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      クテクンベツ岳(995m)

1/25000地形図「俣落岳」

クテクン滝群の真骨頂とも言える三方向からの滝
立派な看板の立つ林道終点広場に車を停める
クテクンの滝までの沢歩きは観光の域を超えている
景勝地・クテクンの大滝

 クテクンベツ岳という名の山は国土地理院の地形図にはない。クテクンベツ川水源の995m峰のことであるが、形が良く、地元中標津や釧路の山岳関係者の間では日常的にこの名で呼ばれ、大いに親しまれているようである。現在の地形図には標記されていないが、クテクンベツ岳の名は松浦武四郎の「知床日誌」の中では既に登場していたと、以前にこのHPの掲示板に書き込みがあった。古い記録で、山の位置の確定は困難なようだが、武四郎の見ていた位置から考えればクテクンベツ川上流の995m峰が最右翼に挙げられるとのこと。クテクンベツ岳のように地形図には最初から名はないが古い文献には載っていて、しかも地元のコンセンサスを得ているような状況であれば、正式名称としても良いような気がする。アプローチとなるクテクンベツ川には中標津町の景勝地として名高いクテクンの滝があり、多くの人達が訪れているようである。この大滝を含め数多くの滝が連続するクテクンベツ川からクテクンベツ岳(995m峰)へと続くルート、評判を聞いて前々から一度は訪れてみたいと思っていた。

  登山口となる林道終点には新しい立派な看板が設置され、さぞかし整備されていると思いきや、遊歩道に一歩足を踏み入れた途端、藪の中の踏跡へと姿を変える。看板を見てとりあえず入ってはみたが、心細い踏跡に途中で引き返す観光客は大勢いることだろう。5分も歩くと河原への下降地点となる。斜面の状態は悪く、ロープが無ければ登り返すことすら難しそうだ。目指す大滝へは一般の観光客が軽い足廻りで入るには困難と思われる100%の沢歩きが約20分続く。左岸が柱状節理となった大岩壁が現れ、上流奥に25mとも言われているクテンの滝が現れる。興味のみでここまでやって来る観光客がいたとすれば、大したものである。

山行中に目立ったチシマノキンバイソウ 
山行中に目立ったチシマノキンバイソウ  ミソガワソウも今が時とばかりに咲き誇っていた

  山頂を目指す我々の楽しみはここからが本番である。右岸側の小沢からこの大滝の大高巻きが始まるが、いつもの沢山行と違うところといえばトラロープが設置されていることと、標識が打ってあるところだ。巻きルートの小沢を40〜50mも上がっただろうか、笹薮の急斜面にロープが張られているところへ到着する。ロープを伝って泥斜面を攀じ登るが、フェルト底ではズルズルといった状況だ。続く竹薮もかなりの粗刈りで、ここを乗越すだけでも藪山山行の領域といえる。続く約10mのナメ滝には右岸側に巻道があるが、右岸側の水流を直接登ることも可能である。次々と現れる滝、両岸が狭まり、右岸左岸とけっこう微妙なへつりを繰り返す。ゴルジュ状の滝上へと飛び出すと、三方向から滝が落ち、まるで仙人が瞑想にでも耽るような場所に出る。

  我々もここらで一服と一息入れるが、まだまだ先は長い。さらに2〜3低い滝が続き、取り付けそうもないスダレ状の第7の滝が現れる。左岸手前のルンゼ状から滝上へと藪漕ぎするのがセオリであろうが、ここは我々も滝の際にぶら下がるトラロープを頼りに登ってしまう。あるものは使用したいというのも情理だが、基本的なところで言えば、残置されたロープに加重することはある意味自殺行為と言われている。多くの入山者が我々と同じ行為を繰り返さないためには、Ota氏が言っているように「設置するのであれば徹底的な管理を、管理できないのであればロープをすべて撤去すべし」といった意見が妥当な線と思われる。結局、我々も30mロープを持参したにも関わらず、一度も出すことはなかった。クテクンの滝を始めとする12の滝の様子はWeb上「中標津郷土館・夏のクテクンの滝」に各滝写真入で詳しく載っているので、そちらを参照した方が良いだろう。ただし、知りすぎると沢山行の面白さは半減するので、これからこの沢を遡行しようと考えている沢好き諸子は、この山行記を覗く程度に留めておいた方が良さそうだ。ともあれ、クテクンベツ川の連続する滝は素晴らしく、どの滝も沢ヤにとっては魅力たっぷりである。

クテクンベツ岳頂上は大岩の上・・・どうしてか、揺れていた

  コンタ590m二股で現れる左右を行ったり来たりの滝、ここが実質上の核心部終点である。核心部を過ぎて、最後の低い滝はあるが平凡な沢相となる。コンタ660m二股の右股入口に赤布が下がっているが、これはクテクンベツ岳用ではなく、左股が正解である。付近の様子としては、浮石が少なく比較的歩きやすい沢といえる。水流はなかなか途切れず、前方にコル付近が確認できそうな地点まで延々と続いている。水流が切れると、今度は登山道のようなしっかりとした沢形がさらに細々と続いている。踏跡があるといわれている稜線へ逸早く飛び出そうと藪へ突入するが、後で知ったが、そのまま素直に沢形を詰めた方がすんなり登頂できたようだ。頂上の東面は急斜面となっているため上手に回り込んだつもりではいたが、笹薮がハイマツ帯へと変わり、この日一番の藪漕ぎを強いられる。あると言われている踏跡へは運良く飛び出したが、下山時にその踏跡を辿って確認したところ、結局、我々が辿った“枯れた沢形の登山道”へとつながっていた。

  踏跡は登山道と言っても良いくらいに明瞭であるが、途中一部で不明瞭となっていて、辛抱強く見極める必要がありそうだ。頂上にはどこからか運んできたような大岩が2つあり、その上が最高地点であり、正しく頂上である。地形図上の標高点は数十メートルほど先であるが、高さでは大岩の上が一番高く、大岩が頂上であることについては間違いない。標高点よりも23mくらいは高く、正しいクテクンベツ岳の標高は997998mといったところだろう。以前に見たガイドブックで“藻琴山の頂上に一升瓶を立てるとちょうど1000m”というフレーズがあったが、ここでは脚立が必要のようだ。私とOta氏は札幌から不眠不休で車を運転してきたためか、岩が風によって動かされているように感じられたが、この大岩が動くはずはなく、寝不足という同じ環境下での感覚的な共鳴と思われる。ガスさえなければ、標津原野や標津山地の展望を欲しいまますることができる大パノラマ、しばらく待つが、遠方の客に対して笑ってくれることはなかった。(2008.7.19)

sakag@函館さんのクテクンベツ山行記へ     ■Otaさんのクテクンベツ山行記へ 

【参考コースタイム】クテクンの滝・登山口P 6:10 クテクンの滝 6:40 クテンクベツ岳頂上 9:20、〃発 9:55 クテクンの滝 11:40 クテクンの滝・登山口P 12:40   (登り 3時間10分、下り 2時間45分、※休憩時間含む)

メンバー】sakagu氏、Otaさんsaijyo

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