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      屏風(1792.2m) ・・・九滝ノ沢から

930m二股から見た屏風岳

/25000地形図「大 函」

1040m二股からは記憶には無いが滝の連続となる
源頭を登る
ニセイチャロマップ川・林道に車を停める
ニセイチャロマップ川・林道に車を停める
三つ目の滝はゴルジュの滝
コンタ890mの最大15mの滝
滝の左岸を登るsakagu氏

道内には“屏風”の名が付く山は9座あるが、ここ北大雪の屏風岳は最も標高が高く、山容も大きい。特に残雪期に大雪ダムから望む姿は圧巻であり、あまり登られないことが不思議なくらいである。この山の名を最初に目にしたのは日本登山体系「北海道・東北の山」(白水社刊)で、約15年ほど前のことである。九滝ノ沢からのルートを紹介しているが、情報が少ない当時としては新鮮な山域であった。所属していた山岳会では話題にもあがっていなかった。どうしても登ってみたかったため熱心に誘いかけた結果、会のメンバー5名でこの山を目指すことになる。当時の大雪営林署の入林許可は厳しく、30分近く電話にて粘ったあげく、副所長という人が出てきて、今回限りとの条件付きで入林許可をもらう。森林管理所と名前を変えた現在、事情も随分と変わったようで、わりと簡単にもらえるようである。ゲートの鍵も洒落たものに変わったが、番号だけは当時のままであるところが面白い。当時としては出合の砂防ダム越えで苦労した記憶がある。930m二股は流木で埋まり、水面がやたら遠かったのを覚えている。白水社の登山体系では右股が滝が多くて面白いとなっているため、右股へルートを取るが、最後の根曲がり竹が予想以上に強烈で、頂上部と思えた尾根越で水不足により敗退している。登頂できなかったこともあり、記録らしい記録は取らなかった。記憶についての自信はあったが、今回入山して当時とは随分と違った印象を受ける。記憶は記憶であり記録には及ばないということを痛感させられた。

メールにてsakag氏(一人歩きの北海道山紀行・管理人)から屏風岳山行の予定を頂く。時同じくして網走・伊藤氏(知床半島の山と沢・著者)の掲示板への書き込みがあり、見れば双方とも8月8日の予定となっている。何かの縁であろうか、以前から気になっていたリベンジでもあり、急遽職場から休みをもらい参加を決める。もちろん目指すは九滝ノ沢である。九滝ノ沢の名称もニセイチャロマップ第一川の名称も以前の地形図には載っていなかった。後者は最近になってから地形図に登場した名称であり、おそらくは旧建設省で砂防ダムなどの建設にあたり、名がない沢では書類上不便とのことで、便宜上ニセイチャロマップ川の名がない最初の川を第一川としたのであろう。我々山ヤとしては、九つの目立った滝?がある「九滝ノ沢」を正式名称としたいものである。

出合の砂防ダムは踏跡が付いていて簡単に越えられる。ここを過ぎると右岸に明瞭な踏跡がある二段の滝が現れ、直ぐに次の砂防ダムが現れる。滝の直ぐ上部に建設されていて、地形的にもどうやってこれを建設したのかが判らない。古いこともあり、建設当時はどこかに工事用の連絡道路があったのであろう。巻かなければ乗り越えることは不可能であり、右岸から巻くことにする。薄っすらと踏跡がある。ここを過ぎると平凡な流れとなるが、5分もたたぬうちに両岸が迫り、次のゴルジュの滝(10m)が現れる。未知のルートとの違いは、直登できそうもないところには必ずどこかにしっかりとした巻ルートがあると判るところである。こんなルートでは滝を見て無理と判断すれば、直ぐに頭を切り替えると時間的なロスは少ない。以前にはヒグマとニアミス(足跡と水の濁り)した付近である。数日前に美幌のH氏が入っているとの情報があり、なぎ倒された蕗もヒグマによるものではなく氏のものであることが判っているだけに余計な屈託もない。

滝を越えるとしばらくは平凡な河原歩きが続く。もう少し早い時期か、晩秋であれば上手にショートカットしてのルート取りが可能であるが、この時期では蕗もイタドリも鬱蒼としていて、水際を進んで行く方が楽なようである。再び両岸が迫るコンタ890m付近まで進むと、以前の記憶にあった15m程の大きな滝が現れる。記憶では右岸の傾斜の緩い階段状の岩床を登っているが、実際は左右が反転していた。記憶とはこんなものである。左岸には少し手前から巻きルートもある。この滝を越えると直ぐに930m二股である。以前は流木で埋め尽くされていて、しばらくは流木渡りであった。長い年月の間に朽ちてしまったのか、流されてしまったのか、現在はかなりスッキリとしている。流木の下に見える流れの中には数多くの魚影がみられたが、今では全く魚の姿はない。左股へ入ってしばらくは当時の名残がみられる。かなり細くなった水流で続く1040m二股を見落す。後続メンバーの指摘によって事無きを得るが、記憶に重きを置いてしまった雑なルートファインディングは今回の反省材料の一つである。頂上へ向う小沢は下降に使っており、難なく下降した記憶がある。ところが、登って行くうちに小滝が連続し、コンタ1200m付近では直登不可能な滝が現れ驚かされる。

