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      熊野(751.4m)

雷電海岸からせり上がる熊野山

/25000地形図雷電

尾根の北面には待望の雪渓が

朝日温泉手前に車を置く
少し開けた古い植林地で一呼吸
少し開けた古い植林地で一呼吸
目指す熊野山が初めて見える
岩内市街や国道は近いのだが…

  道内には「熊野」と名の付く山が二つ、道北の他に雷電海岸の近くにもあることを、Ko玉氏からの電話で知った。雷電海岸を車で走ると、つい有名な太刀掛け岩へと目が移ってしまい、そのラインに続く高みには目が届かない。改めて、熊野山ということにスポットを当ててみると、確かに立派に山が見えてくる。熊野山は影の薄い、そんな山である。熊は隅であり、一般的には奥深い山間の地を示すことが多いようだ。この山は海岸からのアプローチが難しく、地形図を見る限りでは何れの川からの遡行も厳しそうだ。雷電海岸はアイスクライミングで有名だが、それだけ滝が海岸近くに落ちる、非常に取り付きずらい地形ということでもある。有名な紀伊半島の熊野には人里離れた未開の地といった意味があるそうだ。そう考えれば、明治期の測量官がこの地名を意識し、新たなる点名にこの名を使用したと考えても無理はなさそうである。

残雪が残るこの時期、雪渓を伝って行けば朝日温泉側からでも届くのではないかとの話となる。難攻不落のこの山へは一般的に考えうる一番容易なルートである。通行止めも考えて朝日温泉へと向うが、すでに51日から夏期営業に入っているとのこと。意外な雪の少なさに別の面から不安になる。朝日温泉からは754mピークから西に伸びる尾根上、601m標高点を目指し、雪がすっかり消えた南斜面を登る。取り付きからしばらくは間伐作業が行われたのか意外に登りやすい藪だが、それも徐々に混んでくる。必ず現れるであろう雪渓に期待、今シーズン最初の本格的な藪漕ぎで601m手前の少し開けた古い植林地に出る。ここまで約1時間、先を見上げても雪渓などまるで見当たらず、思ったよりも進まぬ距離に少々焦りを感じる。仮にこのまま頂上まで雪渓が全くなかった場合、間違いなくタイムオーバーとなるだろう。考えてもいなかったブヨの襲撃も受け、弱気の虫も騒ぎ出す。

熊野山へは雪渓を効率よくつないで 雷電海岸も眼下に
熊野山頂上にて 岩内湾の向こうには余別岳や積丹岳が見える

 601mと思われる地点からは稜線となり、傾斜が緩む。本格的な笹薮漕ぎとなり、昨年の岩平峠の経験から、決して古い枯れ竹で目を突かぬよう慎重に笹薮を掻き分ける。こんな場合にと100YENショップで用意した伊達メガネも、今回のまさかの藪漕ぎではさすがに持って来ていない。ふと見ると、笹薮の間から白いものがちらちらと見える。雪渓である。この時期の北〜東斜面は遅くまで雪渓が残っていることが多く、今回はそれに期待しての計画であった。現れた雪渓は、途中からは途切れることなく754mピークへと続いている。Ko玉氏から先頭を行く私へ「西條さん、いい仕事をしているね!」との言葉も飛び出す。スポーツ解説者がよく使う言い回しである。ここでこの選手がこういうことをしてくれれば…と誰もが考えるとき、期待通りにそれをやってのけた時の褒め言葉である。登頂への見通しが出てきて、Ko玉氏の喜びようが伝わってくるようだ。あまりの唐突さについつい笑ってしまったが、Ko玉氏と私、表現の違いこそあれ、どこか似たところがあるのかもしれない。強いて挙げれば、仕事ではないがそんな意識は少なからず持って山へ望む、ピークハンターであるというところかもしれない。

 ルートは754mピークから北へと稜線を辿るが、稜線の東側には豊富な雪渓が残っていることは判っている。焦点はその雪渓へ如何に少ない藪漕ぎで抜け出るかというところである。ピークまで登ってしまえば間違いなく反対側の雪渓へ抜けられるのだが、効率の悪いルートファインデングでもしようものなら笑われてしまいそうである。ちょっとしたプライドは時に効率の悪いルートを選んでしまうもので、結果的には754m頂上通過がこの日のベストであった。ただし、これは帰路で判ったこと。ズリ落ちそうな急斜面をトラバース、藪へ突入する。すぐに予想通りの東斜面・雪渓上に飛び出すが、もう少し上を回り込んでいれば雪渓はつながっており、余計な藪を漕ぐ必要はなかった。

754mピークから頂上までの稜線上には手強そうな根曲がり竹が密生している。それでも東斜面には途切れそうでなかなか途切れない雪渓が残っていて、それさえつないで行けば何とかなりそうだ。ただし、もう一週間遅れていたなら、とんでもない藪漕ぎとなっていたことだろう。結局、ぎりぎりまで東斜面の低い位置に残る雪渓上をつなぐというKo玉氏の意見で、頂上近辺にアプローチするが、私も全く同様に考えていた。私の考えていることが次々と言葉になって飛び出してくるKo玉氏、まるで私の考えるところを代弁しているかのようである。頂上まで300mを切りそうなところで、稜線上に出る。雪田が点在しており、後はそれをつないで頂上へと飛び出すだけだ。

 雪渓を大きく回りこんだ笹薮の一角に、三等三角点「熊野山」は顔を出していた。三角点からは笹薮しか見えないが、少し北側の雪渓上へ下ると岩内湾と積丹の真っ白な山々が望まれる。岩内市街から雷電海岸へと続く国道が眼下に見えるが、そこから直接この頂上に登って来ることは簡単ではない。正に近くにあって遠いピークである。今回の勝因を一言でいえば、途中から北面、東面を意識してルート選びをしたことだろう。この時期の山行の成否は、雪渓の残り具合をいかに見極めるかというところに尽きるような気がした。(2009.5.10)

    

【参考コースタイム】朝日温泉手前の林道 8:30 601m標高点 10:20 → 熊野頂上 11:45、〃発 12:10 → 754mピーク 13:05 朝日温泉手前の林道 14:30

(登り 3時間15分、下り 2時間20分)※下りにはアイヌネギ採取の時間も含む

メンバー】Ko玉氏、saijyo、チロロ2

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