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   熊 山(723.4m)

深山峠から見た夕闇迫る熊山

1/25000地形図 「瑠辺蘂山」「野花南」

かなり悪そうな林道を進むが、ここが限界

  旭川と深川、芦別に囲まれた地味な山塊が幌内山地と呼ばれる一帯で、熊山はその中でもさらに地味な一山だ。熊山という山名からはもちろんヒグマが想像され、そのためかどうかは判らないが、夏の登山者などいるものかと言わんばかりの頂上標石を見てきた。確かに、この山へ登るためには、一番近い林道からでもいわゆるブタ沢遡行となり、深い藪漕ぎや、これまた全く期待できそうにない展望など、敢えてこの時期に登りたいと思わせる理由など、どこにも見当たらない。だが、我々がこの山へと向かった理由として、何気なく見ていたgoogleマップの航空写真に、地形図上では描かれていない幻の林道が写っていて、しかも、それが熊山の近くまで入っているという事実である。そうなれば実際にこの目で確かめてみたいと思うのが人情というもの。

稜線上は背丈以上の強烈な根曲がりとなる

 道道70号(芦別美瑛線)を美瑛へと向かう。途中からは砂利道となり少々心細い感じとなるが、航空写真に写っていた目的の林道が近づく頃にはしっかりとしてくる。この計画の発案者としてはハラハラドキドキで林道入口に到着する。あった! 写真は嘘をついてはいなかった。林道は入口からすぐにゲートとなるが、カギの番号は開くそのままで、とりあえずは車を乗り入れることにする。轍はしっかりとしているが、ススキが行く手を阻む。ススキを押し倒しながらも車は進んで行く。航空写真では明瞭に写っていたため、完成したばかりの立派な林道を勝手に想像していたが、これは全くの見立て違い、単に樹木が少ないために写し出されていただけであった。林道走行に滅法強いIkko車を必至で追いかけるが、さすがに崩れた路肩の上をタイヤ半分だけ乗せて走る芸当には付いて行けず、私は敢え無くギブアップ。だが、熊山までは600〜700mの至近距離、まずまずの地点までの車の乗り入れには成功したようだ。

  印刷して持参したgoogle航空写真と地形図を照合、熊山西面に広がる植林地を目指すことにする。途中、分岐が1ヶ所、ひょっとして熊山頂上へと近づいて行くのでは?… と思ったが、航空写真の植林地からは未だ遠く、計画通りにそのまま予定の地点まで進むことにする。しかし、植林地への連絡路と思っていた色の薄い部分は小沢で、写真の分析が今一甘かったようだ。結局、途中の分岐へと戻り、少しでも熊山頂上へと近づくことにする。分岐からの道はかなり荒れた状態で、現在は全く利用されてはいないようだ。ヒグマやエゾシカのものではないが、けっこう大きな糞も見られ、気持的に動揺がないと言えば嘘になる。頂上まではわずかに400m、この距離であれば笹薮を漕いでも熊山頂上は落とせるだろうとの期待が膨らむ。

作業道跡は終点、いよいよ藪漕ぎの開始となる
途中、開けた場所でほっと一息。だが、何者かが…
緑の四角柱となった三等三角点「熊山」 金麦では役不足かも…

 そうこうしているうちに先ほど進んだ林道の上部付近でこの作業道跡も終点となってしまった。さて、ここからは笹薮への突入である。思っていたよりは薄い笹薮で、まずまずの進み具合で頂上への距離を縮めて行く。途中、なにやらガサガサと笹薮を掻き分ける音が聞こえ、何かが我々の後を追って来る気配を感じる。距離にして50〜100mくらいだろうか? 速度を上げているようにも感じられる。静かに聴いてみたが、ヒグマやエゾシカのものとも違うようだ。とりあえず、ホイッスルでこちらの存在を知らしめるが、それでもしばらくはその音が続いていた。明らかでない存在はかえって不気味なものだった。思うに、この日は静かで穏やかな天候、あくまで私の想像だが、我々が掻き分けて踏んできた笹薮が元に戻るときの音が頭の中で妙に増幅されて、何かしらの動物の音と錯覚しているのかもしれない。ところは熊山、やはり我々の頭の中には人馴れしたヒグマの姿が存在していたのだろう。

熊山頂上はこんなところ 盆地を挟んで初冠雪の大雪山が見える (Ikkoさん提供)
トムラウシ山をズーム (Ikkoさん提供) 写真中央には深山峠の観覧車が見える (Ikkoさん提供)

 思っていたよりも少し西側の地点で稜線上となる。頂上までは約150mで、あとは稜線上の移動を残すのみである。だが、笹薮が何とも濃い状態で、この日としては一番のアルバイトとなる。体重を乗せなければ前に進む事ができない状態で、笹というよりは竹に近い笹薮だ。先頭を行くIkkoさんは果敢に進んで行くが、ブドウが絡む状態とあっては戻るしかない。一旦戻ってから再び方向を変えて行く。私としても一歩遅れるチロロ2さんを待ちつつ、前進あるのみである。見えない頂上だが、距離的にはどんどん縮まり、一足先のIkkoさんから頂上に到着、大雪山が見えるとの報告。さあ、頂上到着だ! そうこうしているうちに、標石の十字が対角線となっているので三角点ではないとの訂正報告、林班標石か… でも、頂上であることには違いない。Ikkoさんの居る地点に到着してみると二日前に初冠雪となった真っ白な大雪山が木々の間に見事な姿で浮かんでいた。

 ふと見ると、林班界標石から3〜4m先に緑の四角柱を発見、三等三角点「熊山」である。積雪期に登られることはあっても無雪期の登山者はやはりいないようで、誰も標石には触っていないのだろう。見事に全面苔で覆われていた。後で調べたところではこの標石の確認は1974年となっていた。実に40年間の苔がこのような造形を造り出していたことになる。つい、苔を取り除きたい気分になるが、Ikkoさんとチロロ2さんから「そのままにしておこう」との意見、確かにそうであった。次に誰がこの標石を見るかは判らないが、我々が感じた感動は次の世代の登頂者にもそのまま残してやりたい。そんな思いである。

 熊山頂上からは大雪・十勝連峰始め美瑛や上富良野付近の盆地が広がっていた。特に印象的なのが観覧車のある深山峠で、平野のど真ん中の狭いエリアにちょこんと丸いものが見えた。今や人気となっている美瑛のビュースポットであり、多くの行楽客でこの日も賑わっていることだろう。対照的に、こちら熊山はほとんど知られていない単なる藪山の低山である。苔むした三角点「熊山」が次に人間と対面する時点で私がこの世に存在しているかどうかは判らない。つい、そんなことを考えつつ、わずか25分の笹薮下りで車へと戻る。(2014.9.21)

参考コースタイム】  林道車止め P 8:20 → 熊山頂上 10:15、〃 発 10:40 →  林道車止め P 11:05 (登山時間 登り1時間55分、下り 25分)

メンバーIkkoさん、saijyo、チロロ2

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