頂上まで200m、砂礫地をつないで稜線へ
頂上まで200m、砂礫地をつないで稜線へ 屏風岳頂上に到着
頂上から望むニセイカウシュッペ山方面 下りのルートに滝は多いが、どれも巻くことができる

 

1250m付近に現れる7〜8mの滝は直登できないが、左岸のバンド状を伝って上部へ抜けられそうだ。ここのところ登攀に気を吐くチロロ3さん、躊躇することなく先頭に立ち、難なく上部へ抜けてしまう。見た瞬間に巻こうと思っていた私も、彼女に登られてしまっては登るしかないようである。しかし、登ってみると意外にしっかりとしていて、薮を漕いで高巻くよりは遥かに楽であった。先行したチロロ3さんによると、滝の落ち口付近で水流の反対側にスタンスを取れば安定した登りが出来るとのことであるが、今シーズン未だ感覚的に乗り切らない私としては、そこまで目を届かせる余裕はない。やはりシーズン始めのウォーミングアップが重要であると痛感させられる。 続く1300m付近の滝も直登するが、中間のフェイスまでのルート取りに甘さがある。取り付きは良いが、フェイス直下の水流の横切りで苦労させられる。ルートファインディングが甘いと言われればそれまでであるが、目先の変化に追いついていないようである。ザック内の濡れ対策を怠っていたことも微妙に影響してしまった。さらに上部では、枝につかまってやっと抜けることが出来る始末である。沢登りといったシビアな登山ではもう少し真剣に取り組む必要がありそうだ。

滝らしい滝はここまでで、さらにスラブ状の枯れた小滝が現れるが、滑ってもすべり台程度であり、全く危険はない。源頭付近はチシマキンバイが咲き乱れるお花畑となっていて、真夏の青空とのコントラストが実に美しい。我々が独占している別天地であり、マイナーな山を目指す者のみが享受し得る特権と言える。さらに詰めると低い笹藪漕ぎとなる。頂上まで距離にして200〜300mといったところであるが、さすがに疲労のためか足が上がらない。運良く見つけた砂礫地をつないで、なんとか稜線へ抜ける。 ハイマツを避けて北側から回り込むと、三角点の周りが刈り分けられた頂上である。頂上からの展望は予想通りに素晴らしい。Sakag氏が独立峰のような感じと言っていたが、正に独立峰の展望と言える。ニセイカウシュッペ山を中心とした山塊、武利・武華の大きな山並み、ニセイチャロマップや支湧別岳など、さらには表大雪の雪渓が雲間から顔を出している。“○風さん”の頂上標識がここにもある。ガイド登山で登ったようであり、ガイド会社の名前入りである。このくらいのものでは生態系には傷をつけないといった意見もあるようだが、生態系の問題ではなくマナーの問題である。句を残すのであれば、本やネットで公表してみてはどうだろうか。山には山のマナーがあり、否応なしに見せ付けられる句は、句そのものの値すら地に落としているようにも感じられた。

下りは以前に登りで使った右股の沢へ下る。詰は以前同様になかなか濃密な笹薮となっていて、決して登りでは使いたくない感じである。途中からガレ沢となり、これを一気に下ると1200m二股となる。930m二股までの帰路、滝が数ヶ所ほど現れるが、どれも巻くことができる。ただし、時期的なものなのかヌメリも多く、ナメ床やナメ滝では十分な注意が必要である。15年ぶりの九滝ノ沢は、頂上が近づいた時には一時、水不足で届かなかった以前の記憶がトラウマとなって甦ったのか足がかなり重く感じられた。しかし、山行全体を通してみて、その後の藪山経験がものをいっているのか、15歳ほど年をとった現在でも当時よりは遥かに余裕があり、短く簡単なようにも感じられた。 (2006.8.8)  

■同行して頂いたsakagu氏(一人歩きの北海道山紀行)山行記

 参考コースタイム】 林道・駐車地点 5:25 → 930m二股 6:30 → 左股経由 → 屏風岳頂上 10:25 、〃発 11:20 →  930m二股 14:05 →  林道・駐車地点 15:15 

メンバー】sakag氏、網走・伊藤氏、kuriさん、saijyo、チロロ3(旧姓naga)

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