるが、ここからが核心部となる。登って登れなくはないナメ滝(水は流れていないので枯滝がよいかもしれない)が次々と現れる。階段状ではつまらなく、全く登れない滝でもこのように高巻くのが難しい地形では難儀しそうだ。一箇所、一番大きな4〜5mのものが出てきたが、少々微妙なところがあってそれなりの登り応えを感じる。ザイルをセットするほどではないので、ここは“お助け紐”で切り抜ける。山行中で、登っていて最も満足感を感じた場面である。

 ついでだが、最も危険を感じたのはその直後、先頭を行くKo玉氏の「落石! 落石!」との悲痛な叫びを聞いた時だ。正直なところ、この瞬間「またか…Ko玉さんはいつも大袈裟なんだから」と思った。だが、周りの空気が違う。自分に「冷静に…」と言い聞かせ、落ちて来るものを見極めようと構えた。小熊を思わせる黒い塊が加速して猛スピードで転がってきた。思わず左側へ一歩足をずらしてこれを交わす。当たっても死ぬことはなかっただろうが、少なくてもヘリのお世話くらいにはなっていただろう。ともあれ、メンバーのだれもがこれに当たらなかったのは幸いだった。

 そろそろ頂上に到着するだろうと思ったが、細々と続く沢形はなかなか終わらない。そのうち、これこそ最後と思われる二股が現れる。何を勘違いしてしまったか、そのまま二股の真ん中を直進、低い笹薮の急斜面を進んでしまった。スパイク底に換えたたため、つい私の気持に慢心があったのかもしれない。私も山に来ればまだまだ少年の心の持ち主ということなのだろう。すぐに詰めた先が高そうな右股へと軌道修正、そのまま不明瞭になった沢型へと入る。今シーズンは藪を前進する時の足が妙に軽い。愛犬サブローの散歩の時に日頃から大腿四頭筋を意識的に鍛えていた成果といえるだろう。

深い藪の中を進む いよいよだ。 笑わぬKo玉氏だが、口もとは・・・
苦茶古留志山の頂上風景はいつもの藪山と変わらず 三等三角点「苦茶古留志」、最近はWeb上で見かける

 二番手のチロロ2さんが前を塞いでいるために飛び出せずにいる面々を横目で見ながら、私は頂上直下の稜線上へと一気に抜ける。あとは一番高そうなところへと軽くひと漕ぎである。当然のことながら、この山行の主役はKo玉氏、この日の登頂の一番乗りは彼に譲るべきところだが、彼がそんなことで喜ぶ男でないことは過去の山行を見ても明らかだ。取って付けたようなお膳立てなど無い方が良い。彼が本当に喜ぶ状況とは、皆が必死に探したがどうしても見つからない三角点、これを彼の登場によってすんなりと発見する、そんなヒーローチックなストーリーが展開した時のみである。藪山メンバーの誰もが三角点のゲットに熟練してしまった現在、これがなかなか難しい。私はそのまま頂上へと向かい、一番乗りを決め込むことにする。三角点はだれが見てもすぐに判るような状態で私の目に飛び込んできた。

marboさんが釣り上げた30cm以上のイワナ

  奥深い“日高の沢”といったイメージとは裏腹に、1000mにも満たない標高、特段困難な滝もなく水量が極端に少ない沢、藪や樹木に囲まれて視界の利かない頂上と、いつもと変わらぬ藪山の姿がここにはあった。であればと、marboさんが提案していたルートを使っての藪尾根下降となる。Ko玉氏が二番手に付き、先頭に指示を与えながら下るいつもの光景である。この山域もご多聞に漏れずシカが多く、シカ道が発達している。ところによっては登山道以上に明瞭な箇所もあり、時には作業道跡まで現れたりする。ヌルヌルした沢を真正直に下るよりは遥かに効率が良いのは言うまでもない。最後はピンポイントでの420m二股への下降となるが、沢への最後の下りだけが少々不安なところ。広い急斜面の下りは気持が良く、ぐんぐん下ることができる。かなり下ったところで荒れた林道に飛び出した。こだわればさらに二股まで下りたいところだが、覗き込めばこの先はスッパリと落ちていた。この林道が仮になかったとしたら、最後はザイルのお世話となっていたかもしれない。この荒れた林道を辿って行くうちに前述の林道が川を跨ぐ地点に飛び出した。ここから幌尻橋まではいくらもない。冷えたビールでも飲みながらゆっくりと帰りのバスでも待つことにしよう。

 …そうそう、この日はヘリの飛び回る音がけっこう聞こえていた。隣は日本100名山だから取材でも入ったのかな…と思ったが、ひょっとして動けない登山者でも出たのかな…とも思った。帰宅後のテレビで知ったが、神戸から来ていた登山者が行方不明になっているらしい。本州方面からの登山者が多い日高・幌尻岳、多くの人達がとりたてて深田久弥の日本100名山にこだわる意味など、どこにあるのだろうか。各人それぞれが、それぞれにとっての100名山を目指せば良いことだと思うし、その貫徹こそが本当に価値あるものだと私なら考える。Ko玉氏であれば日高の全山どれもが立派に価値ある一山で、彼にとってそれは日本100名山以上に思い出深い貴重な山々ばかりである。言うなれば、自分自身の山とどれだけ主体的につきあっているかということに尽きるだろう。ともあれ、Ko玉氏の日高全山登頂(日高の山はぜ〜んぶ登ったよ〜状態)まで残るは一山、いよいよ次回は彼にとっての決勝戦だ。日取は九月吉日、はたして…? (2012.8.5)

「大好き!Mt.Onne」 marboさんのページへ

【参考コースタイム】幌尻橋 7:15 470m二股 7:45 → 苦茶古留志山頂上 10:20、〃発 10:55 幌尻橋 13:15   (登り3時間5分 下り2時間20分 )

メンバーKo玉さん、marboさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga) 

<最初へ戻る